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一五五 参謀長の焦り

 エレーシーは総司令官不在となったミュレス大国軍のフィルウィートからの進撃について、葬儀の次の日には「喪に服すために休みとしたい」と述べた。

 そして、次の日になったが、エレーシーはなかなか進撃に踏み出せないでいた。

 いざ、進撃に踏み出そうとするにあたり、フィルウィート郊外の道でティナが矢を受けた、その場面が脳裏によぎり、そして、それが自分に向けられる事も恐れていたのかもしれなかった。

 そんな日が続き、一週間、そして一ヶ月と時が経っていった。

 ミュレス大国軍の本隊は未だにフィルウィートの護衛についており、兵士達も「何だかおかしい」という違和感を覚え始めていた頃であった。


 それだけ時が経つと、フィルウィートからいくらかは出入りしている商人達により、どうやら総司令官が亡くなったらしいという話がミュレシアの全土に広まりつつあった。

 それに不安を覚えたのは、各地に散らばっていた軍の防衛班の兵士達と市町村長であった。

 幹部からの情報が途絶えたまま、噂を耳にして、戸惑いを隠せなかった。


 そしてそれは、天政府人にも伝わっていたのであった。

 これを好機とばかりに、天政府軍は各地の再奪還に乗り出し始めていたのであった。

 いつもでさえ何とか防衛していたミュレス大国軍にとって、この混乱した状態で、さらに天政府軍を相手にする余裕は全く無く、いくつかの都市では、天政府軍の手によって再奪還が果たされてしまっていた。

 しかし、そうなると情報が漏れ聞こえる程度でしかないフィルウィートにいるエレーシー達の耳には、そのような話は入ってこず、エレーシーはいつまでもティナのいない軍の指揮をどうすればいいのかに悩み続け、ますます塞ぎ込んでいた。


 とはいえ、エレーシーも何もしないでいた訳ではなかった。

 フィルウィートにも天政府軍が再奪還のために侵攻してきた事はあったが、その時はティナがやっていたことを真似ながら指示を出し、何とか防衛することが出来た。

 しかし、それはエレーシーの手腕というよりも、兵士達の総力によって守られたとも言えるような有様であった。

 ティナは、優しいだけではなく、戦況を見ながら作戦を変えたり、遠くの街にも商人達の力を借りながら指示を出したりしていたのだった。

 エレーシーはこのような面でもティナの能力の高さを認め、それに対してあまり上手くいかない自分の手腕の無さに愕然としていた。

 そして、それもまたエレーシーを塞ぎ込ませるのであった。

「困ったわね……」

 この現状に一番頭を抱えていたのは、ティナの妹にして参謀長であるエルルーアであった。

 進撃もせず、他の街が天政府人に奪われている現状にも関わらず、エレーシーは依然上の空である。彼女も分からなくはなかったが、毎日の幹部会議で元気のないエレーシーの姿に苛立ちをつのらせてすらいた。

「姉さんがいなくなった今、頼れるのは統括指揮官なのに……」

 エルルーアは幹部会議の後、市長室に入り、書類を眺めながら悩みを口にしていた。

「どうしたものかしらね……」

 ふと市長室の窓から外を眺めながら、暫く考えていた。

「ただでさえ、姉さんのおかげで纏まっていた兵士達の気持ちも、戦いから離れていっているのに、このまま何もしない日が続いたら、軍はどうなるのかしらね……」

 エルルーアはそうつぶやいて一息つくと、このままではいけないという気持ちを新たにした。

「エルルーア、どうする? これから……」

 アビアンも、ずっと落ち込み続けて足を止めているエレーシーの様子を心配しながら、エルルーアのいる市長室に入っていった。

「ああ、アビアンさん。エレーシーさんは?」

「エレーシー? エレーシーなら、宿に帰ったんじゃないかな」

「宿……宿ね」

 エルルーアはアビアンの答えを口にすると、アビアンに目もくれずに部屋を出ると、表通りへと飛び出した。

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