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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
 第六節 力なき民族は如何にして力を得るか
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一六 金屑部屋の宝物

 エレーシーが横目でアビアンが指差した暗闇に目をやると、そこには人一人分の身長を上回るほどの高さの金物の山があった。


 これを目にした途端、足に感じていた痛みもどこかへと消え去ってしまった。


「わあ、金属の山だ!」


「なんでこんなところに……?」


 ティナが耳を澄ますと、かすかに波が打ち付ける音が部屋の中か聞こえてくるのが聞こえた。


「ねえ、水の音が聞こえるわ」


「え? 屋内でしょ? ……あ、でも確かに聞こえるわね」


 ろうそくを音のする方に向けると、大きな倉庫の隅の方に床がくり抜かれた空間があり、そこに水が溜まっていた。


 アビアンはそこに近づき、指でさっとかき回して水位が床の手前まであるのを確かめ、ふと指についた水を一舐めしてみた。


「うわっ、ものすごく塩辛い! これ海水だ!」


「ちょっと、アビアン」


 エレーシーは思わず声を上げたアビアンに改めて釘を差したが、フェルファトアは何かを確信したようだった。


「なるほどね、分かったわ。ここにあるのは全て、海に捨てるんだわ。なんで積んであるかは分からないけど……」


「海はともかく、さっさと使えるもの探そうよ。朝になっちゃう」


 フェルファトアとアビアンが海にうつつを抜かしている間に、エレーシーとティナは一生懸命に山を掘り返していた。


 二人は急いで倉庫の隅から戻ると、エレーシーから火のついたろうそくの瓶を受け取ると、エレーシー達とは別の方から探し始めた。


「どんな物が見つかればいいの?」


「うーん、そうね。治安管理員が着てるような胸当てとかがあるといいわね。後は、槍とか弓矢とか剣とかがあれば、ついでに欲しいわね」


「なるほど……私にもくれるの?」


「え? アビアンには厳しいんじゃない?」


「エレーシー、それどういう意味?」


「自分の胸に聞いてみたら?」


 アビアン以外の3人から笑みがこぼれた。


「な、何を笑ってるの? 早く探しなよ。朝が来るんでしょ?」


「シー、シー、シー。静かに」


「それにしたって、こんなに見つからないわけ?」


「ちゃんと一つ一つ、何なのか確かめてから漁るのよ」


 4人は黙々と山を崩しながらお目当てのものを真面目に探し始めた。




 沈黙が続くこと小一時間、4人の間に疲れと焦りの色が顔に出始めた頃、


「これは?」


 エレーシーがふと気になった金属の一つを取り出すと、ろうそくの灯りを近づけてみた。


 丸みを帯びた金属の板が2枚向かいあわせになっており、それらが別の金属の板によってつながっている。その立体構造の真ん中には大きな穴が開いていた。


「これ、胸当てじゃない?」


「本当だ。肩当てまで付いてるわ」


「付けられそう?」


 エレーシーは内側にカエリが付いていないことを確かめると、防具を上からかぶってみた。


「ちょっと大きいかな。でもちゃんと入った」


 天政府人より小柄なエレーシーの身体は問題なくすっぽり入った。


 表面をなでてみると異様にざらざらとしていて、時折チクチクと痛みを感じた。おそらく、錆びすぎたために捨てられたのだろう。


「はい」


 エレーシーは一旦脱いでアビアンにそれを渡すと、一先ず袖を通してみた。


「ほら、やっぱり。苦しそうだわ」


 アビアンは息苦しそうな顔を浮かべ、苦労しながら急いでその防具を外した。


「これはエレーシー用でしょ」


「じゃあこれは?」


 ティナはまた新たな胸当てを見つけていた。今度は、肩当てはないが、2枚の金属板を頑丈な革の紐で結ぶ方式であった。


「うん、これなら苦しくない。みんなこれにしたら?」


「見つかればね」




「あ、痛!」


「エレーシー、どうしたの?」


「痛た……指切っちゃった」


「なになに?」


 エレーシーは切った指を咥えながらろうそくを掲げてみた。


「あ、これは」


 エレーシーは改めて注意深く、山からその金属板を引き抜いた。


 それは、腕ほどの長さがある剣だった。


「こんなものも捨ててあったんだ」


「危ないわね」


 よく見るとその下に何本もの剣が転がっていた。おそらく、同時期に大量に捨てたのだろう。


「今ならよりどりみどりね。こんなにはさすがに隠せないけど」


「見て。こっちにはこんなのがあったわ」


 ティナは、山の中から別の剣を見つけ出した。


 それは剣というよりは大きな針に柄がついたものだった。


「これは?」


「多分、刺して攻撃するんだと思うわ」


 ティナは、空気を鋭く切るように一振りして確かめた。


「ちょっと、暗いんだからあまり振り回さないでよ」


「でも、結構軽いわ」




 4人は、12点の防具と18本の剣と鞘を見つけ出したところで満足した。


「それで、これをどうやって運ぶの?」


「うーん、待って。ちょっと考える」


 エレーシーは腕を組んで考え始めた。


 それから暫く、沈黙の時が続いた。


「……3人共、案を出してもらってもいいんだからね」

 エレーシーは閉じていた目を薄く開いて呟いた。


