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ミュレス帝国建国戦記 ~平凡な労働者だった少女が皇帝になるまで~  作者: トリーマルク
第五章 フィルウィートの海・第一六節 第二次ポルトリテの戦い
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一二四 ノルメーの砦

 エレーシーは「ノルメー」という地名に聞き覚えは無かった。

 しかし、そこに着いた瞬間、そこがノルメーであることを悟った。

 その周りだけ、明らかに異様な空気が辺りを包んでいたからである。

 だだっ広い草原の中、ただ一本続く道の先には、ミュレシア随一の商都であるポルトリテの建物の影が遠くに見え、そしてその手前には、ポルトリテ市内とその外をはっきりと区別させる、視界の果てまで続く壁が立ちはだかっていた。

 そして、その手前には、やはり彼女達から聞いていたとおり、大小様々な建物が、道沿いに立ち並ぶ様が、遠くからでも見えた。

「この人数で来てるんだから、ちょっとは天政府軍の兵士が外に出ていてもおかしくないはずだけど……」

 草原のど真ん中で、既に身を隠すところはどこにもないような場所に、数千人ものミュレス大国軍がいて、天政府軍が気づかないはずはなかった。

 それにも関わらず、目の前には天政府軍の姿は見当たらなかった。

「まさか、あの天政府軍が、ポルトリテの砦で全員暇を取ってるとは思えないし……よし、皆、臨戦態勢を取ろう」

 異様な雰囲気を感じたエレーシーは、周りの兵士にいつでも攻撃できるように態勢を整えるように伝えた。

 エレーシーは、いつ、どこから天政府軍が襲いかかってきても大丈夫だぞという面持ちで、左右を見回しながら、一歩一歩、慎重に歩みを進めた。兵士達もそれに続き、声はおろか、物音も立てまいとするほどに、静かに歩き始めた。

 防具の金属が擦れる音だけが、広い草原に響き渡った。


 エレーシーはふと、日の光に照らされた室内に、武器を構えながら自分たちの方を睨んでいる天政府軍の姿を一瞬見た。

 その兵士の姿を見て、エレーシーはふと自分たちが最初に狼煙を上げたとリュラリアの事を思い出していた。

 時の鐘を合図にして、あたりの建物から一斉に飛び出し、町を一瞬にして自分たちのものにした、あのトリュラリア占拠の時のことである。

「ティナ、建物の中に天政府軍がいる」

「本当?」

「武器を構えてる。今にも飛び出してきそうだよ」

 エレーシーは、その事を隣で同じように臨戦態勢を取っているティナに小声で伝えた。

「先手を取りに来そうね……そうは行かないわ」

 ティナは、こういうときには場を先導することが大切だということを悟った。

 ティナはふと足を止め、エレーシーの方に手を広げて静止を促した。

 それに続き、後ろで歩を進めていた兵士達も次々と停止を余儀なくされた。

 辺りには草の間をかき分ける風の音のみが響き、誰もいないがごとくの静寂が訪れた。しかし、ミュレス大国軍と、まだ姿を見せぬ天政府軍との間には、すでに覇気のぶつかりあいが始まっていたようだった。


 無言の重たい空気のぶつけ合いが続く中、ティナは一歩前に出ると、さっと剣を抜いた。

 そして、無人の荒野に人がいるがごとく、声を上げた。

「建物に潜んで監視しているであろう天政府軍に告ぐ!」

 ティナは、天政府軍が監視していることをはっきりと伝えた。

「我々は、ミュレス大国軍である!」

 ティナは名乗りを行った後、辺りの様子を伺ってみたが、物音一つ聞こえなかった。

 やはり、敵は百戦錬磨の天政府軍である。ちょっとした煽りや謗りに同じて飛び出す素人とは違うのであった。

 ティナは再び、辺りを見回しながら考えを巡らし、次の言葉を考えた。

「我々ミュレス人は、この地が元より天政府人の物であったと伝えられてきた。しかし、実際は我々ミュレス民族が支配していたのだ。天政府人は、後からこの地に乗り込み、我々を制圧し、奴隷として扱ってきたのだ。我々ミュレス大国の目的は、我が仲間、ミュレス民族の天政府人の圧政、暴虐から解放し、自由なミュレス民族社会を形成することにある! これは、ミュレシアに根ざす我が民族にとって当然の理である!」

 ティナは慣れない堅い言葉を、どうにかこうにか繋ぎ合わせながら、天政府軍を煽った。

「この砦にも、我々の仲間が二度来たであろう。しかし、その時よりも多くの仲間を連れて、再びここに来た! その意義をもちろん、ポルトリテに住む数万、数十万の我々の仲間の解放である!」

 ティナは大いに啖呵を切ってみせた。しかし、天政府軍は一向に沈黙を辞める素振りを全く見せなかった。

「どうしようかしらね……」

 ティナは相手が全く動く気配を見せないのに対して少し戸惑いの表情を浮かべた。

 街道沿いに天政府軍がいるのは気づいていたが、フェルファトアの話を聞くに、とても建物の中にいる兵士が、天政府軍の全てだとはとても思えなかった。

「エレーシー、あの建物群にいる兵士だけだと思う?」

 ティナは剣を抜いたまま、後ろにいるエレーシーに聞いた。

「うーん……それだけかな……例えば、あの塀の向こう側にもいるかもしれない……」

「なるほど……万が一、飛び道具を持っていたら危険だわ。でも、もうちょっと色々と調べたいわね」

 そう言うと、エレーシーは気を利かせてワーヴァを呼び寄せた。

「ワーヴァ、特別隊の5班に偵察させよう」

「偵察……」

「あの建物に天政府軍が潜んでいることは分かってるんだけど、それだけじゃないと思うんだ。だから、その裏とか、塀の向こう側とかにいそうな気がするんだよね」

「ああ、それを調査するということですね。分かりました」

 ワーヴァはそう言うと後列の方に戻っていった。

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