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一三四 北西侵攻の準備

 ポルトリテの街は、西部のみならず、天政府領ミュレシアにおいて最大の港町であり、商業の中枢たる大都市であった。

 そのため、このミュレシアは天政府の本国との輸出入を担うという役割を持つ非常に重要な拠点でもあった。

 とはいえ、そのポルトリテを失えば壊滅状態に陥るほど、地上統括府は弱くはなかった。

 アビアンが軍幹部としての仕事を終え、ポルトリテの繁華街にある酒場で呑んでいると、商人達がふと話しているのを聞き、間に割って入り話を聞き出したことがあった。

 その商人が言うには、ヴェルデネリア奪還の頃から、ポルトリテでの取引が極端に少なくなったということであった。

 また、もう一人の商人の話だと、どうも今よりも北の街の方に物が流れていっているようだとの話で、大街道も通る人が少なくなったという話であった。

 あげくには、これまでミュレス人の商人を頼っていた天政府人が自ら動くようになっているとも言った。


 アビアンはその次の日の朝、ティナ達に商人から聞いた話を紹介した。

「なるほど、そんな事が起きてたのね」

 ティナは情報を持ってきたアビアンを褒めつつ、天政府人も密かに動いていた事を知り、また腕を組んで考え始めた。

「北の街か……私達はあまり知らないけど、どういう所があるんだろう?」

 エレーシーはそう言い、フェルファトアの顔を見た。

「ええと、そうね……一番近いところではラニアリアだけど、あそこはどちらかと言うと宿場町だから、そんなに人は住めないし、船も着く所は無いわね。港があるのは、アルサンソリアか……もっと北にはフィルウィートっていう街があるわね」

「ああ、フィルウィートなら聞いたことがあるよ」

 エレーシーは、その名前にだけは反応した。

「フィルウィート?」

「うん。フィルウィートは周りの大国向けに色々と作っては売ってるって聞いたことがある。私の仕事場は作物がほとんどだったから特に関わりはなかったけど、フィルウィートからポルトリテやシュビスタシアを経由してノズティアとかの方に行く船が度々出ていたよ」

「なるほど、工業都市というわけね。そこなら、地上統括府がポルトリテの次に目をつけてもおかしくはないわね」

 ティナはエレーシーの説明を聞いて、納得するとともに、天政府軍の動きがまだ把握できていないことを痛感した。

「それにしても天政府軍もいろいろと動いているみたいね。これは、早めに手を打たないと……」

「そうは言っても……どうする?」

 エレーシーもティナの焦燥感に同調するように追い立てた。

「う、うーん……そうねえ……」

 ティナは再び腕を組み、考え込んだ。

「このまま地上統括府に攻め込んでも、フィルウィートやその北のほうから兵力がどんどん追加されるでしょうね。やはり、ここは北に兵を進めましょう」

「なるほど。確かにそうだね。よし、一部隊潜伏させよう」

「潜伏?」

「何回か使ったけど、今回も行商に紛争させて、大街道を北に進めさせようと思うんだけど」

「なるほど、それは何故?」

 エルルーアは、目を輝かせながらエレーシーを見上げつつ問いかけた。

「それはもちろん、本当にフィルウィートの天政府軍が増強しているかを確かめるためだよ。フィルウィートを目指していて、途中のアルサンソリアとかで大所帯の軍と鉢合わせなんかしたら、不意打ちを食らうことになるからね。そういう意味でも、途中の街での天政府軍の防衛能力も把握しておきたいしね」

「なるほど、そういうことなら私も賛成だわ。姉さんもいい?」

「ええ。そうしましょう」

 軍幹部たちは、偵察部隊を先行させて送りこむことに満場一致で賛成し、早速送りこむための準備に入った。


 そして翌日、行商に変装した兵士二人が軍幹部に見送られて出発していった。

 変装とは言うものの、彼女達は兵士になる前、ヴェルデネリアからポルトリテやフィルウィートまで実際に歩いていた行商であった。

 こういう任務では、道を悩む素振りすら見せられないのである。

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