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二三五 重い空気の会議室

 エレーシー達は大使の持参した紙を持って、普段幹部会議でも使っている会議室に入り、紙を中央に置いて協議を始めた。

「まあ……このままでは到底飲めないかな」

 エレーシーは腕を組みながら、重い口を開いた。

「……そうよね。もう地上統括府の一歩手前まで来ているんだから、もっと景気の良いことを書いて欲しかったわね」

 エルルーアは紙を見ながらため息を吐いた。

「割譲というのもどうかと思うけど、この『一部』というのも気になるね。どことは書いていない」

「これじゃあ、向こうの思うままで、逆にこの文言を巡ってまた戦いになるような文章だわ」

「ほんの僅かな土地だけ与えられて、それで終わりっていうのが、多分、地上統括府の思惑だろう」

「まあ、おそらくそうでしょうね。地上統括府や天政府人の性格から、それで済ませるでしょうね」

 エレーシーとエルルーアの会話を聞いていたフェルファトアも思うところがあるようで、間に割って入った。

「これを認めると、ミュレシアの中にずっと天政府領が存在し続けることになるんでしょう? これじゃあ安心して統治できないわ」

「それに、ルフェントハネヤ街道は地上統括府が自由に使えるって? 街道沿いの街では、これまでのような天政府人による虐待がそのまま横行しそうな気がするね」

「第一、いつ天政府軍が協定を破るかもしれないわ。ミュレシアに中途半端に同居しているようじゃ、おちおち寝られないような政治をしないといけない」

「そもそも、私達はミュレシア全土の奪還を求めているんだ。割譲とか、そういう中途半端なことはまずありえないと思っている。天政府人の支配する地に我々の仲間が取り残されるようなことがあってはならない。やるなら、全てだよ」

 エレーシーは身振り手振りを加えながら、強い意思を示した。

「でも、今回のあの大使の提案で分かったわね。まだ地上統括府は、本気でミュレス民族にミュレシアを明け渡そうという気がないということが」

 エルルーアは少し伸びをしながら彼の提案をまとめた。

「うん、それは間違いないだろうね。まあ、今回の会議は完全に無駄だったような気がする」

「それじゃあ、大使にはこのまま帰ってもらいますか」

 エルルーアは提案をしつつ、二人の様子を見た。

「うーん……」

 エレーシーは少し考えていた。

「とはいえ、このまま無下に返しても良いものかな?」

「うーん……向こうの大使は、一旦、停戦協定を結んで、そのままこの条件で終戦に持っていくことが使命でしょう? そう易易と帰るとは思えないわね」

 フェルファトアは大使のことを少し配慮しようとしていたが、エルルーアが割って入った。

「でも、ここまで戦ってきて、せいぜいこれを修正した程度の内容でこれに署名するのは、仲間に対しても申し訳ないわ」

「それはもちろん、そうだよ。私達は全員、天政府人を介さない、ミュレス民族による、ミュレス民族のための国を再興しようということで動いているんだから、中途半端な結果での終戦は許されない。ただ、彼をこのまま市役所から叩き出すように帰すと、それを期に天政府軍が攻めてくるような気がしてならないなあ」

 エレーシーは大使を帰した後のことを考えていた。

 ある程度、地上統括府への攻撃について作戦を立てている中で、急な横入りが入る要因はできるだけ減らしておきたかったし、無駄に煽るようなこともしたくなかった。

「でも、彼の提案が受け入れられない以上、私達は天政府軍の攻撃にも立ち向かうしか無いんじゃないかしら?」

「う、うん……」

 エルルーアの言葉に、エレーシーは押し切られそうになった。

「だけど、本部のあるルフェンティアが攻撃されるならまだ良いけど、他の都市がさらに攻撃を受け始めるかもしれない。エルルーア、これが終わったら、全国の守りを強化しないといけない。それでもいいね?」

 エレーシーはエルルーアの覚悟を計った。

「確かにそうかもしれないわね。それはもちろん、守りは強化する。でも、地上統括府は天政府がミュレシアを支配するための拠点だし、私達はそれとは別に、地上統括府を奪還することが一番だわ」

 エルルーアの言葉に、エレーシーは首を縦に振った。

「フェルフ、エルルーア。彼がルフェンティアを去った、その時から、我々はこの数年にも亘る戦いの中で、最も慌ただしくなるだろう。『次の戦い』とは間隔を空けてはおけない。彼を帰したら、すぐに次の作戦について会議を設けて、作戦を固める。そして、できる限り早く、作戦を決行する」

「ええ。分かったわ」

 フェルファトアは、エレーシーの言葉に快諾した。

「逆に、彼が来たことで、ある意味終戦は近づいたかもしれないわね」

 エルルーアは自信ありげにエレーシーに言葉を返した。

「それじゃあ、行こうか」

 エレーシーは二人の答えを確認すると、再び応接室に戻る決意をした。

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