一五二 納棺
無言のまま時間が経つ中、やがてワーヴァが人を連れて戻ってきた。
「貴女から話は聞いていましたが、やっぱり総司令官だったんですね……」
「ええ、良い棺はありますかね」
「はい、あります。一番良いものをご用意させていただきますね」
「でも、高いんじゃないですか?」
「いえ、私達のために尽力してくれた総司令官のためになるんでしたら、一本くらい良いですよ」
「ありがとうございます。それでは、お願いします」
棺屋はお願いされるとすぐさま部屋を飛び出し、仲間とともに棺を部屋に運び入れた。
「ベッドをもう一つ持ってきて下さい。その上に載せましょう」
導師役として残っていた兵士が指示を出すと、近くで様子を見守っていた救護班の兵士が慌ただしく新たなベッドの準備に取り掛かった。
新たなベッドの上に棺を載せると、その蓋を開けさせた。
中は、素材そのままの木の色で、荘厳にも思わせる香りづけが為されており、それが高級なものであることはすぐに分かった。
「それでは、いよいよ納棺の儀に移りたいと思います。皆様、総司令官を棺に入れますと、永遠の隔絶となります。触れることができなくなります。それまでの僅かな時間ではありますが、最後のお触れ合いをされたい方は、どうぞ」
その言葉を聞くと、エレーシーはおもむろにティナの方に歩み寄り、彼女の額に手を当てた。 手から伝わるすっかり冷え切った体温を感じながら、エレーシーは心の中で彼女のこれまでの功績を讃え、これからの安らかな眠りを祈った。
エレーシーが手を離すと、今度はエルルーアがそばに寄り添い、フェンターラも震える手で長女の固まった手を握りしめた。
フェルファトアとアビアンもそれに続いて頭を撫でるなど、それぞれの思いを整えた。
「皆様、よろしいでしょうか。それでは、皆様で総司令官を棺にお納めしましょう。中で体が崩れないように、敷布ごと移しますので、どうぞ、頭の方と脚の方に分かれてお持ち下さい」
導師役の兵士の言うように、彼女の妹たちが頭側に、その他の幹部が脚側に分かれた。
「それじゃあ、行くよ。せーの……」
エレーシーが音頭を取りながら、ティナの体を棺に収めた。
「それでは、棺を閉じる前に、業者の方にご準備頂いた花々で総司令官を飾りましょう。その他に、中にお入れしたいものはございますか?」
「ティナの使ってた剣はどうする?」
「私は入れてもいいと思うわ。取っておきたいのは山々だけど、姉さんの剣はやっぱり姉さんの物だもの。フェンターラはどう?」
エルルーアの問いかけに、フェンターラは黙ってうなずいた。
「そういれば、花のレプネムはどうしたかしら。外套についてなかったけど」
エルルーアは、それがなくなっていることに気がついていたが、それにエレーシーが答えた。
「ティナのレプネムは、私が貰っておくよ。形見が欲しいからね」
「分かったわ。他には入れるものはない?」
エルルーアの呼びかけに特に意見も無かったことで、剣以外は特に入れず、後は幹部達の手で、ティナの周りに花が添えられた。
「それでは、いよいよ蓋を閉めさせていただきます。最後に祈りを捧げましょう」
幹部達はティナを入れた棺を囲むと、手を組んでしっかりと祈りを捧げ、そして皆で手伝いながら棺に蓋を被せた。
「次に、封印を行います。こちらに釘がありますから、皆様、思いを込めて一本、一本しっかりと釘を打ち込んで下さい」
導師役の兵士に釘と槌を手渡されると、幹部達は一回打つたびに変わり、一振り一振りに思いを込めながら、釘を打ち込んでいった。
「それではこれで最後です。この棺に総司令官の名前を上から書き入れて下さい」
そう言って取り出された筆をエルルーアが受け取り、棺の上面に姉の名前を、目に涙を浮かべながら書き入れた。
エレーシーはその姿を見て、非常に酷な目に遭わせてしまったと改めて後悔しながらも、自分も目に涙を浮かべていた。
「これで、納棺の儀は終了です。後は、皆様の力で、総司令官を丘までお連れしましょう」
「はい。それじゃあ、皆、重いとは思うけど、ティナのために頑張ろう」
エレーシーの言葉を合図に、幹部の皆で棺を持ち上げると、そのまま宿を出て大通りを進んでいった。




