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一〇四 町を包む湯煙

「総司令官、失礼します」

 次の進軍に向けて、計画を練っていた最中、町役場の一階で見張りをしていた兵士が町長室を訪ねてきた。

「何か?」

「この町の接待互助会の会長がお会いしたいとの事ですが」

「接待互助会?」

 ティナは聞き慣れない互助会の名前に疑問を抱いた。

「酒場とかの互助会ですよ」

「ああ、なるほど。分かったわ、こちらへお呼びして」

「はい、了解しました」

 兵士はそう言って退室し、階段を下りていった。

 しばらくすると、一人のミュレス人が目を輝かせて町長室へ駆け込むように通された。

「ああ、貴女がミュレス国軍の総司令官ですか。はじめまして。私、この街の接待互助会の会長をしております、ルレーナ・リフェリアです」

「よろしくお願いします。それで、どうしたのです? いきなり」

「いえ、いきなりという訳ではないのですが……」

 駆け込んできたその人は、服を正すと、再びティナに正対して話を続けた。

「総司令官、この町には『天然浴場』があるのはご存知ですか?」

「天然浴場……? それは一体……」

 ティナの反応に、彼女は一瞬うろたえた。

「えーと、つまりですね、この町のそこかしこには、自然にお湯が湧き出す泉があるのです。ミュレス人は昔、そのお湯を貯めて楽しんでいたみたいなのです」

 その言葉を聞いて、ティナは、ルビビニア東門の森から見た、天高く立ち上る白い影について合点がいった。

「ああ、どおりでこの町のそこかしこで湯気が立ってるわけね」

「なるほどね。私達シュビスタシアの人間は冬でもお湯を作って浴びるだけだけど、この町では、ずっと新しいお湯を貯めておける訳だね」

「ただ、地上統括府が管理するようになってからは、私達ミュレス人は使用禁止になっていたのです……だから、私達もお湯を作ってたのですよ」

「それは、何とも手のかかる話ね」

「でしょう? だからこそ、この町が天政府人の下から帰ってきた今、総司令官には解禁の令を出してほしいのです!」

「そうね……まあ、私が出すのもおかしいから……町長、初めての仕事よ」

 ティナは新町長のミティリアの肩を叩いた。

「はい」

 ミティリアは二つ返事で承諾すると、来訪者の方を向き直した。

「ルレーナ、皆に伝えてきて。明日から町の浴場は解禁するって」

「はい! 分かりました!」

来訪者のルレーナは輝かせていた目を一層輝かせながら、小走りで部屋を出ていった。


「しかし、天然浴場なんてものがあるとは初耳だわ。エレーシーは知ってた?」

ティナは腕を組みながらエレーシーに問いかけた。

「中央山地にはいくつかあるみたいだよ、そういうところ。私の故郷には無かったけど……」

「それも知らなかったわね……」

ミティリアは、そんな二人の様子を穏やかな笑みを浮かべながら見守っていた。

「試してみますか?」

ミティリアは、二人の前に立ちはだかり、上目遣いをしながら問い掛けた。

「え?」

「天然浴場ですよ。町の皆が押し寄せる前に。今日なら、まだ解禁前ですから」

「うーん、どうしようかしら?」

「試してみようよ。どうせ、出発は明日以降でしょ?」

エレーシーは久しぶりに胸を弾ませていた。ティナも微笑みながら考え始めた。

「うーん、そうね。先を急がないといけないとはいえ……分かったわ。天然浴場ね」

「じゃあ、ご案内しますよ」


 ぞろぞろと大所帯で町役場から出て、表通りを歩いていると、向こうからワーヴァが兵士を数人引き連れて歩いているのが見えた。

「ワーヴァ、ワーヴァ」

「ああ、総司令官」

 お互いにお互いの姿を見つけると、すぐさま駆けつけた。

「どう? 兵士集めの方は順調かしら?」

「うーん、まあまあですね。この町、意外と広いので、まだ全部回りきれてないですね」

「なるほど、そういう状況ね」

「もうちょっと掛かりそうなんですが……」

「いいわ。私達は接待互助会長に案内してもらってるの」

「なるほど、どちらへ?」

「ちょっと……秘密会議よ。……天然浴場で」

 ティナは少し伏し目がちに答えた。

「あ、お湯を楽しもうとしてますね?」

 ワーヴァは少し笑みを浮かべながらティナを少し責めるように聞いたが、そこにアビアンが割って入った。

「大丈夫、大丈夫。ここだけの話だけど、明日になったら入り放題だから。私達は、本当に会議をするんだから」

「うーん、まあ。分かりましたよ。どうぞ」

ワーヴァは顔に不満をにじませつつも、手で了承の意を示した。

「じゃあ、行ってくるね」

 アビアンは元気よくワーヴァに手を振り、6人はワーヴァ達に見送られながら、白い湯気の立ち上る浴場通りへと足を進めた。


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