二〇一 特殊能力部隊の重要性
エルネンベリアを奪還したエレーシー達大国軍本隊は、このエルネンベリアの宿で疲れを癒やしていた。
エルネンベリア郊外での戦いに一回は破れたものの、やっとの思いで天政府軍を出し抜き、この街を奪還することに成功したのだった。
この戦いには、ルーヌ達特殊能力部隊の活躍が無くてはならなかった。
しかし、相手は天政府軍である。
さらなる戦力の補強をしてくることは確実であった。
そう考えたエレーシー達は奪還後の朝、市役所の会議室に集まって会議を開いていた。
「まずは、昨日の天政府軍との戦い、お疲れ様」
会議が始まると、最初にエレーシーが戦闘の成功を労った。
「少し前に天政府軍が新兵器を投入した時はこの先どうなるかと思ったけれど、かなり効果的な対策が出来て良かったわ」
フェルファトアも短めに感想を述べた。
「新加入の特殊能力部隊の活躍が大きかったわね。やはり、天政府軍が新兵器を導入したら、こっちも何か対策しないと勝てないということね」
エルルーアは冷静に戦いを振り返った。
「確かに、この戦いではルーヌ達の特殊能力部隊の役割が非常に大きかったですね。今後も戦況が複雑になると思いますし、その中で特殊能力部隊の活躍の場が多くなるんじゃないですかね」
ヤルヴィアーは隣に座っていたルーヌの顔をわざとらしくちらっと見ながら、彼が率いる部隊を高く評価した。
「うん、ヤルヴィアーの言う通り、私も、弓矢部隊以上に多彩で遠距離攻撃も可能な特殊能力部隊の働きがこれからもっと重要性が高くなると思う」
エレーシーはそう言うと、すっと立ち上がり、机に片手をつきながら続けた。
「エルネンベリアを制圧した今、我々はまた次の戦いに備えなければならない。戦いが終わった瞬間、次の戦いが始まっているからね。そこで我々は今後、特殊能力部隊をもっと拡充していくことが最重要ではないかと思うんだけど、どう思う?」
この言葉に、まずアビアンが手を上げた。
「これまで主力だった歩兵や弓矢部隊の活躍の場は少なくなっていくの?」
「いや、そんなことはないよ。それぞれの部隊に活躍の場はあるし、特殊能力部隊は北方白猫族しか属せないという欠点がある。だけど、今は特殊能力部隊は本当に少数精鋭と言うか、一部隊として散らばって、単発的に攻撃をしているでしょ? エルネンベリアでの戦いでも、確かに天政府軍の新兵器に対してよく対処してくれたけど、それでも一部は防御しきれずに犠牲を生んでしまったというのは事実だ。そこで、もっと人数を増やして、もっと攻撃力をつけないといけない。天政府軍を打ち崩すためにね……」
「なるほど、それは安心だね」
アビアンはエレーシーの言葉に納得したようだった。
「というわけで、もちろん既存の部隊にも存分に力を発揮してもらう。だけど、もはやそれだけでは天政府軍に太刀打ちできなくなってきている。ここから北や近隣の村々には多くの北方白猫族の皆が住んでいるということだから、彼らの協力をなんとかこぎつけて、特殊能力部隊をさらに拡大していこう!」
「おー!」
エレーシーが話の最後に右手を握って突き出すと、会議に出席していた幹部達は呼応して同じように突き出した。
「では、今日からの方針は、それを最優先するということでいい?」
フェルファトアがよく温まった空気を締めるために決を採った。
幹部たちはそれに納得したように頷いた。
「皆、納得したということで、これから軍の方針として、特殊能力部隊拡大を進めていくわけだけど、そのためにまずは、北方白猫族とのお付き合いをもっと増やさないといけないわね」
フェルファトアの投げかけに、幹部一同はしばし考え込んだ。
「確かに、これまでは白猫族と黒猫族にしか接点が無かったわけですからね。北方白猫族も北方白猫族だけで完結した生活を送っている人が多いと聞きますし……」
「ワーヴァの言うことはもっともだと思う。でも、北方白猫族と全く接点が無いものなのかな? 北方白猫族も結構徴用で南に降りてきている人も多いと思うんだけど」
エレーシーの言葉に、ルーヌが手を上げた。
「総司令官の言う通り、一部の村では地上統括府による徴用で村から離れている人もいると聞いています。ですが、この北方ミュレシアでは、天政府に近い分、『本国』に持っていかれる人の方が多いですよ」
