一三七 アルサンソリア中間会議
ミュレス大国軍の過剰ともいえる主力行軍の兵力は、ラニアリアのみならず、フィルウィートまでの中間都市でもあるアルサンソリアでも余すことなく発揮されていた。
これらの街では、ほとんど交戦することなく一瞬で決着が着いてしまう程であった。
最も、フィルウィートの攻略を目標にして編成されたこの大軍が途中の小都市で苦戦する様では、そのままフィルウィートを目指すことは到底無茶というものである。
そういう意味では、これらの都市をそれほど苦労することなく奪還できたことは、ティナやエレーシー達軍幹部に幾ばくかの安堵を与えた。
一先ずの目標であるアルサンソリアに着いた時点で、軍幹部は再び会議を開いた。
「この先、フィルウィートまではどうなの?」
ティナは、兵士の中でもこの先まで実際に歩いたことのある者を集めて尋ねた。どうやら、この先の道のりについて気にしているようだった。
「どうなの……と言いますと?」
「えーと、要は、何か通りにくい場所とかってあるのかしら。山とか、川とか……」
「なるほど、この先ですか。この先は、確かに山がありますね。山を越えた先にシュモンシアという街があるのですが、ここからシュモンシアまでは大分遠いですよ」
「ポルトリテからアルサンソリアまでとどっちが遠い?」
「それは断然、ここからシュモンシアまでの方が遠いと思います」
「そうか……」
その言葉を聞いて、エレーシーは少し落ち込んだ様子を見せた。
「それで、そのシュモンシアからフィルウィートまでは近いの?」
「うーん、そうとも……川を2本は越えないと辿り着けないですね」
「あなた達、それでよく10日くらいで行き来できたわね」
「まあ、私達行商は早馬も使いますから」
「その川は、橋もあるんでしょう?」
「ええ、あります。天政府軍が落としてなければですが」
「落とす……かな?」
「それも作戦の一つとして考えられるわね。ミュレス人をフィルウィートの中に留めておいて、自分達は橋がなくても渡れるもの」
エレーシーの疑問に、エルルーアは間髪入れずに返した。
「そうか、普通の天政府人はともかく、天政府軍の人なら橋がなくても問題ないのか……」
「それは厄介ね……アルサンソリアから逃げるように天政府軍の兵士が街を出たというのは聞いたけど……」
「フィルウィートに逐一伝えているかもしれないわね。彼らなら、山も川も関係ないもの。すぐ伝わるわ」
軍幹部は一斉に黙り込み、しばし考え込んだが、ティナがすぐさま口火を切った。
「フィルウィートの話は少し置いておきましょう。何にしても、次の宿場はシュモンシアね」
「まあ、その前にも小さな宿場はいくつかありますが……」
「とりあえず、シュモンシアにしておきましょう。その山越えはかなり険しいの?」
「うーん、そこまでではないですよ。一応、大街道ですから」
「狭いとかは?」
「確かに、これだけの大人数が通るとなると、狭いかもしれません」
「やっぱり……」
「そういう意味では、『街で戦闘』と考えないほうがいいかもしれないわね。山中の藪の中から奇襲ということもありえないことじゃないわ」
「なるほど。山越えをする時の防衛体制も必要になってくるのか」
「そう。常に『戦時』ということを意識して動かないといけないわね」
「よし、アルサンソリアから先はそういう考えも含めていこう」
「それがいいわね」
会議の結果、常に周りに目を光らせるように体制を整えつつ、アルサンソリアを出発したが、それが功を奏したのか、山越えも無事に乗り越えることが出来、一本目の川も、難なく橋を渡って向こう側に渡ることが出来たのであった。
そして、ついに二本目の大河であるフィルウィーティア川の岸までたどり着くことができた。




