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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
 第七節 制限された社会の中で如何にして体制を成すか
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二〇 全ては、民族のために

「……さて、ここにいる皆の役職が決まったところで、話を戻しましょう」

 ティナは再び席に着き、また話を始めた。

 それに応じて3人も座り直した。


「そうね。このハリシンニャ川西岸には1000人の協力者がいるって話だったわね」


「おそらく、他の町にも話が広かっているはずだから、もっといると思うけど」


「……それはともかく、その人数をどう活かすかって話だったよね」


「それだけの人数となると、やっぱりどこか本拠地となる所が欲しいわよね、どうしても」


「最初の町を本拠地としますか」

 エレーシーは壁にもたれ、腕組みをしながら3人を見た。


「そうね……まあ、何にせよ、一都市制圧は絶対条件ね」


「うーん……確かに。そこを足がかりにしないとね」

 エレーシーは一旦離した身体を再び壁に預け、天井を見つめ始めた。


 暫し4人は各々で考え始め、再び沈黙が部屋に拡がった。


 ふと、ティナは武器を預けた船小屋を、無意識の内に思い浮かべた。


「手をつけるなら……トリュラリアかしら」


「え?」


「シュビスタシアのような都会でもなく、ベレデネアのような田舎でもない。そうなれば、武器も近くにある、トリュラリアから攻めるのがいいんじゃないかと、ふと考えたの。ここから近いし」


「トリュラリアねえ……確かに、ミュレシオン大街道沿いだし、まあまあ栄えてるとは思うけど、あの町も天政府人、そこそこ多くない?」


「このご時世、どの町にも天政府人はそこそこいるわよ。それに、これくらいの町の規模の方が、ちょうどいいんじゃないかしら」


「そうだね。ちょうど国の中央くらいだし、手も拡げやすそうだよね」


「じゃあ、まずはトリュラリアから攻めてみましょう。みんな、いいね?」


 ティナの問いかけに、3人は力強く頷いた。




「ところで、肝心なところなんだけど……」

 エレーシーは再び皆に質問を投げた。


「その、1000人余りがいざという時に集まるとして、どうやってその人達に伝えるの?」


「え?」


「ほら、やるとなった時には、前もって話をしておかなきゃいけないじゃない?」


「うーん、なるほど。確かに」


「しかも、それはなるべく迅速に」


「1000人となると、アビアン一人で何とか出来るものでもないよねぇ」


「私もティナの方に声を掛けた人や、ティナの村長が集めた人のことはわからないよ?」


「村長の伝で集めた人だもの。ないがしろにしちゃ、村長に顔向けできないわ……」


 ティナは肘を机につき、髪を何度も掻き乱した後、頭を抱えて黙り込んだ。


「そうね……」

 フェルファトアも腕を組み、一所懸命に考えた。


 妙案が出ないまま、唸り声だけが聞こえる中、ふとエレーシーはあることを思い出した。


「そうだ、また互助会を利用するのはどうだろうか?」


「互助会……?」

 ティナにとっては聞き覚えのあるようなないような言葉だった。


「この街には、互助会といって、ミュレス民族の地下組織があるんだよ。アビアンもそこに所属しているんだ」


「地下組織ねえ……でも、そんなに入ってないんじゃないかしら?」


 ティナの素朴な疑問にアビアンが答えた。

「互助会も大小たくさんあるけど、それぞれの互助会の会長が入ってる総合互助会があるんだよ!」


「みんな入ってるの?」


「入ってない人でも、そうだねえ……あ、新しく来た人じゃなければ街路会に入ってるはず!」


「街路会?」


「要は、同じ道沿いに住んでいる人達を集めた会の事だね。アビアンは繁華街の互助会にかまけてるけど、私は街路会に顔を出してるよ」


「ああ、私の村の組合みたいなものね。でも、それは確かに良さそうね。街路会にもその、総合街路会みたいなものがあるの?」


「うーん、街路会の上? 街路会の上には市内会があるけど、それは民族混合だからなあ。民族別の街路会の方が良いよ、ちまちましてるけど」


「そうか、じゃあ伝わるにはまあ、早くても2~3日くらいは見たほうがいいわね……」


「うーん、それ以上は早くならないか……」


「皆を集めるでもしないと、やっぱり無理よ、全員に伝えるなんて」


「まあ、そこは許容しなきゃいけないわよね」


「でも、既にある会を使うってことは、今の上下関係をそのまま持ってくるって事でしょ? それって結構良いと思うよ」


 エレーシーはティナとフェルファトアが妙に消極的なムードになっているのを察して、なんとか良い点を見つけようとした。


「まあ、そうか。確かにね」


「上の人って、そういうの気にするでしょうからね」


 ティナとフェルファトアは、エレーシーの一言に大きく頷いた。


「じゃあ、アビアンは互助会、エレーシーは街路会で伝えてもらう。私は村長を通じて伝えてもらうのと、この町の黒猫族には私から伝えるわ。アビアン、エレーシー、それでいいわね」


