一三五 北西の様子
それから一週間と少しが過ぎた。
ティナ達は、ひたすら軍に加わってくれる仲間を探す忙しない日々を送り、この日も朝から、どうやって仲間を探そうかだとか、この先、進軍するにあたってどのような編成にしようかといった会議をずっと続けていた。
「失礼します」
その時、案内役の兵士が会議室を訪れた。
「あら、何かしら」
ティナは立ち上がり、案内役の方へと歩み寄った。
「先行部隊の方々がお戻りになりました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「偵察部隊ね。分かったわ、お通しして」
ティナの話を聞き、エルルーアは机上に散らかしていた資料をまとめると、棚に置いてあった地図を開き、再び席についた。
「お許しが出ましたので、どうぞ」
案内役はそう言って一歩下がり、偵察部隊の兵士を会議室へと案内した。
「失礼します、総司令官」
「おかえり。よく帰ってきたわね」
ティナは彼女達の労をめいっぱい労うと、円卓へと案内した。
「おかえり。フィルウィートまで辿り着けた?」
エレーシーは席についた二人に、早速質問した。
「はい、フィルウィートまで大街道を北上し、フィルウィートで二泊した後にまた帰って参りました」
「なるほど、こういうご時世だから、大街道も天政府軍の監視が厳しいかと思ったけれど、案外すんなり通れるものね」
エルルーアは少し疑問に思ったものの、百戦錬磨の天政府軍もこの程度かと一瞬感じた。
「いえ、そうすんなりと行けたものではありません」
兵士たちはエルルーアの質問に対して、首を振って答えた。
「何かあったの?」
「はい、まず、ここを東に行ってすぐ北に上がったところにあるラニアリアの宿場ですが、そこで天政府軍の検問に遭いました」
「ラニアリア……って、そんなに近いの?」
西部ミュレシアの土地にあまり詳しくない軍幹部陣にとっては、ポルトリテ周辺の地名が多く上がってもそれほどピンと来たようではなかった。
「ラニアリアなら、まあまあ近いわ。半日と言わず、四分の一日くらいあれば着くんじゃないかしら」
この近辺の事を一番良く知っているフェルファトアがすかさず説明した。
「なるほど、確かに近いね。それで、検問は結構大きめだった?」
「うーん……そうですね……そんなに大きくは無いですけど、十数人というくらいですかね」
「なるほど、それはいわゆる『小の関』というものね」
「小の関?」
「ええ。もしも大きな問題が起きた時に、すぐに対処できるようにそこで足止めしておいて、使いの者がそこから大きな拠点に連絡しに行くのよ」
「なるほど、そんなのがあるのか……」
「まあ、私もこの西部で聞いた程度だけど……それで、その先は?」
「そうですね……話によると、その先のアルサンソリアの街は、武装した天政府人の数がここ数日で一気に増えたという話ですね」
「武装した天政府人が……ひょっとすると、この前の戦いで逃れた天政府軍がそこを根城にしてるのかもしれないわね」
「もしかすると、そうかもしれません。ちょっと、大街道を通るのも怖いくらい妙な雰囲気が漂ってましたから、アルサンソリアは下手すると、市役所よりも天政府軍の方が力が強いのかもしれませんね」
「なるほど、それで、貴女達はその先にも行ったんでしょう?」
「はい」
「フィルウィートの街はどうだった?」
「フィルウィートですか? うーん……」
兵士は首をかしげ、眉を潜めながら口を開いた。
「正直、あまり居たい街ではありませんでしたね。昔は、ポルトリテよりも天政府人が少なくて、私達ミュレス人も割とのびのびとしていたような気がしたんですが、数日前に寄った時は、ミュレス人も皆建物に隠れるようにして暮らしてました。私達も、建物に潜みながら行動せざるを得ないような状況でしたし」
「それは、つまり……」
「ええ、フィルウィートも天政府人の支配が強まっているようね。フィルウィートの天政府軍はどうだったかしら?」
「天政府軍ですか、それは、もう、至るところに居ますよ」
「至るところに?」
「ええ。普通の市民よりも天政府軍の方が多く歩いているくらいに多いですよ」
「それはなかなか力入れてるわね……」
ティナは天政府軍がポルトリテ以上に力を入れていることを知り、相手の本気を垣間見るとともに、フィルウィートが天政府や地上統括府にとって非常に重要な拠点だと確信した。
「話を聞いていると……やはり、フィルウィートは地上統括府市よりも先に攻略しておかないといけないわね」
ティナの問いかけに、その場にいる全員がうなずいた。
フィルウィートは天政府本国とも繋がっており、地上統括府とも山の向こうとはいえ近いといえば近い。
フィルウィートを抑えることで、天政府本国からの援護を阻止する事ができる。
何より、それが一番大きかった。
今後の方針が決まると、後はトントン拍子で進むものであった。
いつものように、ワーヴァやアビアン、その他の兵士達が仲間のために力になってくれる兵士や協力者を募っていくが、さすがにミュレシア最大の商都であるだけあって、人は次々とミュレス大国軍の下に集ってきていた。
天政府軍や地上統括府と繋がりがあるかどうかなど、ある程度の調査はするものの、基本的にティナ達は来る者は拒まず、日に数十人と来る参加希望者を次々と入れていったのだった。
もちろん、進軍に際して作戦を立てることも欠かせなかった。
折角、フィルウィートの現状をその目で見てきたのだからと、偵察に行かせた彼女達も混ぜて幹部会議を何度と重ねて開催し、日に日に変わっていく軍の様子を反映させながら、作戦を一つ一つ確実に重ねていった。