「なるほど、地上の天政府人に仕えるのではなく、本国の天政府人に仕える人のほうが多いのか……それじゃあ、我々と接点が無いのも分かるなあ」
それから数十分ほど、いかにして北方白猫族を多く軍に招き入れるかについて議論が交わされた。
その結果、「兵士を集める前に、まずはエルネンベリア近郊の北方白猫族のことについて、よく知ろう」ということになり、ルーヌをはじめ、北方白猫族と関わりのある兵士たちを集めて周囲の村に関する聞き取り調査を行うことが決まった。
聞き取り調査には、ルーヌとワーヴァの隊が担当することになり、そしてフェルファトアがまとめることになった。
ルーヌは自分の特殊能力部隊の兵士達の中に知っている人がいるかどうかを聞き、ワーヴァは行商を行っていたり、フェルファトアと同じようにミュレシア全土に行ったことがある人を探して、エルネンベリア周囲の村々について聞いて回った。
そして次の日の朝の幹部会議で、その結果について報告された。
「ルーヌ、ワーヴァ、昨日は短い時間の中、聞き取りに尽力してくれてありがとう。この結果について、昨晩、私のもとに報告が届いたので、私とフェブラでまとめました」
フェルファトアはそういうと、市長室に飾ってあった近郊の地図を取り外して机の真ん中に置いた。
「皆の話をまとめると、北方白猫族の都市が、このエルネンベリアから南に下って、トゥリフニア海まで出て、そこからさらに海岸沿いを南下したところにハロエという街があるということね。それと、ここから北に上がったところにあるマスフェルという街が、このエルネンベリアから近いのではないかと言う話だったわね」
「ハロエとマスフェルか……どこも聞いたこと無かったなあ」
「他にはどんな……小さな村とかはどうなの?」
「村は、北方白猫族の村が近くに5個ほどあるということね。北に2個、南に3個。どちらも、ハロエとマスフェルに繋がる道すがらにあるということらしいわ」
「ということは、どちらかの都市に行こうとすると、自ずと着ける場所にあるわけか……」
「なるほど、それがここの近くの村というわけね」
軍幹部達は立ち上がり、丸印がつけられた地図を囲んで、ここは遠いだとか、あそこの村の前には峠があるだとかと、あれこれと話し合った。
この日の幹部会議は、実に2時間ほどに及んでいた。
出席者の誰もが、もうそろそろ話も煮詰まってきたかなという頃、エレーシーが顔を上げて話し始めた。
「これまでは犠牲を出さずに確実に歩みを進めるということを考えて、慎重に行動をしてきた。だから、これまでずっと攻略してはそこでまた作戦を考えて長い時間をかけてやってきた。しかし、先日の天政府軍の攻撃を見ても分かるように、向こうもどんどん新しい手法を取り入れたりして、戦術も戦力も日に日に上がってきている。私達はそれに対抗するべく、これからはより一層、速度も上げていかなくてはならない」
この言葉には、皆も薄々感じていたのか、頷かない人はいなかった。
「いつものように、一つ一つの街や村に兵士募集を仕掛けていくのも、それはそれで誠意ある対応だと思う。だけど、この村々に行って帰ってを繰り返すだけで、何週間掛かるか分からない。兵士養成のことを考えると、月単位での滞留が目に見えてくる。そこで、ここは一気に多方面に派兵して募集をしていくのはどうだろうか?」
「確かにそうね。それに、北方白猫族は私達のように直接隷属していた人は少ないだろうから、天政府人や地上統括府を憎むような人も私達ほど多くないと思うし、皆で行っても効率的じゃないかもしれないわね」
「じゃあ、いくつかの隊に分かれて募集に行くということで」
「はい!」
それからの会議の結果、人事担当参謀であるワーヴァと彼女の補佐をしているヤルヴィアー、そして事実上ミュレス大国軍の北方白猫族をまとめているルーヌを軸として、エルネンベリア近郊の村に兵士を募集しに行くことになり、彼女たちの配下にある隊を中心にして、4つの臨時班を作ると、その次の日にはあちらこちらへと分かれていった。
この兵士募集行脚は大きな成果を得ることが出来た。
彼らのおかげで、約200人程の北方白猫族の人達が、特殊能力部隊の兵士として新たに加わったのだった。
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