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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第五章 フィルウィートの海・第一六節 第二次ポルトリテの戦い
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一三三 トゥリフニア海が見えた

 建物から出たフェルファトアは、途端に驚きの表情を見せた。

 ここに来た時には、しんと静まり返っていた市役所前の庭園は、いつの間にか仲間の兵士達がひしめき合っていた。

 彼女は懐かしさとともに、このポルトリテで初めて見たかもしれないミュレス人達の笑顔に喜びを感じてた。

「皆!」

 フェルファトアが感慨に浸っていると、一足早く兵士たちをかき分けて一番前に躍り出ていたエレーシーが一段高い所に登り、手を叩きながら兵士達に呼びかけた。

 はっとした兵士達は、揃ってエレーシーの方を向き、統括指揮官の話を聞く体勢を整えた。

「今我々が立っているここがポルトリテの中枢である。そして、ポルトリテといえば、シュビスタシアにも勝る、ミュレシア一の大都会である。そして、そのミュレシア一の大都会を、ついに我々ミュレス民族の下に取り戻すことが出来た!」

 エレーシーがぐっと力強く右手を握りしめながら上げると、周りから歓声が上がった。

 ある程度その歓声を楽しむと、両手で抑えるように皆をなだめて静かにさせると、エレーシーは更に続けた。

「西軍が挑み、結果、成し得なかった、このポルトリテの奪還を、我々全員の力を結集することで達成することが出来た。まさに、民族の力を天政府人に見せつけることが出来たのではないだろうか。今日という日は、ミュレス民族の歴史に残る偉大な一日になることは間違いないだろう」

 エレーシーは喜びに満ちた表情で兵士達に自分が考えうる最大限の賛辞を述べたが、一転、すっと落ち着いた表情になった。

「しかし、ここは首都ではない。あくまで『西の商都』である。もちろん、このポルトリテに住む数万、数十万の仲間を天政府人の手から解放することが出来たことは大いに、非常に喜ばしい事である。だが、ここは私達の最終目的地ではない」

 エレーシーはここまで一気に話し続けたが、一息置いてさらに続けた。

「先日、私達はションツで休み、ノルメーの草原に続く道へと入っていった。しかし、ションツから北に、まだ大街道は続いている。そしてその先には、私達と同様に天政府人の下で要らぬ苦労を重ねている仲間がまだ大勢いる。そして、何より、それは天政府人達をまとめる地上統括府を討つまで終わらないだろう!」

 兵士達は、エレーシーの話を聞いてしんと静まり返った。

「……とはいえ、ここより北や地上統括府に挑むには、さらなる戦力の増強が必要だと思う。少しでも犠牲を無くすために、少しでも楽に戦いを進めるために……だから、私達はこれまでやってきたように、このポルトリテでさらに、共に戦ってくれる仲間を探そうと思う。それに、皆もヴェルデネリアからポルトリテまでずっと緊張感を保ったまま、ここまでやってきてくれた。私は、皆がこの緊張感を一旦解きほぐす必要があると思う。だから、ここでしばらく休みを入れようと思う」

 「休み」という言葉に、一部の兵士達の顔から笑みがこぼれた。

「もちろん、天政府軍はこのポルトリテを取り返しに攻めてくるに違いない。だから、これもシュビスタシアやヴェルデネリアでやっていたことだけど、交代で防衛体制を維持する。でも、交代して休憩に入った班は、大いにこのポルトリテの中で自由を謳歌し、楽しみ、ポルトリテに住む仲間と、天政府人から解放された喜びを分かち合おう!」

「はい!」

 兵士達は、喜びに満ちた声で一つ、返事をした。

「それでは、ワーヴァの指示を受けて街に入るように。以上、解散!」

 エレーシーはそう言うと上がっていたところから降りて、ティナやエルルーアを呼び、市役所の中へと入っていった。先程までエレーシーが立っていたところには、その代わりにワーヴァが立ち、それぞれ、防御班、市内巡回班、そして休憩班に分かれさせ、フェルファトアに教えてもらった市内の状況を思い出しながら、纏まって宿屋を探させた。

