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一八九 シュビスタシア再奪還へ

 しばらく経って、使いに出した兵士が戻ってくると、ヴェステックワ達に調査結果が報告された。

「どうだった?」

「はい、やはり中には人がいるようです」

「それで、どこから入れそう?」

「どうも、右側の奥から3番目の窓のところが、一番人気がなさそうです」

「右側の奥から3番目というと……確か雑多な紙を置いている部屋ね。私が入ったときも特に使っていなかったけど……」

「制圧に関してはどうです?」

 隊長が尋ねた。

「階段からは少し遠いから不利ではある……左側の一番手前の方はどうだった?」

「そこは結構人の気配がしました」

「なるほど、やっぱり、階段周りは固めているか……」

「どうします?」

「大体、どこにどれだけ人がいるかは分かったし、不意打ちを受けることもないでしょう。彼らが引き付けられる時間も後僅かでしょうし、静かに攻め込みましょう!」

「はい!」

 ヴェステックワは隊長に突撃を命令すると、隊長は部下の兵士達を玄関前に固めさせた。

「それじゃあ、行くよ。3、2……」

 隊長の合図で玄関の扉が静かに開かれると、いつものように声を上げて攻め込むでもなく、静かに、しかし一気に建物の中へと入っていった。


「何だ?!」

 これにいち早く反応したのが、一階で留守番をしていた天政府軍であった。

「襲撃! 襲撃!」

 次の瞬間、他の兵士が声を上げると、各々バタバタと武器を持ち立ち上がり始めた。


「前方は上へ、後方は応戦を!」

 ヴェステックワは暗い建物の中で、兵士を率いながら指示を出し始めた。

 前のシュビスタシアの戦いでもそうであったように、夜、とりわけ暗いところでは、ミュレス民族の方が分があることは、ヴェステックワも知っていた。

 とにかく階段を素早く駆け上がること。

 それこそが、勝利への近道であると、この計画を立てたときから考えていたのであった。


「上の階にも早く連絡しろ!」

「はい!」

 天政府軍の見張り隊長が兵士に指示すると、彼はすぐさま外に出ていった。 この市役所には階段は一つしかなく、ミュレス大国軍の兵士でひしめき合っている階段を使うよりも、外から回っていった方が早いと思ったのだろう。