「ええ、トリュラリアに集合ね」


「街路会の会長か……アビアン、私も知る限り話はしておくけど、互助会の方でも街路会長いるんでしょ? その人にも伝えてくれないかな?」


「分かったよ! 次の総合互助会で話しておくね」


「何か、攻撃出来るものと守れるものを各自考えて持ってくる必要があるわね」


「そうね。ちょっとエレーシー、考えてくれないかしら? その、どういうものを持っていけばいいのかと、どうやって運べばいいか」


「私一人で? うーん、まあ一応3~4日を目処に考えるけど、皆も思いついたら言ってね」


「ええ、分かったわ。お互いに助け合っていきましょう」


「フェルフの言う通りだわ。私達、素人集団なんだから、人の数と繋がりだけが頼りよ。そこはいつでも、忘れないようにしないといけないわね」


「そうね。民族の団結力を知らしめてやりましょう」


「楽しみだね」


「エレーシー、案外血の気多いのね。私はとっても緊張するわ」


「ティナ、総大将だもんね」


「ちょっと、さらにプレッシャーかけないで」


 4人は先程まで部屋を満たしていた張り詰めた雰囲気が次第に溶けていき、明るくなっていくのを感じていた。


 多少の緊張感はあるが、それでも確実に前に進んでいるという実感を皆で共有していた。




 その後も飲み会は続き、4人はこれからの自分の役割について確認をした。


 その中で、トリュラリアの町に詳しい人がいないことに気づき、ティナがトリュラリア出身の協力者に町の詳細を聞くことが役割の中に加わった。


 一つずつ、一つずつ、確実に歩を進めている。


 そして開戦の時、4月1日にはこの地を支配する天政府は完全に敵となる。しかし、その時まではあくまで主従関係であることを認め、牙を隠しておかなければならないのだ。


 派手な行動は許されない。


 最初の町、トリュラリアを支配するまでは。




 それからの一週間、4人はこれまでになく忙しい日々を送っていた。


 エレーシーは帰ってから必死に一般市民の武器をどう作り、運搬するのかを二晩寝ずに考え、アビアンとティナに伝えた。


 もちろん計量官としての仕事は続けており、こんな状況なのでもちろんミスは多発したが、相手の船頭もミュレス人の協力者なので、大抵は多少の文句程度で許してくれた。


 アビアンはミュレス人しかいない総合互助会や街路会をはしごし、自らの情熱をもって大演説を繰り広げ、その場にいる各互助会長や街路会長は大いに讃えた。

 中には、感動のあまり新たに協力者となる者まで現れた。

 彼らは即座に会を開き、上意下達を出来る限り迅速に行なった。


 この町に住処のないティナは、毎日繁華街から路地裏まで歩き、出会った黒猫族の協力者に一人ずつ一人ずつ丁寧に伝えて回った。

 また、ベレデネア村長宛に手紙を書き、村行きの荷物便が出る時に、同じく黒猫族の協力者に頼み込み、荷物の中に忍ばせて送ってもらった。


 そして、フェルファトアは市場で果物を大量に買うと、トリュラリアに赴いて売り子の真似をしながら、治安管理員の目を気にしつつ計画を織り交ぜながら世間話をしていた。


 4人はそれぞれの役割の下、確実に動いていった。


 ティナがどこで覚えてきたのか分からない文語体を頭から絞り出しながら作成した伝達内容は下記の通りであった。



 芽生えの日(4月1日)、対岸の町トリュラリア。

 早朝、5回の鐘が我々の国「ミュレス国」の始まりを告げる。

 ミュレスの民は何人(なんぴと)も、この名誉の時を祝わねばならぬ。

 その時までに、準備を整えよ。

 自らの周りを見回し、神器を作るべし。


 ミュレスの民の伝統に従い、星の御加護の下で川を渡るべし。

 御加護の効く間に、所定の場所に移動し、待機せよ。

 タミリア総司令官に選ばれた者は、海岸沿いの船小屋にて特別な神器を受けるべし。

 自他問わず用意した祝いの神器は、天の光を受けぬよう服の下、籠の底へ忍ばせよ。


 5回目の鐘と共に、中央広場より宴を始めよう。

 トリュラリア町全域に、祝いを届けよう。


 全ては、民族のために。

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