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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第九章 エルルーア参謀長・第二八節 ルフェンティア攻略と緊急参謀会議
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二二二 ルフェンティアの戦い1

 エレーシー達は直々に兵士達を引き連れて、ルフェントハネヤ街道を北に進んでいた。

 この街道の先には、ルフェンティアという街がある。


 しかし、その前にメルヴェマルという、もう一つの街があった。

 事前の偵察では特に情報は無かったものの、エレーシー達はこのメルヴェマルで天政府軍の急襲に遭遇することになった。

 どこかからミュレス大国軍の行軍情報が漏れているのかもしれなかったが、それについて話し合う機会もなく、とにかく目の前の戦闘に集中してメルヴェマルの奪還に徹するしか無かった。

 その結果として、エレーシー達はなんとかメルヴェマルを奪還することはできた。

 しかし、これは全く計画外の戦闘であった。


 本来、ルフェンティアで使いたかった戦力を、ここで消費することになってしまった。

 エレーシーは一抹の不安を感じながら、メルヴェマルで少しでも多く休養を取って戦いの疲れを回復しようと試みた。

 それには数日を要したが、これはもはやルフェンティアで目に見える敗北を喫しないためには、必要不可欠なことだった。

 エレーシーは作戦の遅れを気にしながら、急いでメルヴェマルを出発し、改めてルフェンティアに向けて出発した。


 メルヴェマルを出発して二日目の昼。

 エレーシーとフェルファトアは長い隊列を先導するように歩いていた。

 この形態はミュレス大国軍がどれだけ規模が大きくなっても変わらない(唯一、シェルフィアやメルンドへの遠征が例外ではあった)。


 もちろん、この体制の欠点もエレーシー達は承知済みだ。

 これがティナの暗殺を招いたことも分かっていた。

 しかし、次のルフェンティア、そして、その先にある地上統括府市の制圧、地上統括府の打倒は、自分たちの活動の根幹だという意識が高く、どうしても帯同せずにはいられなかった。


 エレーシー達が歩いているルフェントハネヤ街道は、ルフェントハネヤ川が織りなす谷あいを、川に寄り添うようにして設けられた街道である。

 街道を北に向かって歩いていると、常に右側に川が流れていた。


 間もなく天政府軍がいると偵察部隊が言っていた領域に入っていく時、エレーシーはルフェントハネヤ街道から分岐する別の街道が目に入った。

 その街道は、森の中を突っ切るようにして西の山の方に向かっているように見えた。

「ここに分かれ道があるね」

 エレーシーは隣にいたフェルファトアに話しかけた。

「ああ、この街道。たしか、ベルターラの方に続いている街道ね」

 さすが、全国に教科書を売り歩いていただけあって、フェルファトアはこの街道のことも知っていた。

「こんな山の中に街があるんだ」

「というより、山と山の間に街があるのよ。川もトゥリフニア海の方に流れているし」

「じゃあ、こちら側とはあまり縁がないのかな?」

「天政府人は地上統括府の方から行くけど、ミュレス人はあまり通らないわね。でも、ベルターラはそれなりな街なのは確かね」

「ふうん、なるほど……」

 エレーシーはこの街道のことが少し気になった。

 しかし、なぜ気になったのかについてはあまり深く考えることもなく、ルフェンティアでの戦いに集中すべく、また再び歩みを進めた。


 しばらく歩いていると、遠くにルフェンティアの街を取り囲む壁が見えてくるが、エレーシーはそれよりも、周りの雰囲気が他の街道よりも明らかに違うことに気がついた。

 どことなく、大きな都市にしては静か過ぎる。

 それも、静かであるばかりでなく、ヒリヒリとした張り詰めた雰囲気に満ちている。

 大都市の近くにも関わらず誰も通っていないということ自体が異様だが、誰もいないにも関わらず、人の雰囲気に満ちていた。

「フェルフ、今までこんな事あった?」

「エレーシーも感じる? 今までにはない緊張感があるわね」

 二人は気を紛らわすように話をしていたが、目と耳は、敵がいつ出てきても対処できるよう、臨戦態勢に入っていた。


 いつ襲ってくるか?

 どこから襲ってくるか?


 やや狭めの街道を歩いているミュレス大国軍に対して、至るところに姿を隠しているかもしれない天政府軍の方が有利なのは目に見えていた。

 しかし、それでも進まざるを得ない。


「いつ敵が飛び出してきてもおかしくない」

 エレーシーの背後でそのような声が聞こえてくる。

 どうやら各隊長達も警戒しているようだった。


 いつもならば、このあたりで再び士気を上げるところだが、今回ばかりはしんと静まり、いつ戦いが始まってもいいように、誰もがその時を待ち望んでいた。


 どうしても先手を取りたい。

 エレーシーは内心でそのような思いも抱いていた。


「もうそろそろかな?」

 エレーシーはふと、フェルファトアに声をかけた。

「天政府軍の姿は見えないけど……」

「姿が見えてからでは遅い。一手目が大事だからね」

「でも、闇雲に狙うのは危険じゃない?」

「偵察部隊の話をもとに作戦を立てたから、その時に言っていたことを思い出せば大丈夫だと思う。右側は川だけど、左側は森だ。森から飛び出されてこっちがバラバラになったら一巻の終わりだよ。作戦は早いほうが良い……」

「そうねえ……どうかしら、エルルーア?」

 フェルファトアは隣にいたエルルーアにも聞いた。

「ええ、エレーシーさんの言うことも尤もだと思うわ。『不意打ち』なんてことになったら、最初から天政府軍が優勢になってしまうし、その前にこちら側から仕掛けたいところね」

 エルルーアの言葉に、エレーシーとフェルファトアは目を見合わせて頷いた。

 エレーシーの目は、現場責任者たる統括指揮官のフェルファトアへの信頼に満ちていた。

 フェルファトアは一つ、大きく呼吸をすると、剣を抜き、後ろを振り向いた。

「皆、行くぞ!」

 フェルファトアは意を決して声を上げた。

「おーっ!」

 その途端、一万にも匹敵する集団が一斉に速度を上げた。

 天政府軍は目前にいる。

 しかし、彼女たちには天政府軍がいないかのごとく、まるでルフェンティアの街に殴り込みをかけるかのように、大量の兵士がフェルファトアを先頭に動いていた。

 それをエレーシーはやや後方で全体を見つつ、全体を把握し、俯瞰しながら修正をかける。

 これは事前に立てた作戦のとおりであった。


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