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一八三 再始動のきっかけ

 エレーシーは、兵士達がティナの話をしているのを聞くたびに悲しさが湧き上がってくるものの、ひたすらそれを抑えつつ、ただ淡々と、ティナと目指した「民族の明日のため」に、民族の自由を勝ち取るべく、一歩一歩、大国軍として、民族の力になれることは何でもやろうと心に決めたのだった。

 それは、先日の参謀会議でわざわざ全国に散らばる隊長や参謀を集めた上でも話した「約束」なのだから、ここはミュレス民族を統括しようとする国の新総司令官としての腕の見せどころでもあった。


 何より、この半年間は、ティナの喪に服すにしてもあまりに時が経ちすぎていたのだ。


「ひとまず、天政府軍に奪われた大都市……シュビスタシアをどうにかして再奪還しないと……」


 シュビスタシアに一段と強いこだわりをもっていたエレーシーは、自分たちがティナの死に悲しみ、犯人探しに明け暮れている内に天政府軍に奪われたことを大変気にしていた。


 もちろん、ヴェステックワは市長であり統括指揮官代行者として、シュビスタシア駐留部隊の指揮を執ってくれたが、やはり百戦錬磨の天政府軍には一筋縄には行かなかったようだ。


「エレーシーさん、どうしたの?」

「ああ、エルルーア」

 エレーシーは、たまたま部屋を訪れていたエルルーアに話しかけた。


「シュビスタシアの事を考えていたのだけれど……」

「ああ、そういえば……また天政府軍に占領されたとか……」

「そう。向こうのティナさんの使いの人が教えてくれたのだけれど……」

「ヴェスティの?」

「そう。それで、やっぱり、再奪還を考えるべきかなと思ってるんだけど……」

 このエレーシーの提案には、エルルーアは少し難色を示した。

「でも、シュビスタシアはレプトフェリアからは相当遠いわ。私達が動けば、それに伴って、参謀本部も本隊も一緒に動くことになるし、またレプトフェリアまで帰ってこないといけないことになる。それは、相当な戦闘資源を消費することにもなるわよ。それでも、シュビスタシアの再奪還に行くというのなら、まあ、総司令官であるエレーシーさんのお考えは否定しないけど……」

「うーん……それは確かに……」

 エレーシーは、再び考え込んだ。

 シュビスタシアでの厳しい天政府人の圧政をどうにかいなしつつ交流を深めた同族の仲間の顔が、どうしても浮かんでくるのであった。

「……どうしても気になるみたいね」

 その表情をエルルーアが見逃すことはなかった。

「気にならないといったら嘘になるよ。シュビスタシアは、私とティナが初めて会った所でもあるし、アビアンも、フェルフも、みんなシュビスタシアで出会ったんだから」

「だからって、作戦の大枠を急に変えてまで固執するほどでもないわ」

 エルルーアは、エレーシーの熱弁をばっさりと斬った。

「私達の最終的な目的は、このミュレシアを地上統括府の手から我々ミュレス民族の手に取り戻すこと。そうすれば、シュビスタシアも自ずとこちらに戻ってくるんじゃないかしら」

「そうなるといいけどねえ……」

 エレーシーはエルルーアの言葉に一抹の不安を覚えたが、反面、自分の考えを実行するとなると途方も無いことになることも事実なので、頭を切り替え、エルルーアが部屋に来た目的でもある、次の作戦の事について話し合おうとした。


「総司令官!」

 エレーシーが頭の中で意見を纏めながら、いざエルルーアに話しかけようとした瞬間、一人の仲間が部屋に飛び込んできた。

「ワーヴァ! 何かあった?」

 それは、通信担当の参謀副長であるワーヴァであった。

 ワーヴァがこうやって急いで来るときは、遠方の地で何か起きたことを報告しに来る事が殆どである。

 エレーシーはどことなく不安を懐きながら、ワーヴァに質問した。

「シュビスタシア防衛班からの連絡です! シュビスタシアで、ミュレス人による暴動が起きているようです!」

「暴動!?」

 それを聞いて、エレーシーは飛び上がった。

「それは、軍の関係者?」

 エルルーアも、驚きを顕にしつつ、さらに質問した。

「いえ、少なくとも軍の反乱ではありません。非国軍関係者によるものと思われます」

「防衛班の誰から聞いた?」

「通信係の兵士です」

「ワーヴァさんはこのレプトフェリアで聞いたんでしょう? その人はまだここにいるわけ?」

「ええ、聞いて急いでここに来ましたので、とりあえず待っていただいています」

「その方を呼びましょう、ここへ」

 エルルーアは即座に命令した。

「はい!」

 ワーヴァは二つ返事をすると、踵を返して廊下を駆けていった。

「連絡がレプトフェリアに来るまでとなると、かなり時間を要する。暴動が起きたその瞬間にヴェステックワが通信係を出したとしても、もう一週間以上は経ってるかもしれないなあ」

「馬を走らせてたとしても、最低4日は掛かるでしょうね」

「シュビスタシアの天政府軍にも大義名分を与えることにもなるし、ここはしっかりと対応しよう。そのためには、しっかりと話を聞いて、的確な指示を出したい……よし、フェルフも呼んで緊急会議を開こう」

「ええ、分かった。私はフェルファトアさんを呼んでくるわね。エレーシーさんは、机の準備をしておいて」

「分かった。準備しておく」

 そう言うとエルルーアも、ワーヴァとは反対方向に廊下に飛び出していった。

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