一九六 ルーヌ・アートルー
メルーアはエレーシーと話し終わると、後ろを振り向いて手を振った。
「ルーヌ、おいでニャ」
メルーアが呼びかけると、一人の青年が走り寄ってきた。
「はい、こちら、ルーヌ・アートルーと言って、この村で一番の魔術師ですニャ」
「はじめまして、ルーヌと申します」
ルーヌはキラキラとした目で爽やかに挨拶をし、右手を差し出した。
「はじめまして、私はミュレス大国軍総司令官のエレーシーです。今後とも宜しくお願いします」
それに対して、エレーシーも右手で彼の手を握り、彼を受け入れた。
「ルーヌは、村一番の魔術師ということもあって、もちろん攻撃力も強いし、我が村の魔術狩猟隊を引率もしますから、才能はあると思いますニャ」
メルーアは彼に対して、自信を持って太鼓判を押していた。
「ルーヌ、改めて言うけれど、私達の目標は、ミュレス民族の国を立てること、そのために打倒地上統括府ということだよ。そのために、死力を尽くして欲しい」
「はい! 私は、ミュレス民族の明日のために、全力を尽くしますので、何卒よろしくお願いいたします!」
ルーヌの力強い宣誓を聞いて、まだ彼の力を見てはいないが、エレーシーはふと安心した。
エレーシーはエルルーアと少し話をすると、再びルーヌの方を向いた。
「ルーヌ、貴方を『参謀兼特殊部隊長』に任命する。いきなりだけど、これから幹部として、私達ミュレス大国軍を一緒に引っ張っていこう!」
「はい!」
そして、エレーシーは会議の際に手を上げたという32人の村民とも顔合わせを行った。
彼らも、ルーヌと同じ魔術を使用した狩猟を行ったことがある者たちであった。
「皆さん、ミュレス大国軍へようこそ! これから皆さんには『特殊能力部隊』として、天政府軍の新兵器に立ち向かって頂きたいと思います。これから皆で、天政府軍を、そして地上統括府を倒すべく、一致団結して頑張っていきましょう!」
「はい!」
彼らもエレーシーの言葉に対してしっかりと受け答えしてくれた。
もう既に、ミュレス大国軍の一角を成していると言っても良い程になじんでいる。
エレーシーは早くもそう感じていたのだった。
エレーシーが感心していると、村長が近くにやってきて話しかけた。
「さてと、ところでいつ頃出発の予定ですかニャ?」
「そうですね……早く出発しようとは思っていますけど……」
「なるほど、実は、今日は村をあげて壮行会を開きたいと思っているんですニャ」
「壮行会ですか、いいですね」
「これだけごっそりと抜けることだし、しばし村の皆ともお別れになるし、やったほうがいいと思いましてニャ」
「分かりました。では、明日の朝に出発することにしましょう」
「ありがとうございますニャ。では、早速壮行会の準備に入りますニャ」
メルーアはそういうと、急いで家の方に戻っていった。
「それじゃあ、ルーヌ、壮行会が始まるまで、しばし訓練にあてようか」
「はい! じゃあ、皆、向こうの広場で訓練していこう!」
ルーヌは早速、隊長として隊員を引っ張っていた。
エレーシー達軍幹部達は壮行会が始まるまで、ルーヌと一緒に特殊能力部隊の訓練を見守っていた。
エレーシーとエルルーアは魔法というものを見るのは初めてで、彼らが扱う魔法の訓練は非常に新鮮なものであった。
やがて日が沈むと、村長に呼ばれて壮行会が始まった。
壮行会の初めには村長がこれから戦場に赴く兵士達に向けて激励の言葉を披露した。
「それでは、ここで、総司令官からお言葉を頂きたいですニャ」
メルーアはいきなりエレーシーに話を振った。
「えー、それでは、僭越ながら話をさせていただきます。ミュレス大国軍総司令官のエレーシー・ト・タトーです。先日は、突然訪れた私達を受け入れていただき、ありがとうございました。また、この度、この村から33名もの村民の方々が、我がミュレス大国軍の仲間になることを受け入れてくださり、心からの感謝を申し上げます」
エレーシーは一通り、昨日から今日に至るまでのことについて、感謝を述べた。
「さて、我々ミュレス大国軍は現在、地上統括府および天政府本国から派遣された天政府軍を打ち倒すべく、戦争を繰り広げているわけですが、現在、我々は天政府軍の新兵器に対抗する有効な手だてもなく、圧倒的な劣勢に立たされているわけであります。そのような中、もはや魔法による支援が必須であるということで、この度、こちらに訪れたわけですが、ここで、ルーヌ・アートルー特殊部隊長および32名の兵士の皆さんには、大いに期待しております。ぜひ、我がミュレス大国軍を救ってくれる、我々の救世主として、天政府軍の新兵器に臆することなく、立ち向かっていただけることを期待しております。今後も、ぜひ、我々と一緒に、天政府軍を打ち崩していこう!」
エレーシーは入隊してくれた村民に向けて、再び激励の言葉を贈ると、周りから拍手が沸き起こった。
彼女はそれに少し照れながらも、席に戻ると、彼らを送るための宴が始まったのであった。
その宴は夜遅くまで続いた。
そして、翌朝、早くにエレーシー達はヴェドラ・ラプラデネアを出発した。
その中にはもちろん、この村を出る特殊能力部隊の姿もあった。
早朝にも関わらず、村民皆で送り出してくれ、彼らの絆の深さが垣間見えた。
エレーシーは彼らを預かった以上、その身に新たな責任がのしかかるということが頭をよぎったが、改めて次の天政府軍との戦いに、彼らをどう活かしていこうかということに考えを巡らせていた。




