一八四 遠方の暴動
やがて、エルルーアとワーヴァがそれぞれ二人で部屋に集合し、肩を寄せ合いながら、小さな机を囲んだ。
「総司令官、こちらがシュビスタシア防衛班通信係のファーミアです」
「ああ、総司令官……よろしくお願い致します」
ワーヴァに連れてこられたファーミアは、初めて間近で見たエレーシーに畏れを為しながら挨拶をした。
「はじめまして。それじゃあ、話してみて。何がシュビスタシアで起きたのか……」
エレーシーは、挨拶を手短にしつつ、早速本題に入らせた。
「あ、はい。えーと、そう。今日から数えて……四日前の昼ごろです。港近くの大通り……通りの名前は忘れてしまいましたが、天政府軍の施設が破損したとの情報があり、天政府軍が出動していました。私達防衛班の情報係が偵察に向かうと、ミュレス人の市民の方々が集まっていて、天政府軍と衝突していたようです。それで、ヴェステックワ代表が私に、軍本部へ連絡するように指令を受けましたので、こちらに赴いた次第です」
「ありがとう。概要はよく分かったわ。で、その破壊活動をしている人は誰なの?」
「私が聞いた話では、分かっていません。情報係の推測では、土木の互助会が中心になっているようだとは言っていましたが」
「それは何故?」
「それは……ほら、土木互助会は鋭利で大型の道具をたくさん持ってますから……」
「うーん、いまいち根拠に欠けるわね……」
エルルーアは腕組みをしながら言葉を返した。
「すみません……」
「まあ、ともかく首謀者は特定出来てないということでいいでしょう。それで……」
エルルーアは最後まで言わず、目で訴えるようにエレーシーの方を見つめた。
「あ、ああ、そうだね。首謀者が分からないのなら、それが誰なのか突き止めよう」
「突き止めて……どうするんですか?」
ファーミアは目を丸くして問いかけた。
「突き止めて……まずは話し合おう」
エレーシーは僅かに考えたが、すっと立ち上がってファーミアに命令した。
「な、なるほど……」
「その首謀者と、シュビスタシア防衛班長、そしてミュレス大国の市長で話し合って、まずは事態の収拾を」
「事態の収拾ですか……」
「いち早く首謀者を見つけ出して、何とかして収束させる。その方法は防衛班長に任せるから……」
「わ、分かりました。帰って、防衛班長にお伝えします!」
そう言うと、ファーミアは急いで部屋を出た。
「……ここからシュビスタシアまで、何日かかるでしょうかね」
ファーミアの走る背中を目で追いながら、エルルーアはポツリと呟いた。
「……何日もかかるだろうね」
エレーシーは腕を組みながら答えた。
「まあ、そうでしょうね。でも、そこまで待てないわ」
そう言うと、エルルーアは廊下を早足で歩き始めた。
「エルルーア、何をしようと……?」
「こう言う時のために訓練させた『鳥』を使うのよ」
「鳥……か」
そう言うと、エレーシーもエルルーアの向かっていた先に足を進め、伝書係のいる部屋に赴くと、すぐに机に向かい、シュビスタシア防衛班の通信係に向けてサラサラと手紙を書くと、それを伝書係に手渡た。伝書係はそれを託された鳥を放ち、南東の空高く飛んでいくのをエレーシー達と共に見送った。
「後は、鳥を信じていましょう」
伝書係の兵士は、エレーシーにこの一言だけ伝えると、再び日課の作業に取り組み始めた。
「よし、後はシュビスタシアの防衛班に任せるしかないか……」
エレーシーは一つため息をつきながらエルルーアに話しかけた。
「そうね。あの鳥が良い知らせを持ってくるまで、しばし待つしか無いわね」
「一応、あのファーミアって子にも、鳥を飛ばしていることを伝えておこうかな」
「まあ、鳥がたどり着けないということも無いわけじゃないだろうけど、一応話はしておいたほうがいいでしょうね」
エルルーアもエレーシーの言葉に同意すると、偵察部隊の一人を捕まえて、ファーミアへの伝言を伝えてくれるように頼んだ。
偵察部隊の兵士はそれに快諾するやいなや、先程見たのと同じように廊下を走っていった。
エレーシー達はそれを見ると、ひとまず本部のやる事は終わったとひとまず胸を撫で下ろし、各々の執務室へと別れていった。
そうは言っても、特にエレーシーにとっては慣れ親しんだシュビスタシアの地。
もちろん、自分たちに非がないなどとは一寸も思っていないのだが、その街がミュレス民族の仲間達の手によって破壊されていくことに憂い、心配の念や胸騒ぎが治まることは全く無かった。
しかし、シュビスタシアからほど遠いレプトフェリアの地からはどうすることも出来ず、ただ祈るしか無いのであった。




