二〇二 特殊能力部隊の拡張
「ワーヴァ、ヤルヴィアー、ルーヌ。よく頑張ったね」
次の日の幹部会議で、エレーシーは最初に彼らをねぎらった。
「でも、これでこれまで一部隊だった特殊能力部隊も、結構な大所帯になったわね」
フェルファトアもこの成果にはご満悦のようだった。
「しかし、これだけの規模になるとルーヌ一人で率いる一部隊にするには、少し大きすぎないかしら?」
「うーん、そういえばそうか……ヴェドラ・ラプラデネア出身の人とも合わせて、240人ぐらいもいるからなあ……とはいっても、隊長にできる人も限られるし……一小隊で100人以下には抑えたいかな」
「それじゃあ、特殊能力部隊は3分割することになるわね。ルーヌはどう思う?」
「えーと、そうですね……。確かに皆さん、50人くらいで一つの集団になってますよね」
「そのように構成してますね」
「僕も最初は32人だったので、自分の隊を集めて話をしたり、一人ひとりの様子を見ながら育成や作戦会議出来ましたが、240人ともなると、その下に長を置いておきたいですね……」
「ルーヌもそう思う? 確かに、この規模の兵士を一人でまとめたのは結成初期だけだったかな。でもその時も、軍を結成したばっかりの頃で、ティナや私達幹部が全員で面倒を見ていた形だったからなあ」
「『一人で』っていうのは無かったわよね。大体、二人以上で見てるわね」
「今も特殊能力部隊はルーヌと副隊長で見てるけど、今は本隊だけでもかなりの人数になってるから、その中で的確に動くにはもう少し小さい規模に分けておきたいような感じはあるね」
それから議題は特殊能力部隊をどのように構成するかという話になったが、結果として部隊を4つに分けることになった。
そのうちの一つはエルネンベリアの戦いを経験した少数精鋭の部隊で、臨時部隊とした。そしてルーヌは現在の参謀兼隊長から参謀兼特殊能力部隊総指揮という役職が与えられ、各隊のまとめ役を担うこととなった。これにはエルネンベリアでの功績が認められたということもあった。
会議が終わったあと、ルーヌの仕事は数多にあった。
まずは新しく起こった4つの隊の隊長と副隊長を決めることであった。これは自分と同じヴェドラ・ラプラデネア出身の兵士から選ぼうと決めていた。
それから選出した兵士一人ひとりと話をし、それが終わったら各部隊への異動をどうするかを新隊長と副隊長を集めて考え、その結果をエレーシーとフェルファトアに報告し、それから特殊能力部隊の隊員を集めて部隊分割について説明と、ここまでのことを実施するのに3日を要した。
そして、特殊能力部隊は新人が一気に増えたということで、いきなり3隊合同の新入兵士訓練が始まった。
ワーヴァ達が外で活動していた間、エルネンベリアでも兵士募集を行っており、その時に入ってきた兵士達の訓練も行われていた。
とある日の幹部会議で、新入兵士訓練を行っている間、エルネンベリアでこのまま足止めしておくかどうかについて話題に上がった。
「ここを奪還してから、もう3週間ぐらい経ってるよね?」
「うーん、そういえばそうねえ」
「心情的には、次の遠征まであまり間を空けたくはないわね」
「エルルーアもそう思う? 私も、もうそろそろ軍としても次の行動を起こさないといけないかなと思ってたところなんだけど……」
「でも、あまり焦るのも禁物では?」
「そうね……でも、こういう時のために特殊能力部隊も既存の兵士達で構成した隊を一つ設けたわけだし……」
「他の3隊は今後の戦闘に投入するため……でしたよね? これからの遠征にも帯同するんでしょ?」
「まあ……それが一番ね……」
「でも、あまり練度の低い状態で帯同するのも、彼らにとって危険になるわね。戦場で『安全な場所で見学』なんてものもないし……」
「北進しきったら、また南に帰ってくるんでしょ? ノズティアで折り返してきたように。その時に私達が彼らを帯同させていくっていう感じなの?」
「それはそうだけど……4つ目の部隊は確かに前からいた兵士の隊だけど、ルーヌも隊長から外れたし、他にも6人、新設部隊の隊長、副隊長として訓練の教官として従事してるし……」
ルーヌは彼女達の話から、いかに特殊能力部隊の存在が重要になっているかを感じ取っていた。
そんな中、エレーシーがこの議題を解決するために一石を投じた。
「そういうことなら、ルーヌが一番良く知ってるだろう。ルーヌ、どうだろう」
急に話を振られたルーヌは、今の部隊の状態を一所懸命思い出しながら、答えを考えだした。
「北進するなら、先日の戦い相応の戦力は確保していきたいですよね。うーん……臨時部隊は25人くらいですよね。人数で見るとそこまで少なくなってはいませんが、有力な人材を他の隊の隊長、副隊長に抜いていますし……」
ルーヌはとりあえず言葉を繋ぎながら、どこかに解決策はないかと、さらに考え込んだ。
周りの雰囲気から明らかに、自分に求められているのは「できない」という返答ではなく、どうにかできるように、総指揮として工夫が求められていることが肌感覚で分かった。
ルーヌは腕を組み、臨時部隊に任命した隊長と副隊長の顔を思い出した。
果たして、彼らだけで遠征することができるのだろうか?
そのような中で、会議の場がルーヌの結論を待っていた。
「でも、行けると思いますよ。臨時部隊も臨時部隊として訓練はしていますし、隊長も信頼できる人を置いていますので」
「本当? それならこの件は解決ね」
「まあ実践でどうなるかという話はあるけれど、新設部隊はエルネンベリアに留め置くとして、臨時部隊だけで行くということでいいね」
「はい、分かりました」
エレーシーの言葉に、ルーヌは快諾せざるを得なかったが、臨時部隊の力を信じることにした。




