二二八 メルヴェマル参謀会議4 ルフェンティアの分析と次の作戦
「今回、このように敗北したことと、これまでの中でも高い損耗率となった原因は、敵の天政府軍の戦力を正しく推し量れていなかったこと、そして私達の戦力と上手な比較ができないまま作戦を立ててしまったことにあるわ。でも、私達は今回の戦いで何も得られなかったわけではない。自分の肌で、相手の戦力について触れることができたこと、これが唯一の私達の戦利品となったと思う。というわけで、天政府軍の戦力について分析しましょう」
エルルーアは、また机上の地図を指差した。
「では、ティアラ」
「はい!」
エルルーアから指名された作戦担当のティアラはその場で椅子から立ち上がり、用意した書類を見ながら説明を始めた。
「総司令官や統括指揮官、主力部隊や後方部隊の隊長から前の戦いについてお話をお聞きした結果から、天政府軍のルフェンティア駐留部隊と別働隊について戦力について分析してみました。確かに、天政府軍のルフェンティア駐留部隊は数こそ私達のほうが多いですが、一人ひとりの力量には圧倒的な差があるようです。また、装備についても、これまでに交戦した天政府軍と比較しても良質な武器を装備している兵士が多いのが特徴です。こちらの武器は数量が間に合わせで、種類も品質もバラバラですが、天政府軍の武器は、種類は様々で、品質は平均的に高く安定しています。また、一人ひとり、それぞれに合った武器を使用しているようです。」
「私達も、それなりに適性に応じて配置と装備の見直しはしているわよね?」
「はい、もちろん。私達も適材適所の配備には心がけているつもりですが、そもそもの資源の多寡が効いてきているようですね」
「なるほど……」
「それに加えて、例の新兵器の存在によって、天政府軍も簡単に遠距離攻撃を行えるようになり、それがより強力な攻撃力に拍車をかけているようです」
「うーん……確かに私達もその新兵器の被害もなかなか大きいのよね」
「ただ、新兵器については一つ、突破口とも思える証言があります」
「それは何?」
「どうやら、ルフェンティアの駐留部隊はその新兵器をある程度纏まったところに置いて、そこから取り出しているようです」
「なるほど、それは作戦に活かせそうね」
ティアラは再び続けた。
「そして、ルフェンティアの街を囲むように天政府軍の兵士が囲んでいましたが、再度、偵察部隊の話を聞いてみると、一日を二つに分けて、日中部隊と夜間部隊の二部隊が交代しながら見張りを行っているようです。それを考えると、結構な数の兵士達がルフェンティアの市内にいるようですね」
「なるほど、防衛部隊とはいえかなり大きな組織だわ」
「そして、ベルターラ街道から来た天政府軍の部隊についてですが、こちらも後方部隊の方々からお話を伺った結果、こちらは感覚にはなりますが、大体3~400人規模の隊であったとのことです。力量についてはあまり情報はありませんでしたが、少なくとも、こちらの部隊は新兵器は持っていなかったようです」
「うーん、でも、持ってはいた可能性はあるわね。使わなかっただけで……」
「その可能性はありますね」
「次に、ルフェンティアの地理的関係ですが……」
ティアラはおもむろに机上に広げられた地図を手にすると、エルルーアのいる方向が南になるように広げ直し、手には資料を携えて再度説明を始めた。
「皆さんご存知のように、ルフェンティアはルフェントハネヤ街道の途上にある街で、街は壁に囲まれています。そして、谷あいにある街ですので、左右は山と山に挟まれています。また、元市民の情報によると、南北に細長い街であるとのことです。そして、街道の西側は森が広がり、東側には川が流れていますが、この森は北側の出入り口までずっと続いているようです。」
「つまり、ルフェンティアはもともと、森の中に作られた街だったということ?」
「ええ、そうなりますね」
「それはまた、すごいところに街を作ったわね」
「そして、ルフェンティアから少し南に下ったところにベルターラ街道との分岐点があるというのは、皆さん痛いほどよく知っていることかと思いますが……」
「ええ、痛感しているわ」
『実は、ルフェンティアの街にはもう一つ、西側に小さな通用門があるようで、そこからベルターラ街道までを結ぶ未整備街道が存在するようです」
「えっ、そんなものがあったんですか?」
一人の隊長が思わず声を上げた。
「はい。これは一部のルフェンティア市民しか知らなかったのですが、正規の道はどちらかというと海の方に早く下るように、少し南に合流地点を設けているのですが、天政府人がルフェンティアからベルターラに行くときに、わざわざ南に下ってから西に行くのが面倒だということで、近道を作っているということでした」
「その先にベルターラ街道から来た部隊が駐留していたのかもしれないわね」
「それはあるかもしれませんね。さて、以上が作戦部隊からの天政府軍の戦力分析とルフェンティアの地理的関係の分析です」
「ありがとう、ティアラ。……さてと、それではこれまでの分析結果を考慮して、次の攻撃作戦を立てましょう」
エルルーアはさらに眼光を鋭くして、出席者達の顔を見た。
いよいよ次の戦闘を見定めるための議論に入る。
出席者達は一層背筋を伸ばして議論に挑んだ。
ここからも、ワーヴァとティアラの両参謀副長がエルルーアを補佐しながら、次の戦いへの作戦を必死に詰めていった。
今回は、前回と違って一回行ったことがある場所に赴くということから、作戦の解像度も数段高まっていった。
また、土地の状況もおおよそ把握できていることから、前回では出来なかった作戦も取ることが出来、作戦の幅が広がったように感じた。
参謀会議は、夜を迎えたことで一旦解散したが、翌朝にはまた集まり、二日かけてようやく全員が納得できるような作戦を立てることが出来た。
「皆、長い会議お疲れ様。早速だけど、作戦でも決まったように、出発はあさっての朝になるから、今日、明日は出発の準備に徹して、戦いに挑む最高の状態で出発できるようにしましょう!」
「はい!」
「それでは、解散します。お疲れ様でした」
エルルーアの言葉で、参謀会議は解散した。
「エルルーア、お疲れ様」
参謀会議が終わり、後片付けが終わった後、エレーシーはエルルーアに声を掛けた。
「ああ、エレーシーさん。ようやく次回の作戦が決まったわね」
エルルーアは疲労を隠すように、冷静に返事した。
「疲れたでしょうし、今日はこれから一緒に夕食にしましょうか」
「うーん、ああ言った手前、酒は……」
フェルファトアの誘いに、エルルーアは少し渋った。
「もちろん今日は酒は無し。夕食兼幹部会議ということで、会議室で夕食にしましょう」
「分かったわ。それじゃあ、そうしましょう」
エルルーアが快諾すると、三人は会議室に移って夕食の準備を始めた。
これからルフェンティアを奪還するまでは、ミュレス大国軍はすべてを戦闘に割く戦闘状態になる。
参謀会議の中でも話に上がったが、こうしてミュレス大国軍が会議を開いている間にも、天政府軍側でも対策を進めていることは間違いなかった。
結局は、ミュレス大国軍と天政府軍の、力と作戦のぶつかり合いがまた始まることに過ぎなかった。
次の戦いは、既に始まっている。




