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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第九章 エルルーア参謀長・第二八節 ルフェンティア攻略と緊急参謀会議
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二三二 第二次ルフェンティアの戦い4

「統括指揮官、こちらです! こちらが市役所です!」

 先導役の兵士が小走りで案内した先にあったのは、都市の規模にしては小さめの、3階建ての建物であった。

「これが市役所?」

「はい。3階の奥に市長室があります」

「なるほど、それはよくあることね。中の様子も分かる?」

「はい!」

「じゃあ、早速案内してくれる?」

「分かりました、こっちです!」

 そう言って兵士は即座に市役所の玄関へと走り出した。


「よし、奪還するぞー!」

 フェルファトアが市役所の玄関を勢いよく開けると、深夜ということもあり、中にいる天政府人の姿はそれほど多くなかった。

 しかし、中にいた天政府人は全員軍の兵士らしく、武装した状態で番をしていたようだった。

 この数であれば、フェルファトアが率いるミュレス大国軍の兵士の数を考えれば、このままの勢いを維持できそうだと考えつつ、そのまま上の階を目指すことにした。

「4から6班は1階、7から10班は2階! 1から3班は私と一緒に3階へ!」

 フェルファトアはてきぱきとそれぞれの班に指示を出した。

 ひとまず、この市役所を奪還するためには天政府人を全員この建物から追い出す必要があった。

 外から天政府軍が入ってくる前に、この市役所を奪還し、暫くの拠点とする。

 そのために、今回は下から順次追い詰めるいつもの方式ではなく、一気に展開する方式を取った。

 これも、辺りが暗い夜で天政府人よりミュレス民族の方に利があるからこそできることでもあった。


 フェルファトアは主力部隊の兵士達とともに、他の階には脇目も振らず、最上階にある市長室までたどり着いた。

 フェルファトアと主力部隊長は、3階に着くと軽く会話をした。

「この街は要塞化した街よね。それなら、市長も天政府軍なんでしょう?」

「多分、そうだと思います」

「じゃあ、地上統括府から来てるのかしら」

「それは分かりませんね」

「……まあ、いいわ。それじゃあ、行きましょう」

 適当なところで会話を打ち切ると、市長室に向き直り、一呼吸置いて市長室の扉を開けた。


 中には一人の天政府人が座っており、ひと目見ただけで市長だと分かった。

「捕獲!」

 フェルファトアの一声で、主力部隊員が市長の周りをぐるっと囲い込み、次の瞬間には縛られて退室されていった。

 これまでの戦いの困難に比べれば、実にあっけない瞬間となった。

「皆、とりあえず、ルフェンティア奪還に成功したわ!」

 フェルファトアが剣を振り上げて宣言すると、周りの兵士も声を上げたり、拍手したりして自らの功績を讃えた。

「さあ、ここからが本番よ」

 お祝いの雰囲気の中、エルルーアが手を叩いて場を引き締めた。

「皆、これから天政府軍から防衛が必要になる。折角奪還したのに、再び天政府軍に奪還されるということがこれまで何度もあったわ。そうなる前に、こちらは防衛を徹底しなければならないわ」

「はい!」

 エルルーアは兵士の応答を確認すると、フェルファトアの方に目配せをした。

「皆! これから作戦の次の段階に進みます! 1班、3階総点検! 2班、3班、階下の援護!」

「はい!」

 フェルファトアがそれぞれに指示をし、そして幹部や伝令役の兵士達を総動員して、現在の戦況の把握と作戦の伝達に徹した。


 それからルフェンティアの街に、他の街よりも遅い朝が訪れた。

 ミュレス大国軍は天政府軍の兵士達を全て街の外に追い出すことに成功し、そしてどこかに天政府軍が隠れていないか全ての建物を改め、それをもってルフェンティアはミュレス大国軍のもとに奪還することが出来た。

