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一七二 アルトゥ・カル・ファッタファ

シュトアーリアはレヴィアから離れて数日後、フィルウィートに戻ってきていた。

 理由はもちろん、暗殺者の事を報告するためである。

 昼間に帰ったからか、シュトアーリアが市長室の扉を開けると、目の前には軍幹部達と中央部隊長が席についていた。

「お帰り。どうだった?」

 シュトアーリアの姿を見ると、エレーシーはすぐに調査結果について聞き始めた。

「はい。総司令官暗殺の犯人の名前と場所が分かりました。名前はイシェルキアといい、やはり天政府軍の特殊部隊に所属しているようです」

「やったわね。それで、どこに?」

 エルルーアはその話を聞いて、目を見開きながら身を乗り出して話の続きを切望した。

「はい。私がレヴィアさんと離れるまでは、シュモンシアの南にあるナルティアに泊まっていました。現在、レヴィアさんがイシェルキアの姿を追っています」

「なるほど。それで、貴女には(レヴィア・)アルシアの居場所は分かるの?」

「はい。レヴィアさんが、私に分かるような情報を残しながら追うとおっしゃっておりましたので、分かると思います」

「そのイシェルキアとやらが移動しても、分かるということか……よし、それじゃあ、早速その犯人をフィルウィートまで連れてこよう」

 エレーシーには既にその暗殺者が手に届く位置にいる気がしていたようで、右手で拳を作って勢いよく振りながら立ち上がり、皆の目を見ながら命令した。

「でも、どうやってここまで……?」

 隣りにいたアビアンがエレーシーの肩を掴みながら聞いた。

「それは……今から話し合おう。向こうが気づいたら、最悪、本国まで帰られるかもしれない。機会は一度しか無いと思って、慎重に作戦を立てよう」

「そうね。それがいいわ」

 エルルーアもエレーシーの話に賛同した所で、会議は早速、イシェルキア連行作戦の話へと移行した。


 数時間に亘る会議が終わると、中央部隊長であり情報部隊長のハルピアと南部隊長のヤルヴィアーが、隊員を数名連れて市役所から出てきた。

「よし、それじゃあ作戦開始だな」

 ヤルヴィアーはやる気に満ち溢れていた。彼女もまた、ティナが亡くなったことを知ってひどく悲しんだ兵士の一人でもあったのだ。

「そうね。とにかく、ナルティアまで行きましょう。私は、まずは協力者と会ってくるね」

「それじゃあ、俺は車を回してくる。外南門で待ってるからな」

「外南門ね」

 そう言うと、二人はそれぞれの部下を引き連れてそれぞれの任務へと散っていった。

 そして、全員でヤルヴィアーの用意してきた車に乗って、大街道を南に進んでいった。


 数日後、ナルティアよりもさらに南にある、海に面したアルトゥ・カル・ファッタファの街を、一人の天政府人女性が歩いていた。

 彼女こそが、イシェルキア・ウェルドウェントシア。

 天政府軍直轄である特殊部隊の中でも抜きん出た能力を持つ射撃の名手である。

 だが、今日はいかにも軍人という格好ではなく、一般人に紛れる形で街を歩いていた。

 彼女はフィルウィートでの「大仕事」を終え、このアルトゥ・カル・ファッタファから出る船に乗って、本国へと帰るつもりであった。

「イシェルキア!」

 だが、ふと後ろから声を掛けられ、思わず振り向いた。

「ああ、ルーボル」

 声を掛けたのは、明らかに軍人といった天政府人の男であった。

「こんなところで何してるの? そんなに安易に外で話しかけないでって言ったでしょ」

「悪い、悪い。いや、まさかこんな街で会うとは思わなかったからさ」

「それで、ルーボルはなんでこんな所に?」

「いや、何。あまり大きな声では言えないんだけどね、この街でも天政府軍の地下組織を作ってるから、ぜひと思って」

「なるほど、そういう事」

「今日はどこか泊まるところは決まってるのか?」

「いや、まだだけど」

「じゃあ、今日どこかに行くのか?」

「いや、行くのは明日。明日の船で戻るつもりよ」

「それなら、今日はうちに泊まっていくといいよ」

「それもそうね……じゃあ、行こうかしら」

 イシェルキアは、宿屋を決める手間が省けたとばかりに、内心嬉しく思いながら、とりあえずルーボルについていくことにしたのであった。


「この家だよ」

 ルーボルに連れてこられた場所は、変哲もない一軒家であった。

「小さいただの家じゃない。こんな場所に拠点を作ってるの?」

「なに、この街もミュレス大国軍の目がある。それをかいくぐるには、まずはこれくらいから始めるほうがいいんだよ」

「大国軍……?」

 ルーボルの話に若干の引っ掛かりを覚えはしたが、なぜ引っ掛かったのかも分からなかったので、この事は水に流して、とりあえず中に入ることにした。

 中はガランとして、人気が無いように見えた。

「他の人は?」

「今は出払ってるが、夜には帰ってくるだろう」

「なるほど。外で皆は何をしてるの?」

「軍から指示を貰ってるのさ」

「ふーん……」

 家の中を進んでいくと、奥の方にまた扉があった。

「とりあえず、この部屋を使ってくれ。ここは誰も使っていないから、安心して使える」

「ありがとう」

 イシェルキアが扉を開けると、そこにはベッドと箪笥のようなものがあるだけの粗末な部屋があった。

「なるほど、まあ、一晩なら……」

「それなら良かった。それじゃあ、俺もこれから軍の方に顔を出してくる」

「それじゃあ、また夜に」

 そう言うと、ルーボルは部屋を出ていった。

 外界から隔絶されたこの部屋には、表の喧騒も届かず、ただ静かな時間だけが流れていった。

「しかし、この部屋、本当に何も無いわね……」

 特にやることもなくなったイシェルキアは、とりあえず箪笥に手を掛け、中を開いてみた。

「あっ……」

 すると、そこにはなんと一人のミュレス人が潜んでいたのであった。

「……」

 中に隠れていたミュレス人もミュレス人で、彼女がいきなり開けてきたのでびっくりしながらも、彼女の目を見つめてその場でじっとしていた。

「ル、ルーボル! ルーボル! 部屋にミュレス人がいる!」

 イシェルキアの叫び声に呼応するように、部屋の扉が開いたが、そこで入ってきたのはルーボルではなく、ミュレス人だった。

 彼女達は、ミュレス大国軍の兵士であった。

 部屋に兵士がなだれ込んでくると、じっと箪笥に隠れていた兵士も飛び出して、イシェルキアの体を抱きしめて身動きが取れないようにした。

「ル、ルーボル!」

 その時、イシェルキアは違和感の正体に気づいた。

「そうか、あの時……くっ、初めから騙されていたのか!」

 イシェルキアは出来る限りの抵抗をし、早くこの建物から脱出して街を出ようとしていたが、周りの大国軍兵士達はそれを許さず、がっちりと身柄を拘束しながら部屋を出ていった。

「離せ! 離せ!」

 イシェルキアがいくら抵抗した所で、5人に囲まれた所で逃げる術はもはや無かった。

「さあ、乗るんだ!」

 いつの間にか、家の前には車が用意されており、イシェルキアは引きづられ、そして押し込められるように車の中へと放り投げられた。

 そして、車の扉が閉められると、外側から錠前のようなもので鍵を掛けられ、外側からしか開けられないようになってしまった。

「さあ、出発しよう!」

 その場に居合わせた兵士達も3台の車に分かれて乗り、さっさとアルトゥ・カル・ファッタファの街を後にした。

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