一四六 市役所内外の攻防
工業都市であるとともに、三つの壁に囲まれた城塞都市、そして進攻以前より兵士が巡回する軍事都市と、複数の顔を持つフィルウィート。
その市役所の警備が、これまでの都市のように手薄であったり、ましてや放棄されて「もぬけの殻」であったりということはなかった。
市役所の周りには、しっかりと天政府軍の兵士が待ち構え、建物の窓からも兵士が矢を番え、ミュレス大国軍を狙っているのが見えた。
一方のミュレス大国軍は、後から来た増援部隊も含めて市役所を囲っている状態で、市長室の窓から逃げられるということがないように、どこからでも攻め入ることができるような体制を作り上げていた。
「向こうからも狙ってきてるし、ここもこっちから攻撃して先手を打とう……よし」
エレーシーは決意を新たにすると、剣に手を掛けた。
「フィルウィートを奪還するぞー!」
「オーッ!」
エレーシーは手にした剣を掲げ、兵士の士気を高めるべく声を上げた。
「突撃部隊、第二部隊、第三部隊! 正面突破開始!」
「ワーッ!」
そして、彼女が攻撃の指示を出すと、ある程度間合いを取って待機していた各部隊は一斉に市役所の玄関に向かって走っていった。
「攻撃開始! 撃て! 撃て!」
それに呼応するように天政府軍の指揮官も攻撃開始を伝え、市役所の建物から一斉に弓矢による攻撃が始まった。
「上から攻撃されてる! 弓矢部隊! 窓際の敵を集中攻撃!」
「はい!」
弓矢部隊はアビアンの指示の下、窓から見える天政府軍の兵士を撃ち落とそうと弓を弾いた。
前からも、後ろからも、真上から弓矢が降り注ぐ中、玄関前で護衛をしていた天政府軍を薙ぎ払いながら突き進んでいった。
それでも、要塞とも言えるフィルウィートの市役所の門はびくともしなかった。
「どうした?」
「向こうから押してるのか分からないですが、開きません」
「せめて中に入って市長室を占領しない限り、奪還したことにはならない」
「でも、どうやって入ろう……」
突撃部隊の兵士が玄関を前にして狼狽えていると、その最中に弓矢が打ち込まれた。
「うわっ!」
「大丈夫か!?」
「救護班を呼ぼう!」
一部は打ち込まれた仲間に注目していたが、そうではない一部もいた。
「どこから撃たれた!?」
仲間の兵士が辺りを見回していると、2階にある玄関の傍の窓から天政府軍の兵士が弓矢を番え直しているのが見えた。
「あそこだ! 2階の窓だ!」
「えっ!?」
それに気づいた兵士は周りの兵士に伝えた。
「2階なら攻撃できるんじゃないか?」
「弓矢部隊じゃないと無理じゃないかな?」
「一人じゃ無理じゃない?」
「階段になって一番上の人が攻撃するのはどう?」
「よし、それで奇襲してみよう」
突撃部隊の班長も含めた数人が、周りの天政府人に気づかれないように壁に沿ってさっと進み、窓の下まで人の階段を作ると、攻撃役の兵士がゆっくりと一段一段と昇り、一番真上に来ると、そっと手を伸ばした。
「それっ!」
攻撃役の彼は、天政府軍の兵士が手にしていた弓を奪い取ると、何が起こったかわからないままの兵士の手を掴んでそのまま窓の外へと放り投げた。
「うわーっ! }
「あっ! 天政府軍の奴が放り投げられたぞ!」
見事に宙を舞い、地面に落とされた兵士は、仲間の敵とばかりにミュレス大国軍の兵士から集中砲火を受けていた。
「よし、ついでに中に入れ! 入れ!」
一番上に立った彼を先頭に、その後ろで待っていた突撃部隊の面々が次々と人間階段を昇り、誰もいなくなった窓から中へと侵入した。
「見ろ! 奴らが狡いことをしてるぞ!」
「撃て! 撃て!」
当然、そうなると天政府軍も気づき、人間階段に向かって攻撃を始めた。
「わーっ! 攻撃だ!」
数人が中に侵入したところで、その階段は崩れ、一斉に退避していったが、中に入れた数人は玄関を開けるために下へ降りようと階段を探すために廊下をうろうろと走り回った。
「侵入された! 侵入! 侵入!」
それに気づいた兵士が声を上げると、他の窓から外を攻撃していた兵士もその手を止めて侵入者の排除に向かった。
「お、窓が空いたぞ。さあ、階段を作り直そう」
ミュレス大国軍側の兵士は、先程攻撃を受けて崩された階段をまた作ると、今度は何人も建物の中に送り込み、先に入っていった仲間を援護しに向かった。
狭い廊下でお互いに交戦し続けながら、最初に入っていった部隊は建物の中の方へと入っていき、ついに階段を見つけたようだった。




