二一六 トゥリフニア海沿岸部制覇
その後、フェルファトアの言う通り、昼を過ぎた頃に再び町役場へと足を運んだ。ただし、今度はフェルファトアの他、アビアン、フェブラ、フェンターラ、ヤルヴィアー、マルナといった幹部達だけである。
「改めて、こちらがミュレス大国軍北方派遣部隊の幹部です」
「皆さん、はじめまして」
「はじめまして」
彼女たちの形式張った挨拶を手短に終わらせると、早速話の本筋に入った。
「ところで、このメルンドでは天政府人や天政府軍の影響がそれほど無いということは、よく分かりました」
「ありがとうございます」
「だけど、地上統括府の重税や、地上統括府を通しての天政府本国への貢物の拠出には、お困り、と」
「ええ。その他にも、地上統括府発信の行動規制などもありますが、それは私のところで止めているところです。それも、いつまでごまかせるか分かりませんが」
「そこで、私達、ミュレス大国軍と共闘しません?」
フェルファトアは少し身を乗り出して、話を持ちかけた。
「共闘……ですか?」
この案にはラウメも興味を持ったのか、同じように前傾した。
「ええ。私達は地上統括府の打倒を目指して活動していますし、今はそれぞれの町で天政府軍からの防衛のため、各都市に駐留部隊を置いています。そこで、このメルンドにも駐留部隊を置きませんか?」
「駐留部隊……しかし、そんなところを地上統括府の天政府人に見られでもしたら……」
「そこは大丈夫です。我々はすでにシェルフィアを奪還していますので」
「そういえば、そうでしたね。分かりました、ぜひメルンドに駐留してください。一応、あまり目立たない形で……」
「ありがとうございます。あと、我々は軍の兵士も募集しているのですが……」
「なるほど、それは徴兵ではないですよね?」
「はい。自由意志での参加です」
「なるほど……まあ、町の皆さんも思うところがある人もいるでしょうし、どうぞ、募集活動もしてください」
「ああ、ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」
ラウメとの話も落ち着いたことで、フェルファトア達は満足げにしながら町役場を後にした。
「さあ、それじゃあ、駐留部隊の選定と兵士募集をしましょう。ヤルヴィアー、ここからは貴女の出番ね」
「あ、はい! 承知しました!」
ヤルヴィアーはフェルファトアの言葉に即座に応答し、臨時の人事部隊を連れて早速打ち合わせを開くと、兵士の選定と新規兵士の募集を展開させた。
しかし、ヤルヴィアーの努力とは裏腹に、兵士の募集に対するメルンド市民の反応は冷ややかなものだった。
多くの人が地上統括府の圧政へ理解は示すものの、天政府人や地上統括府への反発心やミュレス民族の自立と、自分の命とを天秤にかけた時に、どうしても自分の命の方を取る人が圧倒的に多かったのである。
それは、これまでの街とは違い、比較的平和なこの街では当然といえば当然かもしれなかった。
「統括指揮官……あの……兵士募集の様子があまり……」
ヤルヴィアーは恐る恐るこの状況をフェルファトアに打ち上げたが、フェルファトアは腕は組みつつ、ヤルヴィアーの言葉に一定の理解を示した。
「まあ、この街は平和だから、集まらないのも仕方ないわね。良いことではあるけれど……仕方がないわ。防衛を駐留部隊に任せて、私達は本隊に合流しましょう」
「統括指揮官、いいんですか?」
「それは、多いに越したことはないけど、ゼロというわけでもないし、いいんじゃないかしら?」
「まあ、統括指揮官が言うのであれば……」
「こういうこともあるわ。それよりも、天政府軍のものにならず、私達が駐留部隊を置けたということに意味があるんじゃないかしら。さあ、明後日にはエルネンベリアに帰りましょう。エレーシーが首を長くして待っているはずよ」
「はい!」
フェルファトアの言葉を聞き、ヤルヴィアーはフェルファトアの部屋を後にした。
そして、その後の夕食会で、明後日の出発が発表された。
彼女達は誰もが満足した顔で、メルンドを後にすることになったのであった。




