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一九二 天政府軍の新兵器

 エレーシー達がレプトフェリアを出発してから、数日が経った。

 彼女達は既に「北ミュレシア」の入り口とも言えるファルナデネアの町を出て、既に数時間進撃し続けていた。

 既に夏の真っ只中となっており、あまり外に出ていると体力が奪われることも考えると、早く次の町に着きたいと誰もが思っていたところであった。

 辺りは平原となっており、ほとんど植物もない。

 まさに開けた土地となっていた。


「この周りに街ってあったっけ?」

 エレーシーは、統括指揮官のフェルファトアと参謀長のエルルーアに歩きながら尋ねることで、小さな会議を開きながら、現状や今後の予定を確認していた。

「この先には、確か『エルネンベリア』という街があったはずだわ」

 フェルファトアは、前職の知識を活かして答えた。

「エルネンベリア……聞いたことないな」

「エレーシーさんは最近ずっとそう言ってるわね」

 エルルーアが横槍を入れた。

「私達は大陸間海沿いの人間だからね。トゥリフニア海側の、しかもこんな北にある街までは、学校で学んだかもしれないけど、もう覚えてないなあ」

「そんなものかしら。エルネンベリアは割と大きな街よ」

 エルルーアは素知らぬ顔で答えた。

 流石に、地上統括府市の学校で学んだだけのことはあると、エレーシーは改めて感心した。

「エルネンベリアって、クーカルダルシアとかよりも大きいの?」

「流石にクーカルダルシアほど大きくはないけど、ヴェルデネリアよりは大きいような気がするわ」

「フェルフはエルネンベリアに行ったことがあるの?」

「ええ。こっちの方も教科書を配達しに来たこともあるし……」

「流石、全国を周っていると強いなあ」

 エレーシー達はそんな他愛もない話をしていると、ふいに隣にいた護衛役の兵士に話しかけられた。

「統括指揮官、あそこを見てください」

「何? どうしたの?」

 その兵士は、前方遠くの方を指さした。

「ん?」

「ほら、なにか見えませんか?」

「どれどれ……」

 エレーシー達が目を凝らすと、天政府人と思しき2つの人影が、街道上に立っているのが分かった。

「えーと……天政府人っぽいけど……」

 そう思っていると、その2つの人影は、北の方に走っていった。

「どうしたんだろう……」

「こういう時だし、武器の準備を一応した方が良いかもしれないわね」

 フェルファトアは自分の考えをエレーシーやエルルーアに確認した。

 二人ともうなずくと、参謀を通じて隊長に連絡すると、軍は戦闘準備体制に移った。


 それからまたしばらく歩き続けていると、またもや近くの兵士が遠くを指差した。

「あっ! 総司令官! あれを!」

 エレーシーが言われたように前の方を見ると、遠くから天政府軍と思しき、凄まじいほどの人の群れが近づいてきていた。

「エレーシー、あれは……」

「うん。これは大変なことになる。皆! すぐさま迎撃用意!」

 エレーシーは一旦足を止めると、後ろにいた兵士達に命令を下した。

 兵士達はザッと武器を準備すると、これまでよりも一層慎重に歩を進めた。


 両者とも近づいてきているからか、その姿が大きく見えるまで、それほど時間はかからなかった。

 相手方は約5千人程で、かなり幅を持って広がっていた。

 天政府軍の様子を見るに、明らかに攻撃の意思を持っていることは明らかであった。

 そうなれば、エレーシー達もそれ相応の対応をしていくことになる。

「これは回避は無理ね……」

 フェルファトアは天政府軍の様子を見て、エレーシーに伝えた。

「この様子を見るとそうだね。よし、平地第三作戦で行こう」

「よし、平地3番! 平地3番!」

 フェルファトアは作戦を幹部に伝えると、それを隊長に伝令し、それを受けてすぐさま陣形を変えていった。


 しかし、このような平地での大規模な衝突は、ミュレス大国軍としては初めてであった。

 これまでは、街の入り口であったり、街中であったりと、障害物やいわゆる「地の利」を得るようにしながら戦うのが、この軍の常であった。

 しかし、今回は山も川もなく、街もなければ森もない。

 全く身を隠すようなところはないのである。


 それから双方が衝突するまでに時間は掛からなかった。


「撃て! 撃て!」

 まず、アビアンが弓矢部隊に攻撃命令を下すと、それに呼応して、弓矢部隊の兵士達はすぐさま矢をつがえ、一瞬も絶やすこと無く矢を射続けた。

「前線部隊! 行くぞ!」

「おー!」

 その後、前線部隊も天政府軍の壁に挑んでいく。

 天政府軍に回り込まれて囲まれることのないように、常に端の方を前に出して、逆に囲うような形になるように気をつけながら、戦いを進めていた。


 戦いは、順調とはいかないものの、均衡状態を保ててはいた。

 しかし、突如、大きな爆発音が戦場にこだました。

「うわああっ!!」

 その音は、およそミュレス人にとってはこれまで全く聞いたことのないほどの轟音だった。

 そして、その瞬間に音の発生源辺りから火と煙が立ち上った。

「何!? 何!?」

 エレーシー達幹部達も、その音に反応したとともに、熱を感じていたが、目の前の前線から目を離す訳にもいかなかった。

「わぁっ! また!?」

 そのうち、至る所から火が上がり始めた。

 ミュレス大国軍の兵士たちは、これまでの戦闘とは全く違うことを思い知り、戦闘中にも関わらず、狼狽え始めていた。

「エレーシー! あれ!」

 エレーシーはフェルファトアが指さしたところをよく見ると、天政府軍の兵士がこちらに何かを投げていることに気がついた。

「……あっ!」

 そして、それが地面に着くと、そこから火が上がっていることに気がついた。

 エレーシーはそれが何かということは分からなかったが、それがこの「爆発」の原因であることは違いなかった。

「新兵器だ……!」

 エレーシーが天政府軍の新兵器について理解しているうちに、新兵器による犠牲が増えていった。

「これは……勝てない!」

 エレーシーは数秒の思考から、そう判断していた。

 「努力」だとか「根性」という言葉云々よりも、この新兵器に立ち向かう術を持っていなかったのだ。

 ここでむやみに戦いを引き伸ばすことは、いたずらに犠牲を増やすだけになってしまう。

「よし、撤退しよう!」

 エレーシーは即座に判断を下した。

 そして、この決断にはフェルファトアもエルルーアも理解した。

「撤退! 撤退!」

 フェルファトアは直ちに命令を下した。

「わーっ!」

 一旦撤退命令が出ると、ミュレス大国軍はそれまでの進もうとしていた力を反転させ、一刻も早くその場から逃げようと走り始めた。

「前線部隊! 防衛開始!」

 前線部隊担当のティアラが命令すると、前線部隊は後ろを追ってくる天政府軍に攻撃をしかけ、影響が波及しないように徹底防戦に出た。

「弓矢部隊も後方射撃開始!」

 前線部隊と弓矢部隊の二部隊で天政府軍に対処していく。

 しかし、天政府軍はどこまでも追ってくる。

 これまで必死になって勢力拡大していたところではあるが、全滅を避ける方が先決であった。

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