 ティナ達軍幹部達はというと、市役所の入り口に近い、少し広めの部屋を間借りし、早速、このポルトリテでやるべきことや、今後の作戦などについて話し合っていた。


「じゃあ、今夜は私達も楽しみましょう」

 大都市ポルトリテを治める市長も会議の中で決まり、その後の方針もあらかたまとまったところで、ティナが最初に立ち上がり、再び市役所を後にすることにした。

 先程までは兵士でごった返していた庭園も今は静かになり、話を聞きつけた市民の姿がちらほら見える程度であった。

 苦労して突破した大きな門も今は一時的に開放されており、すんなりと通ることができるようになった。

「すごいところね、ここは」

 ティナは、市役所から南へと真っすぐ伸びる街道の脇に、大きな建物が一列にずらっと並んでいる様子を見て、思わず圧倒された。

 慣れ親しんだシュビスタシアや、ヴェルデネリアといった都市とはまた一線を画す規模であった。

「話には聞いていたけど、やっぱりポルトリテは港町だね。ほら、向こう側に海が見える」

 エレーシーが指差した方に皆が注目すると、そこには、建物と建物の間の道の先に、沈みかけの夕日に照らされてキラキラと輝く水面が、波に揺れて漂うのが感じられた。

「本当ね。大陸間海(ミキルフェリース海)を見るのは、ヴェルデネリア以来ね」

「思えばシュビスタシアもヴェルデネリアも、ノズティアも皆、あの大陸間海に面しているね」

 ティナとエレーシーが話をしていると、一歩遅れて部屋を出たフェルファトアが後ろから話しかけた。

「何? どうしたの?」

「ああ、遠くの方に大陸間海がきれいに見えるなあと思ってね」

 エレーシーが説明すると、フェルファトアは同じように遠くを見つめて、軽く笑みを見せた。

「なるほど、ああ、あそこに見える海ね。あれは大陸間海じゃないわ」

「え?」

「あれは、トゥリフニア海」

「トゥリフニア海?」

「ええ。ここは半島だから南に海があるけれど、ミュレシアの西側にある海は、トゥリフニア海というのよ」

「そうなんだ。初めて聞いたなあ」

「まあ、エレーシーもティナも、中央ミュレシアの人だから、こちら側の事はあまり知らないかもしれないわね」

「でもそれを聞くと、シュビスタシアから遠くに来たんだって思うわ」

「実際に遠いけどね」

 それを聞いて、3人は無意識に頷いていた。

「またここでゆっくりと体制を立て直したら、今度はこのトゥリフニア海をひたすら北上していくんでしょう?」

「ええ、そうね」

「ここから北に上がると、天政府の本国にも近づくことになるわ」

「ああ、そうか。そういえば、天政府の本国ってミュレシアの西側に面しているんだっけ」

「正確に言えば、このトゥリフニア海の上にあるわね。だから、本国からの軍隊の送り込みも、これまで以上に簡単になってるはずだわ」

「やっぱり天政府人は一筋縄にはいかないね」

「伊達に数百年も私達と戦ってないわね。さて、この話は今日の夜にでも、またエルルーアやアビアンも混ぜて、話し合いましょう」

「ひとまずは、お疲れ様」

「お疲れ様」

 3人は、このポルトリテ攻略が果たせたことについて労をねぎらいあい、夕焼けに染まるポルトリテの街の、海へと続くなだらかな坂道を降り、繁華街の中の宿屋へと向かっていったのだった。

 これから、自然と戦いが楽になることは無い。

 エレーシーは、ノズティアからシュビスタシア、ルビビニア、ヴェルデネリア、そしてこのポルトリテと進軍し続ける中で、その考えを自分の中で確固たるものにしていった。

 これから、ミュレシア北西部へと進軍するにあたり、フェルファトアが述べたような理由から、それがさらに顕著になることは想像に容易かった。

 問題を解決すれば、直ちに次の問題が現れる。

 トリュラリアで反乱の意を天政府人に突きつけたときから……

 いや、それ以前に準備していた時から、エレーシー達は数々の問題に直面し、そのたびに解決してきたのだった。

 これから先、どんな難問が自分たちの前に立ちはだかるのだろうか。

 エレーシーはティナやアビアン達とにこやかに話をしていても、常にそのような事が、頭の中のどこかにあり、無くなることは決して無かったのだった。

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