「じゃあ、皆で考えましょう。えーと……」


 山を囲むようにして座っていた4人は、各々腕を組みつつ、どうやってこの武器を運び出すか考え始めた。


 4人もいれば、さすがに案のいくつかはすぐに飛び出した。


「正面から持ち出すのはもちろんだめだから、やっぱりあの裏口から持ち出すしか無いのかなあ」


「まあ、それしかないでしょ」


「でも、どうやってこんなに持ち出すの?」


「さすがに一度に全部は欲張り過ぎだわ。とりあえず自分の分だけでも持っていって、後は隅の方に置いておきましょう。私達、どうせやる時は最前線でしょうから……」


 ティナの一言に場が一瞬凍りついたが、気を取り直して目の前にある問題に集中することにした。


「あ、そうだ。せっかく漕手のティナがいるんだし、船に乗っけて行けばどう?」


「うーん、都合よく船があればいいんだけど……」


「あるんじゃない? 今は冬だし、誰も使ってない船」


「船か……船、船……」


 その時、エレーシーは裏口のそばに船が裏返しにして置いてあったのを思い出した。


「あ、あったよ。裏口のところに」


「エレーシー、よく見てるねえ」


「じゃあ、それで行きましょう」


「えー、船なの?」


「歩くのにはやっぱり無理があるでしょ。外で天政府人に遭ったら終わりよ」


 4人はひとまず船を使うことを念頭に置いて話を進めることにした。しかし、朝が迫る中で考え、行動しなければならないと焦りを感じ始めていた。


「せっかくだから、この隅のところから、どうにかして船に載せられないかな?」


 アビアンは、海水が流れ込んでいる床の切り欠き部分を指差した。


「確かにここから受け渡しができれば、かなり早く詰め込めるわね。でも、剣とか防具、重いから沈むんじゃないかしら?」


「……誰か、泳げない?」

 エレーシーは3人の顔を順番に眺めた。


「泳げないことはないけど、この寒さで海に入るのは嫌でしょ」


「そうか、そうだよね……」


「壁が薄ければ、手を突っ込んで手渡せると思うけど、難しいかしらね」


「……ちょっと確かめてみようか?」


 アビアンはまた隅の方に駆けていき、袖を捲くると水の中に腕を突っ込もうとした。


 しかし、予想よりも水面が低くなっており、空で手を振った。


「うーん、さっきよりも水面が低くなってるみたい」


「アビアン、落ちないでよ?」


 やっと水面に手が届くと、どこまで壁があるのかを確かめるために壁に手を這わせ、どんどん深くに手を伸ばした。


 肘のあたりまで水に浸かったところで、ようやく掌に角の感触を感じた。


「あ、届いた。届いたよ!」

 アビアンは一点、晴れた声で部屋に響き渡るように伝えた。


「ま、まあ、そんなことより、向こうに物を渡せそう?」


「うーん、どうかな……」


 アビアンは部屋の中央の山に戻り、一本の鉄棒を探り出すと、棒を水の中に潜り込ませた。


 片手で身体を支え、髪を濡らしながら壁の下に沈んだ棒を動かし続けた。


「アビアン……」

 ティナが心配そうに背後から声を掛けた。


「うーん、結構壁が厚いかなあ」

 アビアンは周りの心配などお構いなしに、ただ壁の厚みを知ることに夢中だった。


 しかし、次の瞬間、動かしていた棒の抵抗が無くなり、一気に奥の方に入っていった。


「あっ、抜けた。……あっ!」


 その瞬間、アビアンも体勢を崩し、海水の中へ頭から突っ込んだ。


「アビアン、アビアン!」


 水の中で暴れるアビアンを引き上げるべく、ティナとエレーシーの二人で手を掴み、やっとの思いで引き上げることが出来た。




「で、どうだった?」


 エレーシーは、頭の天辺から爪先まで隈無く濡れてしまったアビアンの身体を汎用倉庫にあった布で拭きながら聞いた。


「棒の大体半分くらいまではありそうだったからね。壁が切り立っていれば、今なら向こう側に物を渡せそうだよ」


 この言葉に3人は急に色めきだった。


 ティナはその言葉を待ち望んでいたとばかりに立ち上がった。


「じゃあ、空が明るくなる前に終わらせましょう」

 フェルファトアはそれに続くように立ち上がった。


「でも、どこに置いておくの?」


「私、考えてたんだけど、いいところを思いついたの。ハリシンニャ川の河口の近くで、反対側のトリュラリアの近くに小さな船着き場があるわ。私が生まれる前は使ってたみたいなんだけど、今は使われてないみたい。そこの倉庫に入れておけばまあまあ安全だと思うわ」


「そこまで考えているのね。じゃあ、ティナ、よろしくね」


「あ、でも潮が読めないわね……。どうしても海岸沿いを行くしかないけど、それにしても、もう一人欲しいわね。漕手として」


「確かに、川とは違うものね。エレーシー、アビアン、二人のうちで誰か、漕手になってくれない?」


フェルファトアの呼び掛けに、エレーシーがいち早く反応した。


「見よう見まねでいいなら、私がなるよ」


「ありがとう。それじゃあ、二人はそこから私達に武器を渡してね」


「あ、待って」

 フェルファトアは、部屋を出ていこうとしたエレーシーに鉄の棒を渡した。


「フェルフ、この鉄の棒は、オール代わり?」


「向こう側についたら使うの。穴の場所が分からないでしょうし、それに私達もティナ達が壁の向こう側についたことが分からないといけないでしょ?」


「なるほどね。じゃあ、使わせてもらうよ」

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