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二〇九 シェルフィアの戦い2

 街の中は、街道沿いは家々で埋め尽くされており、その家と家の間に小さな路地がいくつも枝分かれして存在していた。

「あの小道、天政府軍が潜んでるかもしれない。気をつけて!」

 各々が警戒しながら、逸る気持ちを抑えて慎重に北へと上がった。


 しばらく進んでいくと、今度は街を東西に貫く大通りに出た。

 フェルファトアがレヴィアの調査した地図を確かめると、この道が西の港へと繋がっているらしかった。

「なるほど、今度はこれを通っていけば良いわけね」

 フェルファトアがふと顔をあげて通りの様子に目をやると、そこには見るも無惨な姿になった建物がいくつも見られ、天政府軍と北方白猫族との戦いの傷跡が見てとれた。


「統括指揮官!」

 今後の行き先を確認していたフェルファトアを呼び止める者がいた。

 その者こそが、前乗りしていたレヴィアであった。

「レヴィア、ちょうどいいところに来たわね」

 フェルファトアはレヴィアの姿を見ると、アビアンに目配せをして隊の指揮を一旦任せ、レヴィアに向き合った。

「いいえ。それよりこちら、リュトゥー・フィロピアットさん」

「どうも、はじめまして。リュトゥーです」

 レヴィアに連れてこられたリュトゥーは、フェルファトアに対して挨拶をして右手を差し出した。

「こちらこそはじめまして。ミュレス大国軍統括指揮官のフェルファトア・ヴァッサ・ヴァルマリアです」

 フェルファトアも早口ながらも丁寧に挨拶を返し、握手をした。

「協力してくれるということですね?」

「はい」

「それでは色々と聞きますが、この道を行くと市役所に繋がるということでいいですね?」

「はい。間違いありませんが、少し西に行って、旧市街を南に下ったところにあります」

「分かりました。レヴィアから作戦は聞きましたか?」

「はい。彼女から聞いた作戦をもとに準備をしました」

「分かりました。それでは、手筈通りによろしくお願いします」

「分かりました。よろしくお願いします」

 リュトゥーは返事をすると、脇目もふらずに路地の中へと消えていった。


 フェルファトアとしては、民間人である住民の力を借りるということはあまりしたくはなかった。

 軍の兵士以外の人を危険な目に遭わせたくはないと思っていた。

 しかし、特殊能力部隊の人数がそれほど多いわけでもないミュレス大国軍にとっては、対抗手段を持っている民間人の協力が必須な状況であった。

 そのため、フェルファトアも計画の上でなるべく住民達が自然に、かつこれまで以上に危険な目に遭うことなく協力できるように作戦を立てていた。


 これで作戦のお膳立ては全て終わった。

 後は再び実行するのみだ。


 フェルファトアはアビアンと合流すると、さらに西進していった。

 しかし、東西の大通りに足を踏み入れると雰囲気が一気に変化した。

「天政府軍の攻撃です!」

 先陣を切っていた兵士がフェルファトアに報告を上げた。

「ついに来たわね。よし、皆、これからが本番よ!」

「はい!」

 フェルファトアの言葉を皮切りに、兵士たちは目の色を一層変えた。

 フェルファトア自身も、この戦いを始めたからには一回で終わらせると意気込んで、背水の陣と考えて戦いに挑んだ。


 この戦いでの主力部隊はマルナが率いる特殊能力部隊であり、弓矢部隊が特殊能力部隊を補佐、歩兵部隊が市役所占拠と周囲の補助を主任務とすることとしたのが、今回の作戦だった。


「このあたりは危険です! 避難してください!」

「これから戦闘が始まります! 皆さん、家から離れてください!」

 まずは歩兵部隊が大通りよりも少し奥の道から回り込み、東西大通りに近い建物を一軒一軒見て回り、住民の避難と天政府軍が隠れていないかを確かめて回った。


 歩兵部隊が必死に街を走り回っていると、やがて奥の方から天政府人の集団が姿を現したが、次の瞬間、ミュレス大国軍のいる建物の近くで爆発が起こった。

「攻撃! 攻撃!」

 ある兵士が叫びながら、大国軍の陣営を走り回って伝えた。

 その言葉が街に響くと、全員建物の影に隠れてあたりを見回して状況を把握しようとした。

 各々の判断での攻撃が必要になる。

 これまでの大国軍の戦い方とは全く違う戦術を強いられた。

 普段の戦いであれば、エレーシーやフェルファトアのような部隊を率いる者の声があちらこちらで上がり、場は騒然とするのがいつもの光景であったが、それとはうってかわって、今回の戦いはしんとした静寂の中に突然な衝撃音が鳴り響くという状況であった。


