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二三四 地上統括府大使との会談

 今回の会議のために設定された部屋は、会議室というより応接室といった様子の、割と小さめの部屋であった。

 そこは普段、エレーシー達参謀長以上の幹部が食事の時に使っているような部屋で、四角い机を挟んで椅子が対面になるように置かれている、非常に簡素な部屋だった。

 そして、大使が初めて部屋に入ってもどこに座るか分かるように、部屋を入って近い方には椅子が三脚用意されているのに対し、机の向こう側には椅子が一脚しか用意されていなかった。

 大使とミュレス大国軍の3人が入ると、続いてアビアンとフェブラが入室し、アビアンが扉を閉め、二人で扉の横に待機することになった。

「それでは、どうぞ」

 フェルファトアが声を掛けると、大使はそれに従い、扉から遠く一脚しか無い方に腰掛けた。

 そしてミュレス大国軍側であるエレーシー、フェルファトア、エルルーアの3人も、ゆったりと座った。

「……」

「……」

 両方とも席に着きはしたものの、特に話題もなく、冷たい空気だけが流れた。

 次第に、大使がエレーシー達の顔をキョロキョロと見るようになったが、エレーシー達は表情を一切変えずにじっと大使の方を見ていた。

 その様は、まるでなにかの我慢比べでもしているかのようであった。彼女たちの作戦はこんなところからも始まっているかもしれなかった。

 大使は重苦しい空気にたまらず、咳払いをして話を始めた。

「私がここに来たのは、まず、貴女達に停戦に応じてもらいたいということで来たのだ」

「停戦……」

 停戦とは、お互いが現在の戦闘状態を一時的に停止することを意味する。

 ミュレス民族を力で制圧したいという天政府人や地上統括府からこのような提案が出るとは、さすがのエレーシーも驚いが、これも自分たちがこれまでやってきた戦闘で、天政府軍や地上統括府を相当追い詰めていることの証だと悟った。

 しかし、そのようなことを表情に出さず、エレーシーは意図的に冷たい目を送りながら答えた。

「停戦ですか。その意図は?」

「我々地上統括府と、ミュレス民族が講和条約を結ぶためである」

 エレーシーはふと動きが止まった。

 しかし、これは講和条約という初めて聞く言葉から彼の意図がよく汲み取れなかったからで、その言葉の意味はそばにいたエルルーアに教わり、ようやく意図が掴めたようだった。

「なるほど……停戦とは言いますが、この戦争を終結して清算するということで、よろしいですね?」

「概ね、そういうことになる」

 エレーシーは大使の、いかにも天政府の役人然とした彼の言葉をあまり良く思わないながらも、とりあえず話は聞くことにした。

「そうですか。貴方が天政府軍や地上統括府の代表として聞いて良いんですね?」」

「ふむ、条件については、地上統括府総司令官からある程度のことは聞いているし、その他は私に一任されている。だから、私の発言は地上統括府総司令官の言葉だと聞いてほしい」

「なるほど」

 エレーシー達は大使の話に耳を傾けつつ、隣りにいるフェルファトアとエルルーアの顔を見ながら、これからどういう方向に話を広げようかと考えていたが、その時、大使が再び話を始めた。

「私を含め地上統括府は、天政府人とミュレス民族が共存できる国にしたいと思っている。今は我々とミュレス民族は対立しているが、今後、友として、一緒にミュレシアを再興していきたい」

 大使はエレーシー達に歩み寄っているように思えるが、エレーシーは彼の言葉に引っかかりを感じた。

 というのも、エレーシー達が目指している国、ミュレス民族が求めている国は、「ミュレス民族が導くミュレス民族の国」であって、「外部から来た天政府人とミュレス民族が共存する国」ではない。

 また、これまでの天政府人の態度を見るに、口ではこのように言っていたとしても、早晩、ミュレス民族が天政府人に隷属する関係に戻ることは目に見えていた。

 ここまでねじ曲がってしまった両者の関係は、上の者がどうこうしたからといって、簡単に変えられるものではない。

 それに、地上統括府には天政府本国という更に上の存在がある天政府人とは、政治の分野でも共存すると、また乗っ取られることは容易に想像できた。

 ミュレシアはミュレス民族の土地であるし、それを地上統括府とミュレス民族政府が同居することは、彼女の目指す像とは程遠かった。

 大使は次々と持論を展開していたが、エレーシーはそれを聞いているうちに、「この終戦協定はあまり上手い方向には進まないな」と考えるようになっていた。


「それで、貴方達の条件は?」

 エルルーアが大使の話を遮った。

 大使は一瞬、不満の顔を見せたが、すぐに取り繕って事前に用意していた紙を取り出した。

「こちらが、我々からの条件となる。ここから協議して、双方納得できる内容にしていきたい」

 エレーシー達は三人で、大使の持ってきた紙の内容に目を通した。

 そこには、以下のような内容が書かれていた。


 ・天政府軍は、ミュレス民族私設軍への攻撃を停止する。

 ・ミュレス民族私設軍は、天政府軍への攻撃を停止する。

 ・地上統括府は、ミュレス民族にミュレシアの一部を割譲する。

 ・地上統括府は現在の場所に置いたままとする。

 ・ミュレス民族はシュビスタシアもしくはポルトリテに中央政権を置く。

 ・地上統括府は、ルフェントハネヤ街道、ルフェントハネヤ川およびエルヴァンペシア港を使用できる。


 この内容に、エレーシー達はその場では言葉に出すことはなかったが、少し怪訝そうな顔を見せあい、目で次の行動を指図した。

「なるほど、そちらの要望は分かりました。ただ、貴方の訪問は急だったので、これからこちらで協議させていただきます。ここで少々お待ち下さい」

 エルルーアは淡々とそう言い放つと、ミュレス大国軍の三人は黙って席を立ち、部屋を出ていった。

 そして、この部屋にはアビアンと大使の二人が残された。

 突然の退室に、大使は狼狽した表情でアビアンの顔を見たが、アビアンは扉の隣に立ったまま、使者に憐れみの笑顔を浮かべつつ、話をしようともしなかった。

 アビアンはエレーシー達の雰囲気から、今回の会議の行く先を察していたようだった。

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