一〇二 ルビビニアの宴
フェブラとミティリアをお互いに紹介しつつ、特に取り留めのない話で場を繋いでいると、部屋の中に次々と料理が運び込まれた。
酒が運ばれ、ある程度の料理が揃ったところで、エレーシーは頃合いを見計らって宴の始まりを告げることにした。
「はい、皆、一旦酒を掲げて下さい」
エレーシーが号令をかけると、全員話を中断し、それに従い酒を目の前に掲げた。
「それでは、今後のミュレス国軍の前進と、明るい民族の明日のために!」
「ミュレス国軍の前進と、明るい民族の明日のために!」
全員でエレーシーの言葉を復唱し、盃を突き合わせた。
「フェルフの方はどう? 上手く行ってるの?」
ティナは早速、フェブラに自分の聞きたかったことを率直に投げかけた。
「西軍ですか? うーん、ひとまず、ヴェルデネリアは何とか奪還に成功しましたし、周辺の小さな町や村も何とか支配下に置くことが出来ました。ただ、そこから先が……」
「上手く行ってないの?」
「そうですね……トリュラリアでは治安維持隊との戦いでしたけど、ヴェルデネリアからは天政府軍が出動するようになってきて、なかなか攻め込めなくて、防戦一方の状況です……」
「そっか……兵士とか、武具とかは結構揃ってるの?」
「ヴェルデネリア周辺でしか募集出来てないですし、武具とかもヴェルデネリアでしか調達出来ないので、、いろいろと工夫しながら調達はしているのですが、なかなか厳しいですね……」
「そう……それはなかなか苦戦してるわね……」
フェブラの話を聞いている内に、ティナやエレーシーはもちろんのこと、その場にいた全員が腕組みをして、険しい顔をしながら目の前にある料理をただ見つめるだけになってしまった。
「そういう事になっているのなら、私達は早めに西軍に合流した方が良いわね。フェブラ、今は西軍は領土拡大への手は止めているんでしょう?」
「はい、フェルファトアさんも、そのために東軍に西軍の様子を伝えるようにと私を派遣したのですから」
「エレーシー、西軍の事も気にかかるし、兵士の皆の遠征疲れがある程度癒えたら、早くヴェルデネリアまで進軍しましょう」
「うん、もうちょっとこの街で、今後の軍の体制とかを考えようかなと思っていたけれど、どうやらそういう訳にもいかなそうだね。今後についての決め事は、ここである程度固めてから後でフェルフに確認してもらおうかと思ったけど、ヴェルデネリアの防衛力を高めつつ、フェルフも交えて考えることにしよう」
「そうね、ともかく、今は西軍の事が心配になってきたわね……」
フェブラは、これが事実だとはいえ、重苦しい空気にさせてしまった事に多少の申し訳無さを覚えた。
「すみません……」
「まあ、私達東軍も、シュビスタシアであれだけ天政府軍に相当な痛手を負わされた訳だし、それに西軍はヴェルデネリアからトリュラリアまでそれほど経験は積んでなかっただろうから、仕方がないかな」
「でも、次の敗戦は絶対に避けないといけないわ。これ以上の敗戦は、兵士のみならず市民、町民の信頼も失うことになるわ」
エルルーアは静かな一言で釘を刺した。
「そうね……といっても、フェブラの話では、ヴェルデネリアには武器もあまりなさそうだし、やっぱりこのルビビニアで西軍の分まで兵士や武器の調達はしておかないといけないわね」
「また治安管理隊や天政府軍の詰所からかき集めることになるなあ。そうなると、まあ、早くても出発は明後日か……」
「まあ、それも仕方ないわ。地上統括府を奪還するか、天政府に降参してもらうまではどのみち、使えるものは使っていく、総力戦になるんだから」
「それじゃあ……とりあえず明日の昼までは、ワーヴァは引き続き兵士集めを続けて、エルルーアとアビアンは兵士の中から20人ほど選んで、町中の治安管理隊や天政府軍の詰所から武器を全部そのまま町役場まで持ってきて、駐留隊用、行軍隊用と、西軍に分ける用の3つに分けておこう。他の人達は、とりあえず昼までは、町長室で、西軍の状況をもうちょっと詳しく聞く事と、あと、今日議題に上がった、財力をつけるための方法について話し合おうと思う」
「それでいいわ。じゃあ、ワーヴァ達はそれが終わったら、各々、町長室に帰ってきて、話し合いに参加しましょう。それでいいわね」
「はい」
「はい」
ティナは、フェブラから西軍の状況について大まかに掴んだ事と、昼までの予定が決まって満足したのか、一旦この話をまとめて打ち切らせると、大きな伸びをして座り直し、再び酒に手を伸ばした。
「まあ、悲しいお話はこの辺にして、一息つける話をしましょうよ。折角、ミティリアが用意してくれたんだから」
「そうだよ、ミティリアに色々な話をしてもらおう!」
ティナの一言のおかげで温和な雰囲気になったためか、アビアンは突然、活き活きと会話に入ってきた。
「あ、そうでしたね。最初はこの町のことを聞きたいとかという話でしたね」
「そう、そう。じゃあ、何を聞こうかなー」
「何でもどうぞ」
「じゃあ……」
アビアンは、これまでの遠征で溜まった憂さを晴らすかのように、興味のあることをミティリアに次々と質問し始めた。話が進むにつれて料理に手を伸ばす速度も早くなり、やがて次々と料理が部屋に運び込まれるようになった。
ニコニコと話に交じっていたエレーシーは懐事情が気になりつつも止める大義もなく、店員がこっそりと閉店を告げにくるまで宴は続いたのだった。




