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一四二 フィルウィートの門を攻略せよ

 東の山の向こうから朝日が差してきた頃、昨夜の大寒波を無事に乗り越えられたミュレス大国軍の面々は、眼下に聳える幾重にも建てられた城壁を攻略し、ミュレシア中西部一の都市であるフィルウィートを我が民族の手中に奪還しようとすべく、総司令官であるティナと統括指揮官のエレーシーを先頭に、その後ろに数千、数万の兵が、目に戦いの火を灯して見下ろしていた。

 眼下にある門の前では、十人程度の天政府軍の兵士がじっと森の方を監視していた。

 フィルウィートに来たことのある兵士の話では、これでもいつもよりは重厚になっているようだ。

「さてと……それじゃあ……」

 いつもなら戦いの前に一言、二言と話をしていたが、今回ばかりは言葉少なに、ただおもむろに剣を抜くばかりであった。

「少し遅れたけど、行きましょう!」

 ティナは自らの剣に朝日を映しながら振り上げ、そして勢いよく前に振り下ろした。

「第一部隊! 突入開始!」

 それに続いてエルルーアが真っ先に突撃部隊を引き連れて斜面を降りていった。

「ワーッ!」

 突撃部隊は一斉に声を上げながら十数人しかいない天政府軍に向かって剣を突きつけていった。

「ミュレス人の攻撃だ! 攻撃が始まったぞ!」

 一番外にある門のところで見張りをしていた天政府軍もいくら見通しが悪くなっているとはいえ、これにはすぐ気づき、即座に迎撃体制に入った。

 とはいえ、十数人ではどうすることもできず、体制を整えるべく、一部は奥に入り、そして一部は交戦するために残っていた。

 エルルーアは、それが時間稼ぎのためにいることはすぐに分かった。

「目的は天政府軍の殲滅にあらず、フィルウィートの奪還のみ! 天政府軍に関せず突撃あるのみ!」

 エルルーアは突撃部隊をとにかく煽るだけ煽り、ただ目の前にある門の向こう側に行くことだけを考えさせた。

「来たぞ! 撃て! 撃て!」

 ミュレス大国軍のこの動きを待っていましたとばかりに、天政府軍の門番達は一斉に弓を番え、そしてすぐさま射り始めた。

「皆! 盾を上手く使ってお互いに守りあって!」

「量で押し込め! 中に入りさえすれば、後はこっちのものだ!」

 ティナは突撃部隊に続いて第二陣を即座にその後ろに配備し、そしてそのまま門の方へと進めさせた。

「ワーッ!」

 兵士達は自らの戦意を奮い立たせるべく、再び自ら声を上げながら、周りの仲間さえも蹴散らさんばかりに勢いよく門へと押し寄せていった。

「弓矢第一部隊、突撃部隊を援護して! 第二部隊は横へ!」

 突撃部隊の動きから少し出遅れはしたものの、アビアンも自らが指揮する弓矢部隊を展開して主力部隊が動けるように守らせた。


 第一の門は、あっという間に崩れ去った。

 しかし、ここで三重となっている城壁が、天政府軍にとってはある意味功を奏したとも言えるであろう。

 それが良い時間稼ぎとなり、天政府軍も門のそばに多くの兵をようやく配備することが出来るようになった。

「市内には通させないぞ!」

 天政府軍は門を隙間なく埋めるように自らの身体で塞ぎ、人はおろか、小動物の一匹さえも通さないぞと言わんばかりの勢いで体制を整え、一所懸命に声を出していた。

 一方のミュレス大国軍はどうするのかといえば、こちらも全面的に彼らと戦う以外に道はなかった。

 この三重に固められた街の、中側にある他の門に回ろうとしたところで、先手を打たれているに違いなかったし、そもそもここから先に行ったところで、他の門に回れるのかも分からなかった。

 そうであれば、とにかく目の前にある門を次々と突破していき、とにかく一刻も早く市内に入ることこそが最優先事項である。

 多くの兵を擁する天政府軍を相手にするためには、エレーシーもティナも、とにかく兵力が分散することだけはどうしても避けたかったのだ。

「天政府軍の存在など気にするな! とにかく中に入ってしまえばどうと言うことはないのだ!」

 エレーシーも交戦中、特にこのことについてこだわり、とにかく目の前の天政府軍を攻略して突破することだけを考えるようにした。


 一番外側の塀と囲まれた、あくまで防御のためだけに用意された狭い場所は天政府軍の苦手とするところでもあった。

 天政府軍はどうも思うように身動きが取れないようで、戦い以外のところで四苦八苦しているようであった。

「ええい、ここで張り付いていても向こうにやられるだけだ! 誰か前に行って、奴らを倒してこい!」

「はい!」

 天政府軍も前線へと更に兵を出した。

 一方、ミュレス大国軍側はそのようなことを特に気にすることなく、身軽に攻撃をかわしつつ、お互いに犠牲は出てはいるものの、形勢はこちらが圧倒的に優勢であった。

「弓矢部隊もさらに前進! 奥を狙って!」

 アビアンは天政府軍のうち、後方で門に蓋をしている天政府軍の方を狙わせた。

「うわっ! 矢が来たぞ!」

 天政府軍が驚いている拍子に空いた隙間に、ミュレス大国軍は容赦なくなだれ込み、その隙間をますます広げていった。

「突破! 突破!」

 最前線で応戦していた兵士から声が上がると、弓矢部隊も後続部隊もそれに続いて一気に前へと流れ込んだ。

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