一一五 これまでの経過報告(東軍)-1
「じゃあ、次は東軍の戦績を教えてもらおうかな」
フェルファトアは気を取り直して、ティナ達の話を聞くことにした。
「そうね、旧東軍は、トリュラリアでフェルフ達と分かれた後は、エルプネレベデアでの勝利の後、ずっと東へと進んでいったわ」
「その間にある町は?」
「もちろん、その間にある町も占拠して仲間を天政府人から解放しながら進んでいったわ」
「良かった、東軍が進んだのは大街道?」
「ええ、ノズティアまでは大街道よ。だから、地の国までの通行については、ミュレス大国が掌握していることになるわね」
「ノズティアまで行ったの?」
地上統括府だけでなく地の国とも共同統治しているノズティアまで進軍したことに、フェルファトアは大層驚いた。
「ええ、ノズティアでは、そこの市長と副市長と話し合いをして、まあ、そこの仲間達の援護もあって、三民族の共同宣言を発表することで、そこの市でだけど、我々ミュレス人は、天使族や悪魔族とほぼ同等の権利を得ることが出来たわ」
「悪魔族とも渡り合ったなんて凄いわね! 怖くなかった?」
フェルファトアは興味津々になって聞いた。
「いいえ、むしろ天政府人の副市長よりも優しくて接しやすかったわ。というか、天政府人の副市長のほうが、なかなか『天政府人』らしい天政府人で、市長がいなかったら一戦交えることになったかもしれなかったくらいだわ」
「へえ、悪魔族ってあまり会ったことないから、天政府人以上に怖い印象しかなかったけど、優しい人もいるんだねえ」
フェルファトアは、それが意外だというように腕を組みながら感心して聞いていた。
「それで、その三民族の共同宣言ってどういう内容なんですか?」
フェブラが質問したことについて、エレーシーはエルルーアに耳打ちすると、エルルーアは部屋を出ていった。
数分後、エルルーアは一枚の紙を手にして市長室に戻ってきた。
「はい、これがノズティア共同宣言の写しよ」
エルルーアはその紙を円卓の中央に、旧西軍側の幹部達が読めるような向きで置いた。フェルファトアはそれを手に取ると、フェブラやエルーナン達といくらか話をしながら読みあった。
「なるほど、なるほど……」
フェルファトアは、その文書を読みながら納得したように頷きながら読み、その紙を机の上に置いた。
「なるほど、こういう協定を結んできたのね。でも、確かにそういう、私達のように派手な戦いで勝負を決するよりも、賢い解決方法かもしれないわ」
フェルファトアの言葉に、旧西軍の面々も頷いた。
「でも、これも天政府人と対等以上な悪魔族が仲介してくれたから出来たことよ。私達だけで天政府人と交渉するなら、私達が優位に立たないと流石に無理よ」
エルルーアは冷静にフェルファトアの言葉に反論した。
「うーん、それもそうか……。やっぱり、私達だけでどうにかするなら、せめてポルトリテぐらいは奪還していないと厳しいかもしれないわね」
「まあ、そうでしょうね……」
ティナの一言を最後にしばし沈黙が続いた。
「それで、ノズティアの後はどうしたの?」
沈黙に耐えかねたフェルファトアは、ノズティアの話を流して次の話題に入らせた。
「ノズティアの次は、これまで奪還した大街道沿いの町々を経由して、とリュラリアに戻って、シュビスタシア奪還の準備をしたわ」
「なるほど、そこまでは順調に帰れたのね」
「そうね、特にそこまで帰るのに苦労はなかったわね」
「天政府軍は現れなかったの?」
「トリュラリアまでの道中では遭わなかったわね。でも、シュビスタシア側では、ハリシンニャ川の通行を制限していたり、市役所の前を天政府軍が見張りしたりしていたから、何の情報も無かったわけではないようね」
「なるほど。時期にもよるけど、もしかしたら私達自治政府軍に注目して派兵していなかったのかもしれないわね」
フェルファトアの言葉にティナはハッとしたように目を丸くした。
「ああ、それもあるかもしれないわね」
「それで、トリュラリアからは?」
「トリュラリアからは川を渡ってシュビスタシアに行くのだけれど……」
「ええ」
「川の方へ警備が強化されているという情報を聞いて、川を渡って直接渡し場に乗り込む部隊と、北の方から市内に入る部隊の2方向に展開することにしたの」
「ほう、それで、どうだった?」
「最終的にはシュビスタシアを制圧できたから成功だとは言えるけど、予想外な天政府軍との初衝突で、こちらも相当被害が出たわ」
「ああ、それは……」
フェルファトアは慰めの言葉を喉の奥に留めた。
「それは……不幸だったわね……」
フェルファトアは旧東軍側の様子を察知して、これ以上突っ込んだ話は無用とし、この話はここで終わらせておくことにした。
「まあ、でも、ともかく、これまでもシュビスタシアを確保できてるんでしょう? 中央ミュレシア随一の都市を奪還できたのは嬉しいことじゃない。誰に市長を任せてるの?」
フェルファトアはしばらく話の切り口を探しながら、ようやく絞り出した話題をティナに投げかけた。
「市長は、シュビスタシアの黒猫族互助会長をしていたヴェステックワさんにお願いしたわ。私も、船頭をしていた時には何かとお世話になっていたし、軍幹部以外で、しかもシュビスタシアの中でとなると、私が一番信頼のおける人だから、彼女に頼むことにしたの」
「なるほど、それなら安心ね。それじゃあ、シュビスタシアでの出来事はこれぐらいかな?」
「うーん、そうね。彼女に市長を頼んだ後は、すぐにまた西に進んだから……」




