二〇五 シェルフィアへの偵察
フェルファトアはインリアの宿屋の一室を幹部会議室にし、早速、シェルフィアについて聞いたことを他の幹部達と共有していた。
「なるほど、私達以外にも、市民達が天政府軍と対立しているなんてことがあるんだね」
アビアンはシェルフィアの市民に対して、大層驚いていた。
「うん、やはり、私達と違って魔法という力を持っているのは大きいわね」
「それで、彼女の話を聞いてどう思いました?」
ヤルヴィアーも前のめりになって話を聞いていた。
「うーん、他の街よりも状況は悪そうではあるわね」
「でも、シェルフィアの方たちは私達に協力してくれるんじゃないですか?」
「それはそうだけど、あまり市民の方々に負担を掛けるのも……あまり軍民で協力というのも、難しいわよ」
「しかし、街の中ですよね。街のことは彼らのほうがよく知っているのでは?」
「だから、前に出て戦うのも、彼らの後方支援も両方行わないといけないんじゃないかと思うのだけれど……」
「えーと……では、我々ミュレス大国軍がシェルフィア市民と共同で戦うということになるんですか?」
「うーん、それが戦力的にはいいのかもしれないけど……まずは、もっと情報が必要ね。我々から見た最新の状況と、市民がどう思っているかが……」
フェルファトアはそう言うと、早速次の行動に打って出た。
彼女は偵察部隊を作り、市内の情報収集や住民への根回しをさせようと計画したのだった。
偵察部隊には、隊長にレヴィア・アルシア、隊員にエルナーシア・トルタルトが選ばれた。
レヴィアは元々情報部隊員であり、イシェルキアを捜索した三方展開作戦の終盤で、捜索のための張り込みなどで活躍した実績があった。
また、エルナーシアは特殊能力部隊の所属で、ルーヌやマルナと同じヴェドラ・ラプラデネア出身の北方白猫族であった。
大勢でぞろぞろと行くわけにはいかないので、二人一部隊の小規模な部隊での行動となる。
次の日の朝、幹部達と偵察部隊は宿屋前に集合した。
「それでは、行ってきます!」
偵察経験が豊富なレヴィアは、元気よくフェルファトア達に挨拶をした。
「シェルフィアでは天政府軍と北方白猫族が戦闘状態にあるみたいだから、気をつけてね」
「了解しました。じゃあ、エルナーシア、行こう」
「はい!」
エルナーシアはレヴィアとは初対面だったが、昨日、偵察部隊結成が決まった後にレヴィアがエルナーシアを呼び出し、一緒に食事をしたことで即席ながらも、最低限の信頼関係は築いていたようだった。
二人は元気に手を振りながら、インリアの街を出ていった。
そこから3日かけて、彼女達はようやくシェルフィアの街にたどり着いた。
街は他の北方白猫族の街とは違い、白猫族の街のように全体が塀に覆われており、いくつかある門だけが(合法的な)入口となっていた。
その入口には特に見張りもなく、自由に入れるようになっていた。
二人はその門から中の様子を覗いてみたが、中は港町の割には非常に静かで、活気がないという印象だった。
「交易が主な港町なのに、ここまで静かなのはおかしいかも……」
「どうなっているんです?」
「戦いがあるという話だったし、それが今も続いているのかもしれない……」
二人が小声で話をしていると、通りを天政府軍の兵士らしき人物が見回っているところが見えた。
レヴィアは声もあげずに驚き、門から様子を見るのを一旦中止し、今後の動きについてエルナーシアと協議した結果、様子を見て門から中に入り、天政府軍の目につかないように隠れながら、市街地に忍び込むことにした。
この街では天政府軍と北方白猫族が戦っているが、彼女達ミュレス大国軍も、もちろん天政府軍と戦っている。
北方白猫族だと間違われれば、彼らが損害を被る可能性が高く、また、ミュレス大国軍の兵士だということが分かれば、ミュレス大国軍の動きを予測される可能性があるため、彼らの目に留まるようなことがあってはならなかった。
「……よし、行こう!」
レヴィアの合図で、二人は門から建物の影へと急ぐと、そのまま、影から影へと飛び移るように移動していった。
「なるほど……こうなってるのね」
レヴィアは移動しながら携帯していた紙を広げると、ちょこちょこと筆を走らせ、レヴィアの感じ取った街の特徴や、通りの地図を作っていった。
一方、エルナーシアはレヴィアの俊敏な動きについていくのでやっとだった。
しかし、エルナーシアも、天政府軍に見つかったら大変なことになるということは、レヴィアから何度も聞かされていたことなので、それだけは避けなければならないと、必死でレヴィアについていった。
二人は街をあらかた回ると、天政府軍の見回りに気をつけながら、建物のそばで息を潜め、夜になるのを待った。




