一四三 フィルウィート最後の門
フィルウィートを守る最後の砦たる第三の壁の前には、さらに大勢の天政府軍が並んでいた。
さらに、この騒ぎを聞きつけたのか、他の門を守っていたであろう部隊までもが左右に並び、ミュレス大国軍は三方を囲まれたような状態になっていた。
こうなると、横からの攻撃にも対応しなければならなくなり、エレーシー達は僅かな間で再び作戦を立てることになった。
「突撃部隊はそのまま前方を攻撃! とにかく市内を目指せ!」
目標はフィルウィート市の奪還。
これにあることは間違いなかった。
問題は、そこまでの障壁をどう排除するかにあった。
「他の部隊は左右の敵を排除せよ! 弓矢部隊は第一は前方、第二、第三は側方と対する部隊を援護せよ!」
エレーシーは大声を上げ、各部隊をまとめ上げる幹部や隊長達に隊の中心から指令を与えた。
「後方支援部隊は他方から襲いかかってこないかしっかりと監視を!」
後方で見守っていた後方支援担当のフェブラも、その流れに呼応するように指示を出した。
「はい!」
兵士達はそれぞれに答え、彼女達の言うように動き始めた。
外から一つ目の壁と二つ目の壁はそれほど離れていなかったが、二つ目の壁と三つ目の壁は割と離れており、やや広めの回廊とその脇に宿泊所が並んでいた。それほどに広い壁と壁の間に隈なく天政府軍の兵士が並んで待っていたのだから、天政府軍のその数量もなかなかに馬鹿にできないものであった。
たとえ表層の者達を斬り捨てたとしても、また後から後から出てくるには違いなかった。
しかし、こうも囲まれてしまっては、相手をしないわけにもいかなかった。
当然、前はもちろん、横の敵にも相手をすることになるのだ。
「とにかく前だ! 前進あるのみ!」
エレーシーは統括指揮官としてひたすら急かすが、ここに来てもはや急かしたからといって上手く進むようなものでもなくなった。
戦場はミュレス大国軍が真ん中にあって、天政府軍が三方を囲むようにして戦線を展開していたが、かなりの密状態にも増して、天政府軍も追い返そうとどんどん前線を展開させていくあまり、両軍入り乱れる混沌とした状態と化していた。
こうなると、弓矢部隊は自軍を攻撃しそうでなかなか発射に踏み切れなくなっていた。
「皆、前線部隊は入り乱れている。とにかく側方の部隊の奥の方を狙って」
アビアンは戦況を見ながら細かく作戦を変えた。
エレーシーは統括指揮官である自分が巻き込まれてはいけないと少し後ろの方で見ながら、この混沌の中、誰か隙間から一人でも入ってくれないかなと考えていた。
「よし、第三、第四攻撃部隊は側方攻撃に、同じく第三、第四防衛部隊は攻撃部隊を守れ! 突撃部隊とその他の部隊は前方に注力せよ! とにかく門を突破せよ!」
「はい!」
返事は聞こえるものの、混乱の最中にいる兵士達は果たして指示が理解できたのか、それは分からなかったが、次第に、なんとなくではあるが、エレーシーが思っていたような陣形に収束しつつあるような気はした。
戦場では、ミュレス民族が特に嫌がる金属のぶつかる音が絶え間なくなり続ていた。
エレーシーは、その為に戦いが長引けば長引くほど不利になるような気がしていた。
「とにかく、誰か、前に……」
天政府軍も、ミュレス大国軍も兵力を少しずつ犠牲にしながらも、一進一退の状況が続いていた。
エレーシーはこの状況を大変苦々しく思いながら戦況を見極めていた。
「わーい!」
その時、前方奥からミュレス人の喜びの声が聞こえた。
どうやらこの混乱の最中、一人この重厚な門を突破した者がいるようだった。
「突破された!?」
「何!?」
この声に一番驚いたのは天政府軍であった。
それもそのはず、この門こそが市内侵入を防ぐ最後の門だったからである。
「一人突破したぞ! 彼女に続け!」
「ワーッ!」
天政府軍は一人突破されたという事に驚き、一瞬攻撃の手が止まった。
その隙をついて、ミュレス大国軍は一斉に市内へとなだれ込んだ。
「待って! 第四、第五、第六部隊は天政府軍との交戦、捕縛を継続せよ! 後ろから狙われる!」
「は、はい!」
エレーシーはなだれ込む兵士達のうちいくらかを残して、市内へと侵入したミュレス人を追う天政府軍の市内への侵入を阻止するように命令しながら、最前線の指揮をとるべく、戦渦へと突き進んでいった。




