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一一九 天政府軍は力でねじ伏せるもの

「ティナ、ティナ」

 エレーシーと取り留めのない話をしていたティナは、突然後ろから声を掛けられた。

「何?」

「水だけじゃ物足りないでしょう? レテルジュースを頼みましょうよ」

「レテルがあるの?」

「あるわ。多分、東とは違う味よ」

「それじゃあ、折角だし頂こうかしら。他の人もいいわよね?」

 ティナは他の人の様子も伺い、フェルファトアが勧めてくれた飲み物を出席者全員に勧めた。

 その場にいた皆がそのジュースを注文し、それを酒代わりに話を進めた。

「まあ、何にせよ、これまで西軍の指揮、ご苦労さま」

 ティナはフェルファトアともう一度杯を合わせながら、これまでの労をねぎらった。

「それにしても……」

 フェルファトアはジュースを少し口にすると、ため息を一つ吐きつつぼやっと机の上の灯りを眺めた。

「東軍はシュビスタシアでの大量離脱を除いて、順調にここまで来たのね」

「それは仕方ないわよ。西側は地上統括府市にも近いし、地上統括府にとっての重要な拠点もたくさんあるんだから。東は、苦戦したシュビスタシア以外は小さな町が多いし、ノズティアは天地共同管理だし、天政府軍の拠点と言われているディアゴリアは攻略してないんだから」

「それは確かにそうだけど……こうも二度の遠征をことごとく失敗して、後はただヴェルデネリア防衛に徹するのみでは、さすがに統括指揮官としては来るものがあるのよ」

 フェルファトアはティナの方に身を寄せながら、この数日の間に何度も聞いた合流前の敗戦話を再び繰り広げた。

 その口ぶりから、彼女の西軍での体験は、ティナやエレーシーが思う以上に彼女の心に深い傷を遺したようだった。

「確かに……フェルフの言う通りね。これまではとても順調に進めることが出来たと思うわ。それはもちろん、東軍は兵士の数も西軍とは違って多いからじゃないかしら?」

「うーん、やっぱり数なの?」

 フェルファトアはティナの顔を覗き込むようにして見上げながら聞いた。

「そうでなければ、あの治安管理隊や天政府軍に太刀打ちできるわけがないもの。私たちのような素人集団が、彼ら相応の力を得るためには、数と地の利を活かすしか無いのよ」

「数か……そうね」

 フェルファトアは一言つぶやくと、天井を見上げて頭の中で考えを巡らせ始めたが、一連の話に耳を立てていたらしく、フェルファトアの肩を叩いて傍に座った。

「フェルフ、西軍時代の敗戦を憂うのも分かるけれど、私達はこれから『ミュレス大国軍』として、一つになって戦うんだよ」

「そ、そうよね、エレーシー」

 いきなり後ろから話しかけてきたエレーシーに驚きながらも、軽い会釈をしながら振り向いた。

「確かに、私達はシュビスタシアで初めて天政府軍というものを目の前にして……仲間を失って衝撃を受けたけれど。……まあ、こう言っては悪いけど、フェルフも天政府軍の恐ろしさも、戦い方も、私達以上に身を持って知ってるわけだし」

「ま、まあ……そうね」

「でも、私達はこれから一緒!」

 エレーシーはそう言いながら、フェルファトアと自分の杯を突き合わせた。

「東軍でこれまで集めてきた兵士の皆と力を合わせれば、ポルトリテの天政府軍にも、地上統括府にも負けないよ」

「そ、そう?」

 フェルファトアは、エレーシーの自身に満ちた表情に圧されながら弱々しく聞き返した。

「そう。私達は、ティナの言ったように、力も技術もないけど、数はいる。それに何よりも、天政府人に対する恨みだけは、人一倍強い!」

 エレーシーはフェルファトアだけでなく、皆に演説するかのように高らかに宣言した。

「そ、そうね。確かに、ミュレス人なら大きい小さいはあっても、誰もが天政府人に虐められているのは違いないわね」

 すると、フェルファトアを挟んで向こう側にいたティナも話に加わった。

「そうね。エレーシーの言う通りだわ。それに私達ミュレス民族は、『国を取り戻す』ためなら頑張れる民族だわ。ポルトリテも攻略できるわよ、ね」

 ティナの言葉に、エレーシーも、机の反対側で聞いていたアビアンも頷いた。

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