一九四 ヴェドラ・ラプラデネア
別部隊として動くこととなった特任部隊は、これまでの戦いとはうってかわって、地味な遠征となった。
メルペラーディアからヴェドラ・ラプラデネアまでの道筋は、一旦大街道まで出て北上し、途中でまた分岐して山の中に入っていくのが本流であるが、いつあの新兵器を携えた天政府軍に遭うか分からない彼女達にとっては、非常に危険性を孕む選択肢であった。
そのため、メルペラーディアからさらに大街道から離れ、山の中の村と村を繋ぐような生活街道を渡り歩きながら北上して、ヴェドラ・ラプラデネアを目指すこととした。
この道程は、途中で歩きにくい場所を通るものの、大街道を経由する道のりよりは早く着き、その翌日の昼過ぎには、ヴェドラ・ラプラデネアに着こうとしていた。
周りはすでに森の中というよりは、開けた高原のような状況になっており、その中におよそ百数十軒もの家々が固まっているようだった。
「あれが、ヴェドラ・ラプラデネア?」
その光景が遠くに見えると、エレーシーはヤルヴィアーに質問した。
「はい、あれです」
「なるほど……これは村というより町だね。これまで通ってきた村々よりも結構賑わっているみたいだよ」
「この辺りの北方白猫族は、どんなに大きくなっても『村』と言ってますからね。名前だけじゃ、規模はうかがいしれません」
「そういうことか……まあ、大きくても小さくても、やることは同じだよ。協力してもらえるように交渉する!」
エレーシーは村を前にして、意気込みを新たにすると、再び歩みを進めた。
村の中はかなり活気があり、何人もの村人が表に出て何らかの作業を行っていた。
ふとその中の一人がエレーシー達に気がつくと、慌てて他の人に知らせ始めた。
次第に騒ぎを聞きつけた村民達が集まってくるようになり、それなりに大きな人だかりとなっていった。
エレーシーもその様子を遠くから見ることが出来、やはり大勢でここまで来たのは間違いではなかったと実感していた。
やがてエレーシーが入り口までたどり着くと、その村民の一人を手で招いた。
「こんにちは。私達は、天政府軍によるミュレス民族の圧政から反抗し、再びミュレス民族の手でこの地に我が民族の国を作ろうと戦っている、ミュレス大国軍のものです。北方白猫族の皆さんのお力をお借りしたく、交渉に参りました。この村の代表の方はいらっしゃいますか?」
エレーシーにそのように言われた村民は、状況を飲み込むために少し間を置いて頷いた。
「分かりました。少しお待ち下さい」
そういうと、彼は村の中へと入っていった。
しばらく村の入口で待たされていると、先程の村人が他の人を連れて帰ってきた。
「村長、こちらが先程のミュレス大国軍の方です」
「ありがとう」
彼が連れてきた女性は、見た目はエレーシーよりも15歳は上のようではあるが、「村長」というにはまだ若いように見えた。
「こんにちは。私は、ミュレス大国軍総司令官のエレーシー・ト・タトーです。宜しくお願いします」
エレーシーは、村長が前に出てくるとすぐさま自己紹介をした。
「こんにちは。この村の村長を仰せつかっております、メルーア・オーノルと申しますニャ。こちらこそ、宜しくお願いしますニャ」
エレーシーはこれまでに聞いたこともない訛りに少し驚きを覚えつつも、話を進めることにした。
「実は、こちらに参りましたのは、お願い事がありまして……」
「なるほど、まあ、ここで立ち話もニャンですから、どうぞ中へお入り下さいニャ。後ろの皆様も、村内でごゆっくり過ごされるといいですニャ」
「あ、お気遣いくださり、ありがとうございます」
メルーアはエレーシー達をひとまずは受け入れて村内へ入れてくれ、兵士達はとりあえず中央にあった広場に腰を据えて休憩をすることにした。
一方、エレーシーとエルルーアはメルーアに連れられ、一軒の家へと通された。
それはメルーアの家であるように思われた。
どうやら、この家でゆっくりと話をしようということのようだった。




