一二九 東大門突破
門前で争っている兵士達は、そんなことが行われているとも知らずに、ただ門をこじ開けようと全力で門にぶつかっていった。
この門の中で、ミュレシア一の交易都市ポルトリテが、そしてそこに住む、まだ見ぬ数万、数十万の仲間が、今もなお天政府人の圧政に耐えながら暮らしているに違いなかった。
「向こうも通さないように必死だね」
「天政府軍もなかなかしぶといぞ!」
門前の部隊は全力で門を開けようとしているが、向こう側の力に押され、びくともしないようだった。
「ここを突破すれば、ポルトリテは攻略したも同然だ! 皆、頑張れ!」
兵士達は声を掛け合いながら、天政府軍との力競べを繰り広げていた。
根気強く扉を引き続けている内に、一瞬扉が動いたような感触がした。
「もう少しかな?」
「疲れたら交代するから、頑張って!」
お互いに声をかけながら扉を引っ張っていくと、次第に向こう側の景色が見え始めた。
「もう少し! もう少し!」
その瞬間、扉に掛かっていた反発力がなくなり、外開きの扉が一気に開いた。
「うわっ!」
すべての力を扉に集中させて引っ張っていた兵士は、扉が開いた衝撃で後ろへとひっくり返ったが、後ろで交代要員として控えていた兵士達が一目散へと中へと入っていった。
「開いた! 開いた!」
砦から全体の様子を見ていたエルルーアは、その様子をいち早くティナ達に伝えるために、上から大声を張り上げた。
「よし、いいわ。手の空いている人は門の向こう側へ!」
「誰かつけよう……よし、フェルフ、ポルトリテの市役所まで導いていって」
エレーシーは、おそらくポルトリテを一番良く知っているであろうフェルファトアに先行部隊を任せることにした。
「分かったわ。それじゃあ、行ってくるわね」
それまでずっとティナ達と行動を共にしていたフェルファトアは、ここでようやく、前回の雪辱を果たすべく、周りの兵士達と共に門のところに先行した部隊に合流した。
先行部隊は、門を内側から押さえていた天政府軍の部隊と早速交戦していた。
遅れてやってきたフェルファトアは、前の方を目を凝らして眺めて周辺の戦況を把握することに努めた。
もちろん量では、ミュレス大国軍が天政府軍を圧倒しているので、それなりに天政府軍を次々と倒していってはいるが、それでも向こう側も続々と戦力が補充されていっていることに気がついた。
フェルファトアは、扉を挟んだ攻防戦を繰り広げていた部隊ではなく、壁に穿たれた穴から攻撃の機会を伺っていた部隊が、天政府軍劣勢の危機に、持ち場を離れて駆けつけてきているのではないかと想像した。
「ポルトリテは市役所もここから割と距離もあるし、天政府軍もなかなか戦力が途切れそうにないわね。もっと戦力が必要かも……」
フェルファトアは、教育院時代の記憶を頼りに、門から市役所までの道筋を考えると、目の前にいる兵力でもまだまだ不足を感じ、念の為、エルルーアに兵力増強を合図し、盾役の兵士とともに戦闘の前線へと入り込んでいき、指揮を執り始めた。




