一九五 村長との会議
「……さてと、それでは貴女達がこの村にお越し下さった件について、お話を聞かせて頂きたいですニャ」
「ありがとうございます。私達は、打倒地上統括府、ミュレス民族の主権回復のため、天政府人や天政府軍と戦っているのですが……」
エレーシーは、いよいよ本題に入るとなり、意を決して言葉を続けた。
「この村の方たちにも、天政府軍との交戦に、ぜひとも協力していただきたいと思い、こちらにお伺いした次第です」
エレーシーの言葉に、メルーアは腕を組みながら首を傾げつつ聞き、少し眉をひそめつつも回答を考えていた。
「うーん……そうは言っても、この村は割りと平和にやってきた村ですからニャ……やっぱり、交戦ともなれば危険でしょうニャ……」
「それは、確かに戦場ですので、もちろん大きな危険は伴います」
エレーシーは、そこは包み隠すこともなく、はっきりと伝えた。
「そうですニャ……戦場に出すということは、これまでになかった危機に村民を晒すことにもなりますし、出来れば戦力として出したくは無いですニャ……」
メルーアの一次回答に、エレーシーは交渉が困難になりそうな気配を感じた。
おそらく、この村は開けた高原にあるとはいえ、大街道から外れたところにあるため、天政府人の圧政がそれほど伝わっていないのではないかと感じられた。
天政府人と戦うほどの緊急性を感じていないようだった。
それに、確かにメルーアの言う通りで、村の人々の上に立つ彼女としては、そうやすやすと村民の命を差し出すことはできないということであろう。
しかし、ミュレス大国軍としては、北方白猫族の力が必要であった。
何としても、彼女達を軍に招き入れなければならなかった。
エレーシーはどうやって彼女を説得しようかと、その場でしっかりと考えた。
「なるほど……ちなみに、この村は地上統括府からの影響は無いんですか?」
「うーん、無いわけでは無いですニャ。たまに地上統括府から役人が来て、税金を取り立てて来るついでに、色々と注文を付けたり、若い村民を徴用しに来たりしますニャ」
エレーシーは影響がないかと思っていたが、どうもそういうことではなさそうで、ここに突破口があるのではと考え始めた。
「そうですか。税金は安いですか?」
「うーん……数年前に割りと安くなった時期もあったのですが、最近は高くなる一方ですニャ。この村は畜産もしていますが、大部分は農業で、年によって変動するものですので、最近は滞納したりもしてますニャ」
「お困りのようですね。しかし、皆さん、北方白猫族は魔法が使えるとお聞きしております。そんなにお困りなら、天政府人を魔術で追い払ったりはしなかったんですか?」
「まあ、正直言えば、したい気持ちも無いわけでは無いですけど、そんなことをしたら、地上統括府と敵対することになりますニャ。そうなれば、村自体の存亡の危機にもなりますから、そんなことはしませんでしたニャ」
「私達ミュレス大国軍は、ミュレス民族による国家の樹立を目標に掲げて活動しています。ミュレス人の政治になれば、無駄に高い税金を払うこともなくなりますし、天政府人の威圧的な取り立てもなくなります。それに、徴用もなくなります。今、天政府人の姿に怯えたるすることはないですか……?」
エレーシーは、ここぞとまくし立てた。
「うーん、天政府人の姿に怯える……そういうことも無いわけではないですニャ」
「我々ミュレス民族が民族自決を勝ち取れば、もう天政府人に怯えることはなくなるでしょう」
「うーん、なるほどニャ……」
エレーシーの熱弁に、メルーアは前向きに検討をし始めたようで、これまでのように訝しげにエレーシーを見つめるということもなく、先程よりは目を輝かせて話を聞いていた。
「しかし、我々ミュレス大国軍は、天政府軍の新兵器により、窮地に立たされています。この状況を打開するためには、この村の魔術が必要なのです」
「なるほど、分かりましたニャ。話をしたいので、少しお時間をいただけますかニャ?」
メルーアの言葉に、エレーシーは目の前がひらけた気がした。
「ありがとうございます」
「まだ結論が出たわけではありませんニャ。でも、村民の意識と覚悟があれば、そちらを尊重したいとは思いますニャ」
エレーシー達が家から出ると、メルーアはまとめ役と思しき村民といくらか話をすると、村は一気に慌ただしく動き、村民達は一軒の家に集まっていった。
一方、ミュレス大国軍の幹部と兵士達は、それぞれの家に分かれて寝床を提供された。
おそらく夜通し会議を開く予定だろうと思えた。
そして、次の日の朝。
エレーシー達は再びメルーアの使いの者に呼び出された。
エレーシーは彼女の回答がどのようなものか、ドキドキしながら、恐る恐る村の中央広場にやってきた。
「おはようございますニャ」
広場で先に待っていたメルーアが先に挨拶をした。
「おはようございます」
「昨日からの会議がようやく終わりましたニャ」
「はい」
「その結果、いくらかの人は、貴女達の軍に参加したいと手を上げてくれたので、その人達を連れて行っていいですニャ」
メルーアの回答を聞いた時、またエレーシーはパッと笑顔を見せた。
「ありがとうございます!」
「いいですニャ。後で、中心人物を紹介しますニャ」
「本当に、ありがとうございます!」
エレーシーはメルーアの手を取って、大いに喜んだ。




