二一二 ヤルヴィアーの隊長時代
これでひとまずの方針は決まったということで、ヤルヴィアーはようやく眠る態勢に入っていたが、両隣の二人はそれを許さなかった。
「そういえば、ヤルヴィアーと話をする機会ってあまりなかったかもしれないわね」
フェルファトアは天井を眺めながら、突然ポツリと呟いた。
「ああ、私もそうかも。ヤルヴィアーって、いつ入ったんだっけ?」
それに乗っかるように、アビアンも言葉を重ねた。
「え、オレですか。入ったのは……ヴェルデネリアでの戦いの後からですかね」
「ああ、それじゃあ、西軍の時ね。その時は私が西軍の統括指揮官だったから、今と変わらないわね」
「でも、その時はヤルヴィアーは一般兵卒でしょ? 最初に立ち上げた私やフェルフは最初から幹部になってるけど、一般兵卒から幹部までというのはなかなかないんじゃない?」
「うーん、そうね。今は軍の規模が大きくなっているから、兵士叩き上げの幹部もいるけど」
「ヤルヴィアーはどこの隊にいたの?」
「オレは最初は主力部隊で、その後に後方部隊の隊長になりました。そして、フィルウィート郊外の事件の後に、南部隊の隊長になって、それがきっかけで、今のエレーシー総司令官が軍幹部に指名してくれたんです」
「なるほど、後方部隊の隊長からかあ。そういえば南部隊って、例のイシェルキアとかいう天政府人を捕まえて手柄を上げたんだっけ?」
「そういえばそうだったわね。もっとも、あの時の三方展開の時は、北も東も同じように成果を上げてくれたし、その臨時部隊の隊長に選ばれた時点で、幹部候補みたいなものだったけど……」
「そうなんですね」
「今はどんなことをしているの?」
アビアンは布団の中でくるりと回り、ヤルヴィアーの方を向いた。
「今はワーヴァ参謀副長の下で人事管理を担当しています。あと、ティナ・ヴェステックワ参謀がシュビスタシア市長として活動している関係で後方部隊の担当が出来ていないので、彼女の代わりに今も後方部隊の世話をしています」
「そう、ヤルヴィアーは忙しくなるから申し訳ないとは思ったんだけど、二担当兼任してもらってるわ」
「兼務かあ……そういえば、ワーヴァもそうだよね」
「いやあ、幹部もおいそれと増やせないし……」
「まあ、皆大変だよね。私も総司令官補佐と行政担当参謀と弓矢部隊総指揮で忙しくしているけど。そういえば、ヤルヴィアー、隊長時代と比べてどう?」
「隊長時代とですか?」
「確かに、それは気になるわね。隊長以下実働部隊と私達のような管理部隊は、今では宿も別々だからどう過ごしているかわからないし……」
フェルファトアの言葉に、弓矢部隊や主力部隊と同じ宿で寝泊まりしているアビアンは苦笑いしながら聞いていた。
「それで、どうなの?」
アビアンは身を乗り出すようにして、さらに聞いた。
「うーん、そうですね……一つ言えることは、隊長時代と幹部入りしてからは周りが全然違うということですかね」
「全然違う? まあ、そうよね」
「一番の違いは、やっぱり、周りが女性ばっかりという点ですかね」
「ああ、なるほど。確かにそうね」
「確かに、ルーヌが入るまで幹部は皆、女の子だったもんね」
「だから周りの様子が一変したなというのは感じましたね」
「なるほど、でも、後方部隊って、他の部隊よりも女の子が多いんじゃないの?」
「確かに、今は男女半々くらいにはなってるわよね」
「あー、でも、そうか。ヤルヴィアーは宿でも男の子の兵士達と一緒にいる時間が多かったよね」
アビアンは、ヤルヴィアーが後方部隊長だったときのことを思い出していたが、その時からそういう印象のようだった。
「あ、そうですね。確かに、自然とそんな感じになっていました」
「だから、余計にそう感じるのかもしれないわね」
「うーん、ヤルヴィアーは女の子といるより、男の子といるほうが安心なのかな?」
「えっ?」
ヤルヴィアーは、アビアンの言葉に、若干の図星と、この状況の中で、ましてや自分より身分が上の二人に挟まれている中で、どう返していいか、瞬時に頭を回していた。
「いや、うーん、まあ……そういうところも無いわけではないですけど……でも、苦手っていうわけじゃないので」
「そう、良かったわ」
「苦手だったらどうしようかと思ったよねー」
「ははは……」
ヤルヴィアーは二人が気づかないように、苦笑いした。
「でも、そうか。ポルトリテ攻略くらいまでは、宿屋じゃ兵士は男女一緒の部屋で寝泊まりしていたわよね」
「あー、そんなこともあったね。あの時は詰め込むだけ詰め込んでたよね」
「でも、副隊長は女の子だったでしょ? その時から、周りは女性っていう感じじゃなかったの?」
「やっぱり、隊にいると違いますよ」
「うーん、そういう意識の差はあるのかあ……」
「最近は、同じ人事担当のワーヴァと一緒に過ごしているよね。部屋は一緒なの?」
「いや、部屋は別々です」
「まあ、幹部待遇だからそうなるわね」
「今は一人部屋だから、楽ですけどね」
「そっかあ。ヤルヴィアーにとっては、どっちが過ごしやすいの?」
「それは、今の幹部としてと、前の隊長としての生活とってことですか?」
「いや、そうじゃなくて、男の子に囲まれて過ごすのと、今のように女の子たちの中で過ごすのと」
「ああ、そういうことですか」
ヤルヴィアーは少しホッとしたが、今の状況から考えると、答えにくい質問なのは間違いなかった。
「まあ……どっちもどっちですかね。昔からの慣れみたいなところもあるんじゃないですか?」
「そういうものかしらね」
フェルファトアはヤルヴィアーの答えに、口では納得したようであったが、実のところはそうではなさそうで、少しもやもやしたまま話が進んでいった。