 そして、最初に立ちはだかったのは、階段の見張り番であった。

 事前調査で兵士が報告した通り、階段の前には兵士が5~6人程いた。

 彼らはヴェステックワ達が突入するやいなや立ち上がり、早々に臨戦態勢を整えていた。

 一方のミュレス大国軍は、ヴェステックワの命令を受けると、隊長を筆頭に、敵兵に挑んでいった。

「とにかく道を作るぞー!」

「おー!」

隊長の掛け声に答えるように声を上げると、一斉に剣を抜いて階段へと突き進んでいった。

「わーっ!」

 両陣営の兵士達は勇ましく声を上げながら衝突し合った。

 その声は建物の外まで響いたらしく、外で暴徒の対応をしていた天政府軍の兵士達も驚いて建物の中に戻ってきていた。

「わぁっ! 入り口から天政府軍が!」

 あまりの混乱ぶりに、その事は後ろから斬り付けられて初めて気づいたようだった。

 事実上、囲まれるような状況になったミュレス民族部隊であったが、どちらも天政府軍の層がそれほど厚くないことが功を奏した。

「最後尾、玄関口での応戦を! 前の方の部隊は道を切り開いて!」

 ヴェステックワは、喧騒の中で状況を把握しつつ、それぞれに指示を出した。

「わーっ!」

 兵士達はそれに応えるように、さらに声を上げて天政府軍に挑んでいった。

「シュビスタシアは私達のものだー!」

「民族の明日のためにー!」

 その時、ミュレス人の暴徒達が天政府軍を追って、市役所の中へと入っていこうとした。

 結果的に、玄関口にいた天政府軍はミュレス人によって挟み撃ちにされていた。

 しかし、暴徒はあくまで民間人である。

 ヴェステックワとて、民間人に被害が出ては申し訳ないばかりか、せっかく協力してくれたエルダンディアに合わせる顔がなくなってしまう。

「後方部隊、一刻も早く天政府軍の制圧を!」

「はい!」

 ヴェステックワの命令を受けて、後方部隊はさらに気合を入れて天政府軍と剣を交えていった。


「よし、道が開けた!」

 しばらく経って、最前線で戦っていた隊長が声を上げた。

「突撃! 突撃!」

 そう言って、瀕死の天政府軍兵士達には目もくれず、一目散に上へと駆け上がった。

「ありがとう、ここから先は、私達に任せて下さい」

 後方部隊の隊長はこれまで騒いでいた暴徒をなだめて帰すと、玄関から階段までに散らばり、1階での動きを牽制した。


 ヴェステックワ達が2階に上がると、奥の方からさらに天政府軍の兵士達が現れた。

 やはり、この市役所には相当な数の兵士達が詰めていたようだった。

 このことからも、天政府軍がどれだけシュビスタシアを重視しているかどうかが伺いしれた。

 流石に、このミュレシアで第二の都市だけあった。


 しかし、それはヴェステックワも同じであった。

 前回、多くの犠牲を払って奪還したシュビスタシアをすんなりと天政府人に再奪還されたということもあり、何が何でもこの地を再びミュレス民族の物にしたいと思っていた。

 そして何より、今回、シュビスタシアの再奪還を軍幹部に伝え、ティナの死以降、落ち込んでいたミュレス大国軍を再び景気づけたいと思っていた。

「行け! 行け! 絶対に奪還するぞ!」

「わーっ!」

 このことはヴェステックワの下についている兵士達には何度も伝えていたので、これはもはや共通認識となっていた。

 それ故に、誰もが背水の陣と感じて戦いに挑んでいた。

 ミュレス大国軍の兵士達は、これまでの勢いを緩めること無く、常に歩みを前に進めながら、敵をなぎ倒していった。

 暗い中では、夜に目が効くミュレス人の方が優位であった。

 彼女たちは天政府軍の兵士達が気づかないうちに囲い込み、次々と無力化していった。


「さあ、市長室はあの奥よ!」

 ヴェステックワが指さしたのは、階段の先であった。

 これまでの経験から、3階にも天政府軍の兵士達が待ち受けているのだろう……

 彼女たちはそう思いながら、これまでの勢いそのままに階段を登っていった。


 しかし、彼女たちの予想とは裏腹に、3階はこれまでとはうってかわって非常に静かであった。

 その階には、彼女のドタドタといった足音しか響かなかった。

 思えば、2階に上がった時に、天政府軍の兵士達は上から降りてきていた。

 おそらく、あれが彼らの全戦力だったのかもしれなかった。


「気をつけて……どこかに潜んでいるかもしれない……」

 ヴェステックワは隊長と共に先頭に立ち、これまでの勢いが嘘かのように思えるほど、後ろに連なる大所帯を静かにさせた。

「後ろにも気をつけて。さあ、市長室行くわよ……」

 二人は周りを警戒しながら、そろそろと市長室まで近づいていった。

 そして市長室の扉に手を掛け、一気に扉を開けた。


「……あれ、人が誰もいない」

 ヴェステックワが扉を開けると、そこはもぬけの殻であった。

 それとも、彼らは普段からこの市長室を使っていなかったのかもしれない。

 そのようなことを彼女が知る由もないが、ともかく、市長室を押さえたことで、ほぼシュビスタシアを奪還したことと同義であると考えている。

「皆さん、これで私達はシュビスタシアの市役所、シュビスタシアの中枢を占拠したことで、ひとまずはシュビスタシアは天政府人の手から、我々ミュレス民族にまた戻ってきたことになります」

 ヴェステックワがそう宣言した瞬間、兵士達から歓喜の声が上がった。

「待って!」

 喜びに沸いている兵士達を見て、ヴェステックワは即座に制止した。

「確かに、我々は中枢をこの手に収めたことで、一応、シュビスタシア奪還を果たしたことになります。しかし、それは非常に狭い所での話です。まだこの建物の中、2階や1階には天政府軍がいます。それに、街中にもいますね。これからは、我々は攻撃から防衛に移ります。今度は、また奪還された、などということがないように、しっかりと前回の襲撃を反省し、しっかりと防衛に徹する。これからはそういう時季になります」

「はい!」

 ヴェステックワはそう言うと、隊長に今後の防衛について一旦任せ、自身は地下駐留部隊の本部へと赴いた。

 もはや地下駐留部隊の必要はなくなった。

 彼らに引き上げさせ、市役所に移させること。

 エルダンディアに奪還に成功したことを報告すること。

 そして何より、レプトフェリアで待つ総司令官に報告を送るためであった。

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