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一八六 首謀者エルダンディア

 ヴェステックワは今、防衛班が任務達成の為に頑張っているであろう暴動の拠点の事を思いつつも、机の上に散らばった書類に目を通しながら、その後の交渉の事について考えていた。

「さてと、どう持っていこうかな……ん?」

 彼女が机に向かって作戦を考えていると、やがて廊下の奥のほうが一旦騒がしくなった。

「失礼します!」

 どうしたんだろうと気になって椅子から立ち上がると、その瞬間に防衛班長が訪れた。

「隊長、暴動の指導者をこちらまで連行致しました」

「おお、お疲れ様。すんなり応じてくれた?」

「いえ、非常に抵抗しています」

「まあ、そうでしょうね。とはいえ、そんなに手荒なことはしてないでしょうね?」

「はい。せいぜい手を縛る程度です」

「それは仕方がないわね。今はどこに?」

「今は、防衛班の待機室で班員に見張らせています」

「防衛班待機室か……よし、交渉は会議室でしましょう。私と貴女で会議室の準備をしましょう。エルダンディアを呼びに行くのは、それからでもいいでしょう」

「はい!」

 ヴェステックワは班長とこれからの段取りについて話をつけると、机上に広がっていた書類を集めて会議室の方へ向かった。


 会議室の準備といっても、それほど手間のかかるものではなかった。

 机一つを挟んで椅子を防衛部隊側に二つ、そして首謀者の為に一つ置くと、他の机や椅子は全て部屋の隅へと移動させた。

 部屋の中央に机を置くことで、多少なりとも威圧感を与えようという考えであった。

 準備を終えると、防衛班長は首謀者を連れてくるために静かに部屋を出ていった。


 ヴェステックワは防衛班長が戻ってくるのを待つ間、椅子に座って待つことはせず、部屋の中を歩きながら、総司令官からの手紙を読み直していた。

 そうこうしているうちに、扉の向こう側が騒がしくなっていることに気がついた。

 やはり、どうもすんなりとは進みそうにない。

 ヴェステックワはその音から察していた。


「さあ、入って」

 防衛班の兵士が扉を開けると、誰かの手を引っ張って中に入らせようとしていた。

「入って、だって? 悠長におしゃべりでもするつもり!?」

 連れられた女は、扉の前でさんざん喚きながら周りの兵士に当たり散らして抵抗した。

「ま、そうかもしれないが、ほら、部隊長がお待ちだ」

 兵士は彼女の退路を断つように周りを固めながら、一歩一歩部屋の中に入るように誘導した。

「部隊長ですって!? 天政府軍に負けてから何もしてない防衛部隊の長が私に何の話があるって言うの!」

「まあ、まあ」

 兵士達は暴れる女を三人がかりで部屋に押し込むと、そのまま後ろの扉を締めて見張りに就いた。

「何? 監禁でもしようっての?」

 それでも女はまだ兵士に盾突き、とにかく外に出ようともがいた。

「あ、あの……」

 ヴェステックワが話しかけると、彼女は兵士の方から顔を背けて睨みつけた。

 獲物を狩る獣にも似た、ぎらぎらと鋭く輝く瞳に、思わず圧倒されていた。

 しかし、防衛部隊長としての任務は全うしなければならなかった。

「……私がミュレス大国軍防衛部隊長のティナ・ヴェステックワです。はじめまして……」

 自己紹介を済ませるとともに右手を差し伸べた。

 しかし、その手はいとも簡単にはねのけられてしまった。

「まさか同じミュレス民族に邪魔されるとは思わなかったよ」

 エルダンディアは言葉を吐き捨てると、再びヴェステックワの方を睨みながら、再び扉の方を向いた。

 しかし、扉の前には既に兵士が3人でその扉を塞ぐようにして立っており、勝手に出ていくことも出来ないことは明らかであった。

 エルダンディアは目を丸くして再びヴェステックワの方を振り向いた。

「……さあ、そんなに手間を取らせるつもりはないわ。ただ、話がしたいと思って呼んだまでよ。私も、総司令官も……」

「総司令官……」

 いくら一般市民の彼女とはいえ、総司令官の事は知っていたようであった。

「さあ、お掛けになって」

 エルダンディアはしばしヴェステックワと睨み合いを続けていたが、そのまま視線を切らさないように歩き出し、そのまま椅子に腰掛けた。

 それを見計らって、ヴェステックワとペルーナもさっさと席についた。

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