一九九 第二次エルネンベリアの戦い
ずっと進んでいると、ふとエルルーアが前方斜め右の方を指さした。
「投擲!」
エレーシーはその言葉に瞬時に反応した。
「右側、投擲ー!」
「投擲ー!」
エレーシーが叫ぶと、辺りの兵士も叫んで伝えた。
そして、その言葉から数秒後に、エレーシーから見て右側の自軍の近辺から爆発音が聞こえた。
爆発は起こったものの、被害はそれほど無かったようだった。
一方、投擲の言葉にいち早く反応したのがルーヌだった。
「攻撃開始! ドラバーンで迎え撃て!」
ルーヌはその声を聞いて、自分の隊に攻撃命令を下した。
「はい!」
隊員はルーヌからの命令を受けて、早速魔法を繰り出すための準備をした。
特殊能力部隊からはドラバーンの声が纏まって聞こえると、その後にいくつもの火球がミュレス大国軍の中から飛び出した。
「何だあれは!」
「火の玉だ! 気をつけろ!」
この攻撃には、天政府軍も想定外だったようで、向こう側のあちらこちらから驚き混じりの悲鳴がいくつも湧き上がった。
この反応はエレーシーにも嬉しい想定外であった。
「よし、そのまま突っ込むぞ!」
「おー!」
エレーシー達は、その一発を皮切りに、相手に向かって走り始めた。
「怯むな! どんどん爆弾を投げつけろ!」
天政府軍側も、不意打ちをされたこの状況を打破しようと、攻撃を続けた。
「しっかりと視認して迎え撃て!」
「はい!」
相手が次々と投げてくる爆弾に対して、特殊能力部隊は的確に火球を当て続けた。
空中で火球と衝突した爆弾は、その場で爆発し、天政府軍にも被害を与えていた。
「いいわ! 天政府軍の新兵器をほぼ無害化出来てる!」
フェルファトアは、彼らの予想以上の働きぶりを称賛しながら、自軍全体の動きを制御することに集中し始めた。
「行け! 行け! とにかく天政府軍を押し返すんだ!」
「はい!」
エレーシーも、これは勝機とばかりに、前の戦争とはうってかわって、とにかく数で押し切ることを考えた。
ミュレス大国軍の武器は何と言っても数であった。
それに、今回の戦いの懸念点は新兵器だけなので、相手の新兵器を封じることができた今、もはやエレーシー達に怖いものは何もなかった。
「わー!」
エレーシーの命令に呼応するように、兵士達は天政府軍に突っ込んでいった。
「手が空いていたら、相手の中に雷撃魔法を打つんだ!」
「はい!」
ルーヌも、ここぞとばかりに畳み掛けるような攻撃を指示した。
すると、天政府軍の一団の後方に閃光が走った。
「わぁっ!」
その瞬間、辺りに響き渡る轟音。
まさに青天の霹靂に晒された天政府軍は、何が起こったか分からないといった顔で狼狽えていた。
しかし、雷撃に慣れていないのは天政府軍だけではなかった。
「こちらの攻撃だ! 怯むな! 行け! 行け!」
思いもよらなかった雷撃に一瞬手が止まったのはミュレス大国軍の方も同じであったが、エレーシー達の声を聞き、なるべく気にしないようにしながら、目の前の天政府軍との戦いに集中するようにしていた。
「撃て! ひたすら撃てー!」
ルーヌの命令に従って、特殊能力部隊は敵陣に炎、水、雷、その他ありとあらゆる魔法を駆使して天政府軍に攻撃を仕掛けていた。
「うわっ、何だ?! 何だ?!」
空は晴天にも関わらず、至るところから雷鳴轟く戦場では、百戦錬磨の天政府軍とはいえ、ただただ戸惑うしか無かった。
そうしているうちに、相手の兵力も相当に少なくなっていることに気がついた。
「よし、雷撃やめ! 支援に徹せよ!」
「はい!」
頃合いを見計らって、ルーヌはミュレス大国軍の前線をとにかく前に進めるために雷撃を打たせないようにした。
「さあ、このままエルネンベリアまで!」
それに合わせて、フェルファトアはとにかく前進を命じた。
その一方で、エレーシーはこの戦局を見て、これからこの戦いをどう畳むかについて考えていた。
ここを乗り切るのに殲滅という道は、なかなか取りづらかった。
天政府軍の数があまりにも多いからであった。
殲滅となれば、ミュレス大国軍側も疲弊することは明らかであった。
エレーシーはあくまでも、ここで勝利を収め、そしてエルネンベリアを制圧する。
それを第一に考えていたのであった。
「よし、ここは中央を割って、とにかくエルネンベリアを制圧しよう!」
「でも、エルネンベリアまでは結構あるわよ?」
「そうはいっても、この平原で日をまたいで戦うわけにはいかないよ。私達には拠点が必要だ」
「……分かったわ。そのように進めましょう」
フェルファトアはエレーシーの強い主張に目で肯んじ、エルルーアと今後の作戦についてその場で多少の打ち合わせを行うと、それを伝令役の兵士に伝えた。
「作戦始め!」
「突っ切れ!」
伝令が渡った頃合いを見計らってエレーシーが命令を下すと、それぞれの幹部や隊長が声を張り上げた。
「わーっ!!」
これまで、面と面でぶつかっていた両者であったが、この命令を機に、ミュレス大国軍は中央から次第にまとまり、密度を増していき、その密度でもって天政府軍を圧倒するようになっていった。
「特殊部隊! 進軍援護!」
「はい!」
ルーヌの言葉に従い、特殊能力部隊の兵士達は前線部隊の側に付くと、魔法攻撃を撃ち続けて天政府軍を寄せ付けないようにした。
「挟撃には気をつけて!」
「はい!」
フェルファトア達幹部の声を時々受けながら、ミュレス大国軍の隊列は先へ、先へ、深く、深く天政府軍の兵士の塊を真っ二つに切り開くようにして突き進んでいった。
「さすが天政府軍、結構分厚い……」
エレーシーがつぶやくのも無理はなかった。
分け入っても分け入ってもまだ続く天政府軍の兵団に、そのうち囲われてしまうのではないかという思いが芽生えてきた。
しかし、それでも進軍の手を止めるという選択肢はすでに彼女の前には無かった。
とにかく、眼の前にある天政府軍を振り切って、戦いの舞台をエルネンベリアに移すこと。
それしか考えてはいなかった。
それから暫く、ミュレス大国軍は前方も後方も戦いの真っ只中にいた。
いくら両軍の境界線にいるのは、主力の攻撃部隊とはいえ、後方支援部隊も気が気でなかったが、その思いが逆に彼女達を前進させるための原動力となっていた。
そうはいったものの、ここまで来ると、ミュレス大国軍の方がかなり優勢になっていた。
天政府軍は二分されたことで統率を取ることが難しくなっていたようだったが、その軍勢もかなり衰えていた。
そして、ついにその時がやってきた。
「よし、突破! 突破!」
エレーシーの言葉を機に、ミュレス大国軍の動きは更に速くなった。
「エルネンベリア、行くぞー!」
「わーっ!」
ヤルヴィアーの合図に答えるように、兵士達は一気に前方へと駆けていった。
「追え! 追え!」
それに続いて、天政府軍もエルネンベリアの方に移動していった。
しかしこれは、ある意味では後退を意味していた。




