表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第九章 エルルーア参謀長・第二八節 ルフェンティア攻略と緊急参謀会議
229/285

二二四 ルフェンティアの戦い3

 だが、悪いことは続くものであった。

「総司令官! 向こうから敵襲です!」

 情報部隊の兵士がエレーシーのもとにやってきて、その一言だけを報告した。

 彼らは、先程エレーシー達が少し気にした分かれ道の方、ベルターラ街道に偵察しに行かせていた部隊だった。

 その彼らが、緊急の情報を持って帰ってきた。

「ベルターラの方からも?! ……しまった、やられたか……!」

 エレーシーはこのベルターラ街道の方に意識が向いていなかったことを後悔した。

 地図では確認していたが、偵察部隊の話を聞いたときから、ずっと、ルフェンティアの要塞の方にばかり注意が向いていたことに、この時点で気がついた。


 しかし、事ここに至っては、この状況に対処する必要があった。

「前方にルフェンティアの防衛隊、後方からベルターラ方面からの部隊……」

 ここから導き出される未来は、エレーシーにとって恐ろしいものだった。

「エルルーア!」

 エレーシーは急いでエルルーアを呼び寄せた。

 一刻も早い、そして間違いのない判断が求められた。

「ベルターラの方から天政府軍が来ている。このままだと私達は挟み撃ちに遭ってしまう」

「何ですって?!」

 この時ばかりは、冷静なエルルーアも焦りの顔を見せた。

 そして、エルルーアがベルターラ街道の方に目をやると、実際に凄まじい勢いで山を降りてくる天政府軍の姿が見えた。

 既に、後方では戦いが起きているようだった。

「前方のルフェンティア要塞でも苦戦しているのに、後方部隊は攻撃が主担当じゃないわよね?」

「後方部隊は支援が主になっている。攻撃の要は全て、ルフェンティア攻略に向いているよ」

「それじゃあ、後ろから崩されるのが落ちね……」

 エレーシーはこの周りの地形や自軍の戦力分布など様々な情報を思い出し、そして判断すべき時が来ていた。

「うーん……ここは仕方がない。一旦撤退しよう」

「撤退……」

 エルルーアは一旦残念がってみせた。

「前回の天夢戦争の終わり方を見るに、ここで全滅はどうしても避けたい。全滅するくらいなら、早く撤退して、次の作戦を考えたほうが良い。残念なことだけど、私達は何回も負けている。だけど、その度に戦い方を変えたりして打破してきた。これ以上ここにいても、犠牲を増やすだけだろう」

「……分かったわ。そうなれば、フェルフさんにも伝えないと……」

 エルルーアはそう言うと、フェルファトアのいる方向に向かって走っていった。


「フェルフさん!」

 エルルーアはフェルファトアを見つけると、大声を上げて呼んだ。

「エルルーア、こっちは大変よ」

「後ろも攻撃が始まって、挟み撃ち状態。エレーシーさんは撤退の判断を下したわ」

「撤退……!」

 フェルファトアは、これまでこの劣勢の状況をどう立て直そうかと苦慮していたが、挟み撃ちになっていると聞いて、ついに観念したようだった。

「撤退の作戦もあったよね」

 フェルファトアはエルルーアに確認の意味を込めて聞いた。

「一応、考えていたわね」

「今、それを使う時だわ!」

 フェルファトアは剣を振り、隊長達に撤退の意思を示した。

「ちょっと、皆に伝えてきて」

「は、はい!」

 そこからミェレス大国軍は撤退に向けて慌ただしい動きを見せた。

 主力部隊は二分され、一方は弓矢部隊や特殊能力部隊の間を割って最後尾に周り、退路を塞いでいる天政府軍を薙ぎ払い、逃げ道の確保を行った。そして他方は、これを好機と見た天政府軍が追ってこないように、最低限度の防御を行った。


 完全に身動きがとれなくなるという最悪の事態は避けることができた。


 それからは全員が必死だった。

 眠ることもなく、とにかく天政府軍から距離を置くために、安心して体制を立て直せるところまで撤退するために、疲弊した体にムチを打ちつつ街道をひたすら南下し続け、メルヴェマルの街についたときには、朝日が既に顔を出していた。


「ワーヴァ、兵士達の数はもう数えた?」

「ええ、やっぱり……」

 ワーヴァは明言は避けたが、その被害は決して小さくはなかった。

「もう皆、宿屋に入れた?」

「ええ。皆さん、宿で寝ていると思います」

「そう……」

 エレーシーは心ここにあらずといった様子であったが、この時、今回の戦いを顧みていた。

 今回の戦いは絶対に負けられない、そう戒めて赴いた戦いであった。

 しかし、結果は惨憺たるものであった。

 エレーシーはこの結果を重く捉えた。

 そして、このルフェンティアの攻略は、地上統括府を攻略するにあたっては避けられないものであり、再戦は必至だった。

 次、また敗北することは、たとえ今回が許されたとしても許されなかった。

「……エルルーア、ここでまた参謀会議を開いてみてはどうだろうか?」

「参謀会議ね……そうね、確かに、ここで参謀と隊長で一緒になって作戦を練り直したほうがいいかもしれないわね」

 エルルーアもエレーシーの提案に賛同した。

 彼女もこの戦いの難しさを痛感したのだろう。

「私達が手をこまねいている間に、天政府軍も対策する時間を与えてしまうかもしれない。今後の方針は一日も早く決定する必要がある。参謀会議はできる限り早く開こう」

「そうね、分かった。できる限り早く招集するわ。でも、その前に今回の戦いを分析する必要があるから、開催日はそうね……明後日にするわ。今日と明日で分析するから」

 エルルーアは矢継ぎ早に次の日程をエレーシーに提案した。

「よし、それでお願い。分析もよろしくね」

「ええ。エレーシーさんにもお願いすることもあるかもしれないから、その時はお願いね」

「分かった。皆も、次の戦いのため、忙しくなるからね」

 エレーシーはフェルファトアやアビアンに覚悟を決めさせた。

 この時から、次のルフェンティア攻略は既に始まっていたといっても良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=onツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