二〇八 シェルフィアの戦い1
レヴィアがインリアに戻った翌日の昼。
レヴィアとエルナーシアは再び大街道を北へと進んでいた。
もちろん、これもフェルファトア達の作戦の一環であった。
それから2日後の朝。
インリアの街道には多くの兵士が集まり、それぞれに話をして賑わっていた。
やがて、時を知らせる鐘がなると、フェルファトアが彼らの前に立った。
「これから、私達は、北方白猫族最大の都市、シェルフィアへと歩みを進めます! シェルフィアの市民は、独立意識旺盛、私達と同じように、限られた戦力のもと、それでも自らの魔法の力を信じて、天政府軍と互角の勝負を繰り広げている! しかし、その戦いが長引けば長引くほど、街は荒廃していく! この戦いに一刻も早く終止符を打つために、私達は彼らに加わり、そして彼らに代わって、シェルフィアの奪還を果たし、そして北方白猫族の街を再建しよう!」
「はい!」
フェルファトアが高らかに宣言して剣を振り上げると、兵士達もそれに呼応して、剣や弓、杖などを天に掲げた。
「出発!」
アビアンが合図をすると、隊列が動き出し、インリアの街を後にして、大街道を北進していった。
先に出発したレヴィア達は、再びシェルフィアに到着すると真っ先にリュトゥーの家を訪ねた。
「またこちらに戻ってきたんですね」
リュトゥーはレヴィアを出迎えると、彼女たちを家の中に案内したが、レヴィアは家の扉が閉まるやいなや話を切り出した。
「リュトゥーさん、数日前に私が言い残したことを覚えていますか?」
「はい。確か、数日後に何かあるとか……」
「ええ、これから数日後に、私達ミュレス大国軍がこのシェルフィアに来ます」
「えっ?」
「もちろん、目的はシェルフィアをミュレス民族の手に奪還することです。申し遅れました。私はミュレス大国軍部隊所属のレヴィア・アルシアです。協力してくれますよね?」
レヴィアは矢継ぎ早に伝えた。
それは、リュトゥーに迷わせる時を与えないほどであった。
「ええ、もちろん協力します。何をしたら良いですか?」
「これから作戦を話します。最初に言っておきますが、これは最機密事項です」
「承知しました。どうぞ、話してください」
それからレヴィア達は作戦を共有すると、リュトゥーは早速動き出した。
しかし、それは天政府軍に悟られないように、水面下で行われるのであった。
それから3日の時が経った。
フェルファトアの眼は、遠くに見えるシェルフィアの南門を見据えていた。
これから、止まることなく事を進めなくてはならない。
フェルファトアは西軍の統括指揮官としてヴェルデネリアを奪還した時のことを思い出していた。
「天政府軍は近くにはいないわね?」
フェルファトアはシェルフィアの門を前にして、アビアンに確認した。
「もしも出てきたら……?」
「その時はもちろん、それを迎え撃つ。出てこなければ、このまま街の中に入り、市役所まで一気に攻め込む」
「なるほど……それじゃあ、行きますか」
フェルファトアとアビアンは、お互いに呼吸を確かめあうと、門との距離を詰め始めた。
その間にも、どこかから天政府軍が突然現れてこないかと周りを見ながら、慎重に歩みを進めた。
「この先には、確実に天政府軍がいる。市街戦は必至ね」
フェルファトアは特に障害を感じることもなく、南門の直前まで来た。
「大規模市街戦の経験は……?」
アビアンがフェルファトアにふと聞いた。
「特に無いわ。でも、ここまで来たら、作戦に従って進めるしか無いわね」
フェルファトアは改めて意を決し、南門をくぐり、その後に数千人にも及ぶ大群が、一つの門から一斉にシェルフィアの街へと雪崩込んだ。
それにいち早く反応したのは天政府軍であった。
「なんだ!?」
「話には聞いていたが、まさかこんな北の地にまでミュレス民族の軍が?!」
「もうここまで来たというのか……早く、基地に知らせろ! シェルフィアまで奪われてしまうぞ!」
見張り役の兵士たちは焦りを口にしながら一目散に街の奥の方へと下がった。
しかし、それはミュレス大国軍にとっては好都合で、それならばとばかりに彼女たちも街の中心部に近づいていった。
フェルファトアの作戦の正体は、こちらの圧倒的な人数に頼った作戦でもあった。
いわば「物量で押し込む」という非常に単純な作戦ではあったが、ミュレス大国軍の得意としている作戦でもあった。
とにかく一気に攻め込んで、相手に攻撃する隙を与えない。
これはフェルファトアやエレーシー達が行ってきた作戦でもあった。
レヴィアから事前に聞いていたのは「市街は大通りであっても案外狭い」ということもあり、最初はインリアに一部の部隊を残して行こうかという話もあったが、何より現地の人で魔法も使える北方白猫族の住民ですら天政府軍と互角以下の戦いをしているのだから、魔法を使うことの出来ない白猫族や黒猫族が大多数を占めるミュレス大国軍の派遣部隊では、北方白猫族と同じような人数で攻め込むと敗退は必至であることは容易に想像できた。
それがインリアに部隊を残さず、フェルファトアに与えられた戦力の全てを使ってシェルフィアに乗り込んだ理由の一つであった。
インリアの報告によると、天政府軍は街の西にある港の近くに居を構えていたとのことであった。
これは元々、天政府軍の主な任務が街の治安維持と港の警備であったことから、街の外れである港の近くに基地を作って、今もそこにいる理由らしかった。
そのため、天政府軍の支配が濃い地域は西側に集中し、大街道の通っている街の東側は北方白猫族が比較的幅を効かせていた。
それは、フェルファトアにとっても都合が良かった。
誰だって、敵陣地のど真ん中を始めから攻めたくはないものだ。




