一二二 進軍開始
ティナ達はポルトリテ攻略にあたり、再び遠征部隊を編成し直して市役所前に集合させた。
今回も、ティナはミュレス大国軍お得意の二部隊作戦を計画していた。
予め、数人規模の「先行部隊」を編成し、商人に扮装してポルトリテに向かわせていたのだった。
もしも、途中でヴェルデネリアの方に進攻してきている天政府軍に出会ったり、重厚な検問所などに当たった時は、来た道を折り返して遠征部隊に報告するという算段であった。
もっとも、2回も攻撃されたことのあるポルトリテに何の支障もなく辿り着けるはずもなく、どこかの時点で帰ってくるだろうとティナは考えていた。
そして、もちろん、「天政府軍がヴェルデネリアに向かっている」ということが無い限りは、ポルトリテ占拠までは戦い抜く覚悟であった。
「よし、皆集まったね」
エレーシーは再び、大通りを埋め尽くさんばかりの大所帯を前にして、まだ見ぬ西の港町ポルトリテの天政府軍に挑む事に一種の高揚感を感じていた。
これは、ともすると不安感を無意識に覆い隠すためのものかもしれなかった。
何せ、西軍は2回挑んで尽く負けてきたからだった。
エルルーアは数だけでは駄目だとは言っていたが、それでもエレーシーには数の力に縋りたい気持ちがあった。
それでも、数の力に多少なりとも力を与えるのが、自分たちがこれまで深く話し合いをしながら作り上げてきた作戦なのだと何回も思い返しながら、この場に立ち、皆を率いてこの街を出ようとしていた。
「さあ、いよいよこの時が来た!
我々は、ついに西の雄たる港町、ポルトリテを我々ミュレス民族の手のもとに再び取り戻すために、天政府軍と再び一戦交えることになるだろう!
旧西軍の皆にとっては、悪夢のような道のりだったかもしれない。
しかし、今、ミュレス国軍の全ての力がこのヴェルデネリアに集っている。
そして、我々国軍幹部もこのヴェルデネリアに集結した!
今、この遠征で必ずや勝利を得る!
ただ、それだけが我々ミュレス民族がとるべき道である!
歴史書に遺された最後の戦いのように、ここでの三敗は民族の衰退を意味する!
このポルトリテ遠征では、常にその意志を持ち、迎える天政府軍に立ち向かわなくてはならない!
一人ひとり、気を抜かず天政府軍の攻撃に耐え、何としてもポルトリテに住む仲間を我々の手で天政府人から解放しよう!」
「はい!」
エレーシーの意気込みに応えるように、兵士たちは一様に声を合わせ、返答でもって自らの意気を示した。
「よし! それじゃあ、出発しよう!」
エレーシーは一つ、出発の合図を出すと、くるりと身を翻し、西門の方へと歩を進めていった。
ティナはエレーシーの横で黙ってついていき、エルルーアとアビアンは兵士たちの隊列のほぼ中間地点で側から、攻撃してくる者がいないか、盾を持った防衛部隊に守られながら見張っていき、ワーヴァとフェンターラは最後尾から兵士たちを励ましながら、後ろ側の安全を確認していた。
これまで、東軍が行ってきた遠征をそのまま流用したような形だった。
フェルファトアは、ティナを挟んでエレーシーの反対側にいて、ティナを守るように付き添いながら歩いていた。
沿道には、ヴェルデネリアを防衛するために残る兵士達が並び、その後ろにこの街に住む一般市民のミュレス人が手を振りながら見送りに来ていた。
兵士たちは、ずっと市民の声援を全身に浴びながら、数十分の時間を掛けて、狭く作られた西門をくぐって市の郊外へと続く街道に出て、およそ人の少ない草原の中の道をずんずんと西進していった。
西軍はただポルトリテ攻略に失敗して手をこまねいていたようではなく、周辺の小さな町ではしっかりと天政府軍との攻防戦を繰り広げていたようだった。
そのため、残念ながら荒廃してしまった町が街道沿いに点在しており、ミュレス大国軍の兵士たちの良き休憩地点となった。
「このルプラプルでも、天政府軍と衝突したのよ」
フェルファトアは、その町々一つ一つの事を覚えていた。
ティナ達が空き家を間借りして休んでいると、フェルファトアは旧東軍幹部達に戦いの思い出を語った。
「ところで、この町の人達はどこに……?」
エレーシーは恐る恐る聞いてみた。
「私達との戦闘の犠牲になった人も少なくはないけれど、いくらかはヴェルデネリアやもっと東の町に移り住んだりしてるわね。今の兵士の中にも、ポルトリテからヴェルデネリアまでの町から来た人も少なくないはずよ」
「なるほど、軍に参加してる人もいるのか」
「彼らからしても、天政府軍を打ち負かすことで、自分たちの町がまた戻ってくると思ってるのよ」
「確かにね」
エレーシーはポルトリテへの道すがら、町々で休憩する度に、西軍の戦歴とともにそれぞれの町に住んでいたミュレス人の仲間がどのような思いで自分たちの軍に参加したのか思いを窺い知ることになり、あらためて、「ポルトリテ攻略」は絶対に成功させなければならないという意思を固くするのであった。




