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一六三 一日目の成果

 北部隊が市長室に姿を表すと、南部隊と東部隊は一旦宿に帰ることにしたらしく、軍幹部と中央部隊のみ部屋に残っていた。

「北部隊、只今戻りました」

 リアディルはエレーシーに報告をした。

「お疲れ様。何か見つかった?」

 エレーシーがリアディルに聞くと、ひとまず机の上に羽根と手袋を置いた。

「私達が見つけたのはこれだけです」

「これだけ」

「すみません」

「いや、いいんだ。あれから時間が経ってるし、物が一つでも見つかっただけでも良かったと思うよ」

「ありがとうございます」

「さてと……」

 エレーシーはおもむろに彼女達が見つけてきた証拠を手に取り、回しながら色々な角度で眺めた。

「ふうん……羽根は白いし、天政府人かなあ……でも、大きさとしては……まあ、子供のものではないなあ。男か女かも、私には分からないなあ。それで、こちらは手袋か……どう? 他に何か分かりそう?」

 ひとしきり自分の考えを述べた後、他の人に証拠品を回して意見を募った。

 すると、それにフェルファトアが食いついた。

「この手袋は、弓用の手袋じゃない?」

「弓用の手袋?」

「ほら、アビアン、弓矢部隊でこういう手袋使ってる人いるでしょ?」

 フェルファトアはアビアンにその手袋を回した。

「ああ、うん。確かにこういう材質の手袋を使ってる人はいるような気がする。多分、元々治安管理隊の物だったんだと想うんだけど……」

「まあ、何にしても天政府人の持ち物なのかな」

「普通のミュレス人は弓撃たないからねえ。でも、こういう手袋は他にも職人とかが使うだろうし……」

「仮に天政府人の弓用の手袋だったとして、どんな人だと思う?」

「うーん、そうだなあ……」

 答えに窮したフェルファトアは、アビアンの方をちらっと見て助けを求めた。

「割りと大きい手袋だから、男性用じゃないかな?」

「男性用?」

「私が使うわけじゃないから、よく分からないけどね」

「うーん、いまいち確証に欠けるわね……」

「そこはしょうがないって」

 アビアンとエルルーアが言い合いをしている中、エレーシーは背もたれに背中を預けつつ、腕を組みながら上を向いて考え事をした。

「結局、確かなことは何も分からなかったというわけか……」

 エレーシーの言葉に、市長室には一瞬張り詰めた空気が留まった。

「……まあ、仕方ないんじゃない?」

 この空気に耐えられなかったアビアンは何とか打破しようと言葉を繋いだ。

「どうする? 統括指揮官」

「そうだなあ……これ以上現場を調べても何もないかな……いや、もうちょっと調べてみよう。それと並行して、南部隊と東部隊も出発しよう。頑張って、皆で証拠、証言、手がかりを見つけよう!」

「はい!」

 エレーシーの言葉に、リアディルは元気よく答えた。

「それじゃあ、ワーヴァは南部隊と東部隊の隊長に出動するように言ってきて」

「分かりました」

 そういうと、ワーヴァは市長室を飛び出して、隊長達に声をかけに行った。


 南部隊、東部隊はワーヴァからの連絡を受けると、すぐに宿を飛び出して調査へと向かった。

 会議の通り、北部隊は調査の続き、東部隊は山の中の捜索、そして南部隊はフィルウィート以南の街々での調査であった。

 そして中央部隊は軍幹部達と三方の部隊からの連絡を待っていたが、自分達も何か動きたいと考え、フィルウィート市内に泊まっている兵士達に襲撃当時何か見たかどうかを聞き込みすることにした。


 そして、また今日も日が暮れようとしていた。

 北部隊は今日も一日中、襲撃現場の近くに痕跡が無いかどうかを探していたが、特に新しい物はなかったようだった。

 また、東部隊もかなり広範囲に調べたようだったが、ここは戦場になったこともあって逆に天政府人の痕跡に溢れ、全く判別が付かなかったという話であった。

 残りは南部隊であるが、南部隊は当日中には帰ってこなかった。

 おそらく遠くの街まで行っているのだろうという話だった。



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