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一四一 嵐の夜

 身を隠しているうちに辺りはすっかり暗くなり、夜が訪れた。

 天政府軍が諦めたのか、それとも他の部隊は交戦したのか、それは分からないが、それを確認しに行くこともままならなかった。

 そして夜になってもなお止まない風と雪は、エレーシー達の体力を確実に奪っていた。

「うぅ……辛いね……」

「朝になったら止むことを信じましょう」

「エルルーアやアビアンも誰かと一緒にいるかな?」

「それを願いましょう。大丈夫よ」

 二人は、お互いにお互いが凍えないように身を寄せ、抱き合いながら、周りを警戒しながらずっと話し続け、木の陰で雪が止むのを待ち続けた。

 一方で、風雪をしのげる兵舎があるであろう天政府軍の兵士を羨ましく思いながら、軍を立ち上げてからのことだけでなく、自らの生い立ち、家族のことなど、絶え間なく、話題になることなら何でも話した。


 長い長い夜が明けてもしばらくは雪が降り続いた。

 エレーシー達の周りにも、いつの間にか雪が積もっており、気がつくと足が埋まる程深くなっていた。

 本来なら日も昇りきり、手持ちの食糧も限界を迎えつつある頃、ようやく吹雪が落ち着きつつあった。

 それまで真っ白な雪に覆われていた視界は、まだ遠くは見えないものの、周囲の状況を確認できるまでには回復していた。

「皆は大丈夫かしら?」

 ティナは、自分が動けるようになるやいなや、他の兵士達の心配をしていた。

「一晩中吹雪いたからね……一人だと厳しいかも……」

 エレーシーは、凍える身体をやっと動かしつつ、悲観的な思いを述べた。

「そうじゃないことを願いたいけど……」

 未だに木々を抜ける風の音に周りを遮られながらも、二人はひとまず現状を把握するために動きはじめた。


 当初の計画では、昨日の時点で既にあの塀の向こうにいるはずだったのだ。

 それに、この大寒波では、自分たちと同様に一晩中起きて、会話と食事で寒さを紛らわしていた者も多かったことは想像に容易かった。

 この嵐の夜を乗り越えていても、体力も物資も既に予断を許さぬ時点まで来ているだろう。

 二人はそう考えていた。


「姉さん、無事だったのね」

 ティナ達はしばらく雪原と化した森の中を彷徨い、エルルーアやアビアン達幹部と再開することが出来たのであった。

「ええ、何とか。皆も無事で」

「エルルーアとワーヴァは一緒だったのね。アビアンは?」

「私は弓矢部隊の兵士の子と一緒だったよ。フェルフもそんなものでしょ?」

「私? 私はフェンターラと一緒だったけど……」

「まあ、何にせよ、私達は何とか乗り越えられたわね」

「そうね。ウェレアさんから頂いたこの外套も、防寒の足しになったのかも」

「まさかここで役に立つとは思わなかったけど……そうだ、私達はともかく、他の皆はどうかしら」

「ワーヴァ、攻撃隊の皆は……無事かな?」

 エレーシーはおっかなびっくりしながら、そっと聞いた。

「ええ……9割くらい……でしょうか……」

「じゃあ、1割は……」

 エレーシーの言葉に、ワーヴァは目を瞑って答えなかった。

 しかし、彼女の言葉を待たずして、その場にいる一同はその意味を察してそれ以上この事に関して口を挟もうとはしなかった。

「さ、さて。これ以上犠牲を増やさないためにも、早くフィルウィートを攻略しましょう。今なら、一応視界はあるし、攻め込めるんじゃないかしら」

「ティナ、攻めるならまずは体制を整えよう。どういう作戦で行く?」

「そうね……とはいっても、とりあえず最初の塀のところには何もないようだし、見張りがいるだけでしょう。問題はその次の塀ね」

 吹雪は止んだとはいえ、まだ冷たい風が肌を突き刺すように吹き抜ける中で、軍幹部達は身を寄せて、改めてフィルウィート攻略への道筋を立て直し始めた。


「よし、それじゃあ、これで行きましょう。でも、皆、フィルウィートの街を直で見たことがないから、何があってもおかしくないわ。基本的にはさっきのままだけど、各部隊ごとに、危険を感じたら臨機応変に挑みましょう」

「了解。それじゃあ、私達は各部隊を纏めるね」

「兵士の皆はワーヴァがある程度まとめてくれてるから、ワーヴァに聞いてそれぞれで待機しておくように。すぐに作戦を開始するわよ」

「はい!」

 アビアンやエルルーアといった、それぞれの部隊を牽引する役割を担った者達は、ティナに了解の意を伝えると、即座にそれぞれの部隊の元へと散っていった。

「さあ、少し予定は遅れたけど、いよいよ始まるね」

「そうね。ここを取れば、地上統括府の制圧も目に見えてくる。何としても勝ちましょう」

 エレーシーはティナの決心の言葉に頷きつつ、頃合いを見計らいながら、笛を口にして勢いよく鳴らした。

 ついに、ミュレス大国軍の攻撃の火蓋が切って落とされた。

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