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二〇六 シェルフィアの有力者

 夜になると、街はミュレス民族の街に変わる。

 内紛中ということもあって人通りはほとんど無かったが、それでもそれほど少なくない北方白猫族の住民が、娯楽を求めて酒場へと集まり、こちらも息を潜めるようにして日頃の鬱憤を晴らしていた。


 レヴィアはこのことを、これまでの諜報活動で知っていた。

 どんな街でも、酒場にはミュレス人が集まる。

 それはこのシェルフィアでも変わらなかった。

 レヴィアはそれを知り、夕方から酒場の屋根裏に忍び込んで客の話を盗み聞きしていたのだった。

 これはミュレス大国軍の情報部隊が情報収集するための常套手段であった。

 この日も酒場の屋根裏に密かに宿泊所を作っていたが、この時はレヴィアも飲食しながら情報収集を行っていた。

 いくら北方白猫族の街とはいえ、シェルフィアという大規模な街にもなると人一人知らない人がいても誰も気づかないようで、同じ北方白猫族のエルナーシアが商店に行くと、まるで市民であったかのように通常の応対をされて見事に食糧を手に入れることが出来たようであった。

「でも、ここで何を探すんですか?」

「まずは、話を聞いてみましょう。そうすれば、何か分かってくるから……」

 二人は言葉を少し交わすと、すぐ階下の客達の会話に耳をすました。


 やはり戦争中、しかも市街戦の最中とあっては、それほど多くのお客は来ていなかった。

 しかし、だからこそ、一人ひとりの声は非常によく聞こえたのだった。

 その中でもひときわ目立ったのは、一人の人物の名前だった。

「リュトゥーさんはこれからどうするのかね……」

「もしも天政府人を追い出したら、リュトゥーさんが市長だな」

「リュトゥーさんも今、作戦を立てているんだろうけど……なかなか天政府軍も強くなってきたな……」

 レヴィアたちはわずか数時間潜んでいるだけでもこの名前を幾度となく聞いていた。

「なるほど……どうやら北方白猫族側の有力者は、このリュトゥーさんという人のようね……」

 それが分かると、彼女たちの使命から自ずと今後の方針が決まっていった。

 後は、それをどう達成するかであった。

「しかし、普通にそのリュトゥーさんとやらの居場所を聞いても、そう簡単には教えてくれないだろうし……どうしたものかね……」

「会いたいですけどねえ……」

「うーん……誰か、リュトゥーさんに会わないかな……そうしたらついていくのに」

「市街戦が始まれば、陣頭指揮を執っているから分かるんじゃないですかね」

「いやあ、それを期待するのも色々と……」

「やっぱり、誰か会いに行きそうな人を待つしか無いんじゃないですかね。それほどの有力者なら、一日誰とも会わないなんてことはないでしょう」

「まあ、エルナーシアの言うとおりかもしれないわね。でも、あまり統括指揮官や、エルネンベリアで待っている総司令官を待たせるわけにも行かないし……これからはもう少し積極的に動きながら、情報収集をしてみましょうか」

「はい」

 それからレヴィアたちは、酒場の屋根裏に潜みながら情報収集を続け、酒場が閉まった後は、静かな夜の街を忍びながら歩き、少しでも多くの情報を得る努力をした。


 そして、次の日の昼になる前に、なんとかリュトゥーの家を特定することができたのであった。


 レヴィアは夜になり、リュトゥーが家にいるであろう時間を狙い、特定した家を訪れた。

 まず、エルナーシアが扉を叩いた。

「こんばんは」

 しばらく、無音の時が続いた。

「どちら様ですか?」

 突然、扉の向こうから声が聞こえてきた。

「私はエルナーシアと申します。エルネンベリアから来ました」

 それから数秒、全く反応が無く、動きのない時間が過ぎた。

 しかし、何の前触れもなく扉がゆっくりと開いた。

 すると、中から一人の青年が扉を恐る恐る開けながらエルナーシアの方を見つめた。

「……何か御用ですか?」

「ええ、悪い用事じゃありません」

 その時、エルナーシアの後ろからレヴィアが姿を現した。

 青年はその様子に非常に驚いてみせた。

「ま、まあ、早く入ってください」

 二人は彼に手を引かれながら家の中へと入ると、その途端、彼は急いで扉を閉めた。

「ふう……エルネンベリアからお越しということですが……私に何か用ですか?」

「ええと、貴方はリュトゥーさんで間違いないですか?」

 レヴィアがそう聞くと、青年は少し目を泳がせながら考えたが、すぐにレヴィアの方を向き直した。

「はい。私がリュトゥーです。リュトゥー・フィロピアットと申します」

「私はレヴィア・アルシアです。こちらは、同じく、エルナーシア・トルタルト」

「エルナーシア・トルタルトです。はじめまして」

 そう言うと、三人は握手をした。

「ああ、はじめまして。あ、そうだ。どうぞ、お掛けください」

 リュトゥーは椅子の方に案内すると、二人を座らせ、飲み物を振る舞った。

「ありがとうございます」

「いいえ。それで、何か私に御用ですか?」

「まあ、それほどでもないんですが、シェルフィアの北方白猫族の間では有名なようで」

「いえ、まあ……」

「それで、初めてこちらに来たものですから、著名な方に少し挨拶をと思いまして……」

 リュトゥーも、出会っていきなり褒められて満更でもない様子で、和やかに話が進んだ。

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