 特殊能力部隊は天政府軍の兵士を見つけると即座に攻撃魔法を放つが、天政府軍も建物の近くで戦っているので、戦えば戦うほど街自身に被害が及んだ。


 天政府軍の攻撃は、エルネンベリアでの戦いよりもさらに密度の増した攻撃のように思えた。

 その攻撃の苛烈さは、ほとんど前進できないほどであった。

「わっ! ……もう天政府軍は新兵器を多様するようになったのかな……」

「そ、そうみたいだね……」

 エルネンベリアでの戦いを経験した兵士たちも、この天政府軍の攻撃には驚きを隠せなかった。

 しかし、各部隊が協力して少しずつ前線を西にすすめていった。

 歩兵部隊は周りの住民の避難をするだけでなく、じりじりと前線の前進に特化して進めていった。こちらは近接戦しか出来ないこともあり、奇襲を掛けるくらいがせいぜいであった。

 それに比べて、弓矢部隊は飛び道具を使うことが出来るので、歩兵部隊よりもどちらかというと特殊能力部隊寄りの戦術を引いており、特殊能力部隊の補助として彼らに降りかかる危険を排除する役割を担っていた。具体的には、天政府軍の放つ弓矢や爆弾を処理するという任務を担っていた。


 あくまでミュレス大国軍の目的は、天政府軍の殲滅というよりも市役所の占領と街の治安維持組織の確立にあった。

 しかし、そのためには天政府軍を街から追い出す必要があるので、どうしても殲滅戦に近い作戦にはなっていた。

 そのため、ミュレス大国軍は市役所だけでなく、天政府軍の拠点になっている港一帯の2つを目的地としていた。


「出てこい! 天政府軍!」

 ミュレス大国軍の兵士の誰かが、物陰から呼びかけた。

 しかし、天政府軍もそのような挑発には乗ってこず、新兵器の投擲をもって回答とした。

 ミュレス大国軍があまり得意としていない遠距離戦が続いていたが、兵士たちは早くこの戦いを終わらせたいという気持ちが次第に出てきていた。


「あまり前に出ないように!」

「確実に一歩一歩進めよう!」

 ミュレス大国軍の兵士たちはお互いに声を掛けながら、確実に前線を進めていった。

 どこかで一気に進められる時を待っていた。


 ミュレス大国軍はじりじりと前線を進め、北に伸びる商店街跡の角まで来ていた。

 商店街跡を成す街路は他の路地よりも広めではあったが、それが余計に寂しさを増していた。


「天政府軍を打ち倒せー!」

 しかし、その寂しさは突如として一変した。

 その商店街跡の路地から、リュトゥーが率いる市民部隊が飛び出してきたのだった。

「わーっ、何だ?!」

 これにはミュレス大国軍との戦いに集中していた天政府軍も虚を突かれたようで、彼らはそれに一瞬気を取られた。

 その様子をミュレス大国軍は見逃さなかった。

「それ! 一気に攻め込めー!」

 フェルファトアの一声とともに、それぞれの幹部や隊長が剣を振り上げると、これまで物陰に隠れて戦っていたミュレス大国軍も一斉に街道に姿を現し、一気に駆けていった。

 ここまで来ると、ミュレス大国軍の得意とする戦法である。

 フェルファトアはこの時を待っていたのだった。

 ミュレス民族側は、大国軍と民間人達が入り混じり、場は混沌としていった。しかし、この混沌さが彼女たちには心地よいものであった。

 結果として二方向から攻撃されることになった天政府軍は、一気に西へと追い込まれて、ついに市役所へと通じる道との交差点に達することが出来た。

「よし、市役所班! 私に続け!」

 フェルファトアは剣を振り上げると、交差点を南に、市役所の方へと進んだ。

「港班! こっちへ!」

 アビアンも手を上げて、それぞれの交通整理を行っていた。

 こうして、ミュレス大国軍は二手に分かれることになった。

 市役所班は室内戦を想定し、フェルファトアを班長とし、フェンターラとヤルヴィアーの他、特殊能力部隊の数人と歩兵部隊の大多数が向かった。

 一方、港班はこれまでと同じ市街戦や屋外戦を想定し、アビアンを班長とし、フェブラと特殊能力部隊を率いるマルナが付き、アビアンが担当する弓矢部隊とマルナが担当する特殊能力部隊の大多数がこちら側に付いた。

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