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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第一章 シュビスタシアの合意 ・ 第一節 ハリシンニャ川の計量官
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一 港の計量官

 地上天暦351年。


 天政府ミュレス地上統括府より遠く離れた海岸沿いの商都シュビスタシアでは、ハリシンニャ川沿岸で取れた作物を川船で集め、シュビスタシア港で商船に載せ替えて地上統括府市まで運んでいた。

 商船業者はすべて天政府人が取りまとめており、川船や商船の雇われ漕手のミュレス民には、やっと一日を乗り切るのに足りるだけの金銭しか支払われなかった。


 このような形態であるから、船から遠ざかるほどに金が行き渡らなくなってくる。

 結局、町の住民の中には、昼夜別々の仕事に就かなければならない人も出てきていた。


 対して、商船業者や政府の者たちは毎日酒の池に浸れども使い切れない程の金を、毎日毎日溜め込んでいる。


 町のミュレス人は、如何にして天政府人共から金を引き出すかに頭を捻り続けることになる。


 ついに自分の身を売り、金を手っ取り早く得ることに成功した者は周りの貧しい者に金を渡すことを始めた結果、町民の中にも階層が生まれ、階層対立による諍いにより町の治安がさらに悪化していった。



 決して天政府人共の知る余地のない暗澹たる空気がこの港町に流れる中、16歳のエレーシー・タトーは、毎日川のそばにある船着き場で、ずっと荷物の重さを量る仕事に従事していた。


 毎日朝早くに起き、まず夜中に着いた作物の重さを量り、量った重さを紙に書いて支払所に持っていくと、支払所の天政府人が重さに応じたお金を船の管理者に渡す。

 川船の船着き場では、船の管理者は漕手である。


「エレネ豆、300レドーノ。テスコク麦、400レドーノ。全部下ろした?」


「全部下ろしたよ」

 重量計測場では、必ず漕手が同伴して計測を行う事になっていた。


「ちょっと待ってて」

 エレーシーの仕事は紙を支払所に持っていくと終わりである。


「なんで1100フェルネしかないの?」

 船の漕手が不機嫌な顔でエレーシーに迫ってきた。


「そう言われてもね……」


「私はね、毎日同じ量を積んで、同じ量をこっちに持ってきてるの。昨日まで1300は貰えたのに、今日は1100しかないってのは、おかしいでしょ。ちゃんと見てるの?」


「見てるよ。横で見てたでしょ」


「そりゃ見てたよ。でもね、一日で200も減るっておかしいって」


「……そういう事は支払所の人に言ってよ」


「何言ってるの? 天政府人にどうこう言えるわけないでしょ!」


「あのね、私はここで重さを量るだけなの。もっと欲しかったら、もっとレートのいいもの運んでくるか、たくさんの荷物持ってきて。はい、次」

 結局、彼女には長い口論の末に引き下がってもらったが、これはまだ良い方であった。



 ここにいると、ミュレス民族の醜い面を色々と見るようになる。


 重量が合わないと言い張る者、重さをごまかそうとする者、さらには、天政府人に仕えている身であるエレーシーを天政府の飼い猫と詰る者。

 しかし、大概は治安管理員を呼ぶと脅せば引き下がってくれた。エレーシーは湧き立つ熱い情を抑え、ただ冷酷に仕事をこなすことだけを考える。


 こんな一日を耐え凌いでも、一日に貰えるのはたった25フェルネである。25フェルネでは3食を野菜飯で済ませても4フェルネしか残らない。


 あまりに困窮し、夜の仕事をした時期もあり、一日に200フェルネも稼げたので計量の仕事をやめようと考えたこともあったが、稼いだ金を盗まれたことをきっかけに夜の仕事に踏ん切りをつけた。


 エレーシーだって、天政府人は嫌いだ。


 昼の仕事では特に手を出さない天政府人も、夜の仕事では乱暴を働く。同じミュレス民族は優しいが、天政府人は昼のストレスをすべて自分にぶつけてきた。


 とはいえ、この国で暮らすには、自分がミュレス民族である以上、天政府人の言いなりになって生きていくしかないのだろうか……。


 エレーシーは、毎夜そのような事を考えながら眠りにつくのであった。

 この度は、数ある小説から「ミュレス帝国建国戦記」をお選びいただきまして、誠にありがとうございます。


「面白そう」「続きが気になる」


 などと感じられましたら、下の☆☆☆☆☆から評価いただけますと幸いです。


 また、ブックマーク登録もよろしくお願いいたします。


 それでは、引き続き「ミュレス帝国建国戦記」をお楽しみください。

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