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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第六章 アルトゥ=カル=ファッタファ・第一九節 目的意識
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一五四 目的意識

 アビアンに誘われた酒場での追悼の会は、追悼の会らしくしめやかに行われた。

 アビアン自身は、悲しい気持ちを忘れさせようとしていたようだったが、エレーシーを始め、ティナと関係の近い者達はそうはいかないようだった。

 結局、2~3時間程、思い出話などに花を咲かせた後、静かに各々の宿へと戻っていった。

 エレーシーは部屋に戻ると、しばらく気を紛らわすために歴史の教科書を見返し、ある程度読み終わったところでベッドに入って眠ることにした。

「……うーん……」

 しかし、一旦ベッドに入っては見たものの、なかなか眠れないでいた。

 何故なのか、それは自分にもよくわからなかった。

 布団の中でゴロゴロとしていたが、全く眠れる気配はなく、仕方なく再び起き上がり、また椅子に腰を掛けてぼやっとしていた。

 思えば、このフィルウィートに来るまでは、トリュラリアでの旗揚げからずっと、前進、とにかく前進することだけを考えてこれまで戦ってきていた。

 それが、ここに来てその思いが薄らぎ、ただただ無力感に包まれていることに気づいてしまったのだった。

「これから、どうしようかな……」

 エレーシーはひとしきり頭を抱えると、再びベッドに入って布団の中で丸くなった。

「ティナか……」

 布団の中で、ティナのことが頭の中でふと思い浮かべた。

「最初に出会ったのは、川の荷降ろし場だったなあ」

 エレーシーはまだこの軍を立ち上げる前の事から、思い出していた。

「優しかったあの出で立ちに惹かれたんだけれど、誘ったばっかりにこんな事になったかと思うと、本当に誘って良かったのだろうか……」

 エレーシーは布団の中でじっと丸くなりながら考えた。

「そういえば、皆で活動を始めた頃に、シュビスタシアの治安管理隊の倉庫に侵入したこともあったなあ……」

 くるくると布団の中で転がるたびに、まだ本格的に活動を始める前の、軍幹部だけで行動していた時期のことが次々と思い浮かんだ。

「天政府人との戦いの中でも、一番楽しかったのはやっぱり、ルビビニアの温泉での幹部会議かな……あの時だけはゆっくりとティナと話もできた……」

 ティナとの思い出を次々と思い浮かべるたびに、次第に目に涙が溜まっていった。

「はあ……辛いなあ……辛いよ……」

 エレーシーはティナの事を思うと、布団をぎゅっと抱きしめて耐え忍ばざるを得なかった。

 これまでの事を思い返していく中で、ふと、これからの将来の事についても思いを巡らせた。

「これから、軍はどうして行けばいいんだろう……」

 彼女の思うように、これまでミュレス大国軍はティナとエレーシーを始めとした話し合いの中で決定していった。

 その中で、ティナが果たす役割は非常に大きいものがあった。

 彼女は、最終的にどんな作戦でも強い意志を持って首を縦に振ってくれていた。

 それが、これからは誰がそのような役割を担うのだろうか? 

「総司令官の下は統括指揮官……私が……」

 その瞬間、自分が軍の最高位に立った事と同時に、彼女の役割を自分が担う事になるであろうことが、彼女の中で初めて現実味を帯びてきた。

「そんなことが、自分にできるんだろうか……」

 エレーシーは不安に潰されそうになりながら、また一つ寝返りを打った。

 今後の軍の活動について不安を感じていたり、次々とティナのことを思い出していると、そこでまた一つ気づくことがあった。

「ああ、私、こんなにティナに思いを寄せていたんだなあ」

 ティナを失ったことは、確かに悲しいことではある。

 しかし、これほどにまで深く沈み込んでしまうとまでは、エレーシーも驚くほどであったのだった。

「……戦いか……」

 エレーシーの考えは、戦い自体にも及んでいく。

「ティナだけでなく、他にもたくさんの仲間が死んでいく……そこまでして、天政府人から、政治を、いや……」

 エレーシーはふと天井を見上げながら、またため息をついた。

「……戦う意味……か……」

 エレーシーはぐるぐると考えていきながら、朝を迎えつつあった。


 翌朝、よく眠れないまま宿を出た。

「おはよう、エレーシー。よく眠れた?」

 宿を出ると、それを待っていたかのようにアビアンが出迎えてくれた。

「いや、昨晩はよく眠れなかったよ……」

「まあ、そうだよね……」

 アビアンはエレーシーの顔を見て納得したようだった。

「市内にいることだし、今日も市役所で幹部会議を開かないとね」

「ああ、そうか」

「そうだよ、エレーシー。私は今から市役所に行くけど、エレーシーも行く?」

「ああ、うん、行くよ」

 エレーシーは気の抜けた返事をしながら、アビアンの後ろをついていくようにとぼとぼと通りを歩いていった。


 エレーシー達は市役所につくと、会議室に直行し、フィルウィートでこれまで毎日行っていたように席に着いた。

 一番奥の、いつもティナが座っていた座席には、自然と誰も座らず、エレーシーにはそれがどうしても気になって仕方がなかった。


 会議室に集まったものの、最初の一言はいつもティナが話していたからか、誰もが目配せしあい、誰が最初に喋るのかをお互いに様子を見あっていた。

「……さてと……」

 この現状を打開すべく、エルルーアが口を開いた。

「統括指揮官、今日はどうしますか……?」

 エルルーアはすぐにエレーシーの方に話を振った。

「えーっと、そうだね……」

 エレーシーは頭の中で考えが纏まらないままであった。

「……とりあえず、今日はティナ……総司令官の喪に服すという意味でも、休みとしたいんだけど……どうだろうか?」

 エレーシーの提案に、幹部達は顔を見合わせた。

「私は、それでいいと思うわ。皆はどう?」

 エルルーアが皆に問いかけると、バラバラとではあるが、首を縦に振った。

「それじゃあ、今日は休みということで、また明日、ここで会議をしましょう」

「はい!」

 エルルーアの言葉に、幹部達はうなずいたが、どこかしら不安な顔を隠さなかった。

 今後の予定も決まらないまま、とりあえずは散会したものの、これで良かったのだろうかという思いを抱いていた。

 一方、エレーシーはそんなことを考える余地も無く、未だにティナを失った悲しみにくれていたのであった。

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エレーシーたちに立ち上がるきっかけを与え、ここまでがんばってくれたティナのご冥福をお祈りします。
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