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一五六 参謀長の説得

 エレーシーは、他の幹部の心配もよそに、ずっと宿の部屋で考え込んでいた。

「……こんなことをしていて、良いのかな……」

 彼女はベッドに座ったまま、俯いて考え事をしていた。

 この数日間、ずっと同じようなことを考え続けていた。

「……うーん……」


 エレーシーがずっと家で唸っていると、部屋の戸を叩く大きな音が部屋に響き渡った。

「はい」

 エレーシーはフラフラと立ち上がり、ゆっくりと戸を開けた。

「ああ、エルルーア。今日は……」

「今日は、幹部会議の続きをしに来たわ」

 エルルーアはそう言いながら、エレーシーを押し倒すほどの勢いで部屋の中に入ってきた。

「会議の続きだって? また、明日でいいじゃない」

「どうせ明日開いたところで、また何も決まらないまま、その次の日に延期するだけでしょう?」

「それは……」

 エレーシーには返す言葉がなかった。

 暫しの間、部屋に重苦しい静寂が訪れた。

 だが、エレーシーの煮え切らない態度にエルルーアは内心で湧き上がっていた。

「……くっ!」

 パンという乾いた音が部屋に響き渡った。

 そして、次の瞬間、エレーシーはベッドに倒れ込んだ。

「えっ?」

 エレーシーは目を見開いてエルルーアを見つめた。

 エルルーアは彼女を再び立ち上がらせると、彼女を見上げながら話し始めた。

「エレーシーさん、これまで姉さんのことを心の拠り所にして、これまで頑張ってきたんでしょう?」

「それは……」

 エレーシーは、これに関しては自分でもわかっていたことだった。それだけに、言い当てられたことで一歩引いてしまった。

「それは私もそうだから、分かるわ。でも、もうこうなってしまってはどうしようもないじゃない」

 エルルーアは涙目になりながらも、訴え続けた。

「でも、そんなことよりも、私達が止まってしまっては、何百万人もの仲間、ミュレス民族は浮かばれないわ。もし、この戦いに負けてしまったら、前回の戦争に続いて2回負けることになる。そうなってしまったら、もう永遠にミュレス民族は天政府人の奴隷として、永遠に浮かばれることはないでしょう」

 エルルーアは、エレーシーに厳しい現実を突きつけた。

「その民族の未来を決めるのは、いまや軍の頂点にある統括指揮官なのよ……」

 エレーシーもそんなことはとっくに分かっていた。

 しかし、今ひとつ行動できないでいた。

「それが、こんな状況では、ティナ姉さんの『願い』は叶わずに終わってしまうじゃない!」

 ティナの願い。

 その言葉を聞いて、エレーシーはハッとした。

「ティナの願い……か。確かに……」

 エルルーアはエレーシーの心が動いたのを察してさらに続けた。

「姉さんとは、民族の明日のために地上統括府と戦って、私達ミュレス民族が自由に行動できるようにすることを約束していたんでしょう? どこかの酒場で!」

「それは確かに……そうだったな……」

「それが今や、天政府軍や地上統括府と向き合うこともせず、部屋で日がな一日ずっとこもりっきり。こんな軍を見たら、姉さんは悲しむことでしょうね」

「ティナが……」

「エレーシーさんも、姉さんの供養はしっかりとしたいと思ってはいるわよね」

「それはもちろん、そう思ってるよ」

「それなら、地上統括府を倒して、民族の独立と和平を勝ち取ること。それが、姉さんの一番の望みなんだから、それを達成することが、一番の供養になるんじゃないの?」

「それがティナの一番の供養になる……」

 その瞬間、エレーシーはティナやフェルファトアと、打倒地上統括府を誓った日のことを思い出していた。

「そうか……確かに、そのために、総司令官にもなってもらっていたんだし……」

 エレーシーはエルルーアの肩を軽く叩いた。

「確かに、ティナとそういう約束をしていたよ。民族の明日のために、民族で一致団結して、天政府人の政府、地上統括府を倒して自分たちの手に自由を取り戻すということを」

「ええ、思い出してくれたかしら」

「思い出したよ。それに、いくらかやる気が出てきた気がする」

「そう……それはよかったわ」

「ありがとう、エルルーア。私は、民族の独立のために、それにティナのためにも、私達は前に進まなくてはいけないんだ……」

「そこまで考えてくれるようになったのね、うれしいわ」

 エルルーアはエレーシーの背中に手を回し、ぐっと抱き寄せた。

「よし、こうなったら早速方針を決めよう。また幹部会議を開こう」

 エレーシーの言葉に、エルルーアは笑ってみせた。

「分かったわ。フェルファトアさんやアビアンさん達に話しておくわ」

 そういうと、エルルーアは一刻も早くとばかりに部屋を出ていった。

「ティナのためにも……か……」

 エレーシーはふと、自分のポケットの中に手を入れ、その中に入れていた小さなレプネムを取り出した。

 それはティナにもらった、花をかたどったレプネムであった。

「頑張らないとね」

 そう言うと、自分の部屋にあった紙を数枚握りしめて、市役所へと向かった。

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