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二一一 寝室会議

「シェルフィアとミュレス民族の明日のために!」

 フェルファトアの音頭で宴が始まった。

「シェルフィアとミュレス民族の明日のために!」

 それに呼応するように、兵士だけでなく、シェルフィア市民も混じって宴に参加していた。

 シェルフィアの全ての食堂で宴が行われ、それぞれの食堂では隊長がフェルファトアと同じように音頭を取っているが、シェルフィアで一番広い食堂では、軍幹部と市民の有力者が集まって、お互いの労を労っていた。


「統括指揮官、どうもありがとうございました!」

 乾杯の音頭の後、リュトゥーは真っ先にフェルファトアのもとにやってきた。

「いえいえ、シェルフィア市民の方々にも強い支援を頂いたので……それよりも、良かったの? 結構、街も被害を受けてますが……」

「それはもちろん良いとは言えませんけど……それでも、我々の手に執政が戻ってきたのは数百年ぶりなので……それはやっぱり、我々の悲願ですから」

 リュトゥーは複雑な笑みを浮かべながらフェルファトアに答えた。


 宴は3時間ほど続き、シェルフィアの住民たちは数百年間の鬱憤を一晩で晴らそうとするかのようにまだまだ続けようとしていたが、ミュレス大国軍の幹部と兵士たちは「明日のことがあるから」とその場を中座した。

 幹部達はいくつかの宿に散らばって泊まっていたので、酒場から出たところで分かれることになっていた。

 しかし、そこでアビアンがフェルファトアとヤルヴィアーに声をかけた。

「ねえ、これから皆、寝るだけだよね」

「ええ、そうね」

「そうですけど……?」

「二人が良ければだけど、今日は寝ながら会議するというのはどう?」

 アビアンは明るく提案したが、それを聞いた二人は目を丸くした。

「明日の朝でもいいのでは……?」

 ヤルヴィアーはアビアンが目を輝かせているのに少し圧されながらも、やんわりと断ろうとした。

 一方、フェルファトアは優しい目でアビアンを見ていた。

「フェルフは前にしたことあるんでしょ? 寝室で会議」

「え?」

 アビアンの言葉に、フェルファトアはにこにこと微笑みながら口を開いた。

「ええ、もっとも、まだ軍や国を立ち上げる前だけど、エレーシーやティナとやったことがあるわ」

「その時、どうだった?!」

 アビアンは一層、目を輝かせながらフェルファトアに問いかけた。

 フェルファトアは彼女のあまりの勢いに、どう返そうかと少し迷った。

「どうと言われても、そうね……まあ、エレーシーの一人用のベッドだったから、狭かったというのはあるわね」

「会議についてはどうだったの?」

「まあ、上手く進んだかなという感じね」

「ほら、やっぱり進むんだよ! だから、ね、今日やってみない?」

「でも、あの時のシュビスタシアは天政府人が支配していたから、表で大っぴらに出来なかっただけで……」

「まあまあ、今日一日だけだから!」

「もう、しょうがないわね。ヤルヴィアー、どうかしら?」

 フェルファトアに急に聞かれたヤルヴィアーは、一気に体をこわばらせた。

「えっ!? ま、まあ、オレは構いませんけど……」

「じゃあ、決まりだね! さあ、行こう、行こう!」

 ウキウキとしたアビアンに押されながら、二人は店を後にした。


「へえ……案外広いね」

 フェルファトアが泊まっている部屋を訪れたアビアンは、どことなく残念そうに呟いた。

「ヤルヴィアーが選んだのよ」

「まあ、統括指揮官ですから、シェルフィアで一番広い部屋でゆったりと夜を過ごしてもらおうと……」

「ああ、よくワーヴァがやっていたヤツね」

 アビアンは少し声色を落として話をした。

「いいじゃない。アビアンお望みの寝室会議するんでしょ? 広すぎても嫌だけど、狭いのはもっと嫌になるわよ」

「そんなの、やってみないと分からないでしょ」

「エレーシーの住んでた部屋のベッドは相当狭かったわ。おかげで朝起きたときの体の重さったら無かったんだから」

「ああ、まあ、言っても軍だし、明日も幹部会議あるし、これくらいのほうがいいのかな……」

 アビアンはフェルファトアが機嫌を損ねないうちに妥協を見せた。

「じゃあ、明日もあることだし、早速始めましょうか」

 フェルファトアは戦闘用の装備から寝間着に着替えると、さっとベッドに座っていた。

「あ、ちょっと待って!」

 二人はフェルファトアの早業に驚きながらも、あたふたしながら同じように寝間着に着替えた。


 壁に近い方にはフェルファトアが、そして床に近い方にはアビアンが横になり、ヤルヴィアーが二人に挟まれる形になり、3人共一つの布団にくるまった。

「それで、何の話をする?」

 フェルファトアは、この話を提案したアビアンの方を向いて聞いた。

「まあ、寝室会議だから、まずは明日からの軍の話でしょ。明日は休みにするんでしょ?」

 アビアンもフェルファトアの方を向いて話を始めた。

「え、ああ、そうね」

「出発はいつ頃の予定なんですかね?」

 間に挟まれたヤルヴィアーは、どちらを向くこともなく、仰向けになったまま、目だけを左右に動かした。

「うーん、あまりエレーシー達を待たせるのも悪いし、明後日には出発しようとは思っているんだけどね。次は……メルンドだっけ?」

「確か、そう言ってましたね」

「シェルフィアは北方白猫族との争いが多かったみたいだけど、メルンドはどうなのかしらね」

「ああ、確かにそれは気になるねー。ちょっと明日、シェルフィアで新たに加入した人の中にメルンドの内情に詳しい人がいるかどうか探してくれる?」

「そうね、できれば昼までに誰か捕まえてほしいわね」

「分かりました。じゃあ、人事部隊で探してみます」

 ヤルヴィアーは天井を見つめながら返事をした。

「……それで、次の議題は?」

「うーん、後は明日の幹部会議で話すことかしらね。人事部隊以外の全体の動きについては、フェブラ達とも歩調を合わせないといけないし」

「やっぱりそうかあ……でも、フェルフの中では結構決まってるんじゃないの?」

「それはもちろん。だけど、皆の歩調もある程度合わせないといけないのよね」

「まあ、そうか……でも、明日はメルンドの事情を調べて、明後日出発って結構日程厳しいような……」

「うーん、それはあるわね。じゃあ、一日延ばそうかしら」

「それがいいかもしれないね」

「その方向で、明日話しをしてみましょう」

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