 市役所の前には、多くのミュレス大国軍の兵士達が集まり、市役所の前にはエレーシーとフェルファトアが立っていた。

 まず、エレーシーが一歩前に出て話を始めた。

「皆! 私達はついに、ルフェンティアの街を完全に奪還することに成功した!」

 改めてエレーシーが宣言をすると、兵士たちは一気に湧き上がった。

「思えば、前回の大敗は非常に苦しいものだった。仲間もかなり失った。しかし、それをばねにして、私達は今回、絶対に負けることは出来ないと、前回以上に、非常に綿密な作戦を立て、皆も作戦に従って成果を上げてくれた。そしてなにより、全員の執念でもって、今回、ルフェンティアの奪還を果たすことが出来た! 皆、夜を徹しての戦い、お疲れ様! 皆、ゆっくり休んでほしい。そしていよいよ、この3年間にわたる戦いの仕上げが近づいていく。またその時に備えて、この街でゆっくりと過ごして欲しい」

 エレーシーの言葉に、兵士たちから拍手が沸き起こった。

 そして次にフェルファトアが前に出た。

「皆、昨日、今日はお疲れ様! 今回の勝利は、皆で掴み取ったものです。でも、まだまだ戦いは続きます。しかし、これで打倒地上統括府、そしてミュレス民族の国家を作るという私達の目標まで、また一歩近づいたことになります。これからも、気を抜かずに、目標達成のため、皆で頑張っていきましょう!」

「はい!」

 フェルファトアが話を終えると、ワーヴァがこれからの事務的な手続きについて説明をして、その場は解散した。

 まだ朝方ではあったが、誰もこれから眠ろうという人はいなかった。

 興奮冷めやらぬまま、幹部達は朝の会議を行うこととなった。


 会議では、ルフェンティアを最前線としてここを本部の拠点とすることと、この街がミュレス大国軍と天政府軍が一番間近で向き合う危険な街であること、そして、散り散りになったルフェンティアの市民を呼び戻すような余裕がないということで、要塞都市と化したルフェンティアは、そのままミュレス大国軍だけの街として、最後まで運用していくということが決定した。

 会議の後、エレーシー、フェルファトア、エルルーアは市長室に残り、立ち話をした。

「フェルフ、お疲れ様」

 会議が終わると、エレーシーが一番にフェルファトアをねぎらった。

 戦いの後、これまで言う機会がないほどに予定が詰まっていたが、今になって、ようやく落ち着いて話をすることができた。

「エレーシー、今回は流石に、今まで以上に緊張したわ」

「まあ、仕方がないよ。今回は特に、絶対に負けられなかったからね」

「それにしても、作戦がうまく機能したのが結構手応えね」

「確かに、作戦が機能したおかげで、私も急な計画変更を迫られることもあまり無かったし、皆を信頼して好きに動いてもらえたよ。これもエルルーアの参謀会議のおかげだね」

 エレーシーはエルルーアの方を向いて微笑んだ。

「いや、それほどでも。あくまで結果よ」

 エルルーアも少し笑いながら答えた。


 ふと、エレーシーは窓から、北側に伸びるルフェントハネヤ街道を眺めた。

「この先には、いよいよ地上統括府市があるのか……」

「そうね。そして、そこに地上統括府がある」

「このミュレシアを司る、天政府本国直属の機関だったよね」

「確か、そうね」

「いよいよ、次の目標は地上統括府市の奪還か……」

「これまでは市役所を奪還することで、役所機能を取り戻すことで奪還としてきたわね」

「まあ、役場が街の中心だからね」

「でも、今度の地上統括府市は、府の直轄だから市役所は無いわ」

「ということは……」

「ええ、地上統括府、それ自体の奪還が、地上統括府市の奪還になるわね」

「それは、ミュレシア全土を掌握することにもなるね」

 エレーシーはフェルファトアの言葉から、いよいよここまで来たかと、天を仰ぎ見ながら呟いた。


 次はいよいよ、地上統括府が標的となる。

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