一〇〇 進まない議論
リーナの家からルビビニア町役場に帰ってくると、早速、町長室でこれからの事について、アビアンやワーヴァも交えて話し合うことになった。
アビアンに頼んで町役場近くの商店でいくつか果物を買ってきてもらうと、それと小刀を机の上に置き、他の部屋から椅子を用意してきて、一つの机を囲みながら話をすることにしたのだった。
議題はあれこれと数えればきりがないが、主には次の通りである。
一、ルビビニアからヴェルデネリアまでの進軍について
二、武具や食糧の調達と、そのための財力の確保
三、ルビビニアの今後の防衛体制
この内、一と三については、これまでも他の町を奪還した後に話し合っていた内容であったが、二については、(これまでも薄々気付いていたかもしれないが)新たに出てきた問題なので、特に二について時間を割いて話し合うことにした。
「天政府人が支配してた時、定期的に天政府人の役人が来てお金を取っていったでしょう? 私達もああ言う事をして、お金を得るしか無いのかしらね」
「それは厳しいと思うよ。私達はまだ国を自称しているだけなんだから。何かそういう制度のようなものを決めている訳でもないし、あまり下手に徴収してしまうと、今度は私達が倒されてしまうかも……」
「それは嫌だなあ……」
「でも必要なものは必要だし……どうしたものかしらね……」
「やっぱり……商売人とか、少なくとも、天政府人からは取りたいね」
「そうね、少なくとも、天政府人からは……」
エレーシーとティナが議論しているのを、果物を食べながら見守っていたアビアンは、暇潰しついでに手を上げた。
「エレーシー、ティナ、軍のお金も軍が直接調達してくるの?」
「うん?」
アビアンの投げ入れた疑問に、ティナは少しの間考えた。
「うーん、そうね……実際に徴収するのは、軍じゃなくて、役場の人がいいでしょうね」
「そう?」
「だって、私達のような武装した人間が取りに行くと、向こうも身構えるでしょう?」
「うーん、確かに」
「それに、それぞれの街だって、運営資金はいるでしょう。それぞれの街で集めてもらって、軍と折半ぐらいにする感じでいいかなと思ってるわ」
「なるほど」
ティナはアビアンが質問した事を事前に考えていたようで、彼女の納得するような答えを出せたようだった。
「とはいえ、それを取りまとめる人がいるわね。役所仕事とか、お金を大量に扱ったことのある人だと良いんだけれど……」
ここまで考えていたティナも人選には困っているようで、誰に財政を任せるのか悩んでいるようだった。
それから幹部達は名前をいくつか上げていったが、しっくりと来る人物はなかなか思い浮かばないようで、ひとしきり名前を出し終わると全員頭を抱えて黙り込んでしまった。
「うーん、重要な地位ではあるだけに、なかなか当てはまらないわね」
あまりにも進まない会議に痺れを切らしたのか、ティナがふと呟いた。
「これはまた、新しい人を引っ張ってみるしかないのかなー?」
「いや、ここはやっぱり信頼の置ける人がいいよ。知ってる人の方が良いと思うよ」
「なかなか、人選の幅が狭いわね……」
ティナはこの先の見えない議論に対して、疲れの顔を見せ始めていた。
「まあ、まあ。そんなに急いで結論を出す必要もないよ。とりあえず、ルビビニアを出る頃までなら必要なわけじゃないし、それにどうせ班を組んで、担当の幹部は我々と帯同することになるんだから。ちょっとこの辺りで一旦休憩して考えよう」
エレーシーは身を前に乗り出して、会議の一時中止を促した。
「うーん、そうね。とりあえずこの辺にして、ちょっと時間を置いてまた話しましょう」
ティナの一言で会議を終わらせると、それぞれに腰を伸ばしながら、手早く机の上を片付けたり、椅子を壁際の方へ動かしたりしながら、早速今晩の事について話し始めた。
「皆、もう宿に帰っちゃうの?」
階段を下りていると、皆の後ろからアビアンが話しかけた。
「うーん、何もなければそうしようかなと思ってるけど……」
エレーシーは考える素振りを見せながらも、少し目を輝かせながら答えた。
「暇とは言わないけど、これから何もないなら、どこかで本格的に食べながら、別の話をしない?」
「えー? でも、結局さっきの話になって疲れるだけじゃない?」
「そう? でも、ミティリアがいれば、この街のいろいろな事について聞けるでしょ?」
「え、私?」
突然名前を挙げられたミティリアは驚いて後ろを振り向いた。
「これまではとっても慌ただしかったから、他の町長とかと話も出来なかったし、折角だからと思って」
「なるほど……まあ、そうね。一回ここで頭を切り替えましょうか。皆さん、どうかしら?」
ティナがこの話に乗ったことで、エレーシー達も快諾の意を示した。
「それじゃあ、今晩はどこかで会食にしましょう。ミティリア、何かそういうお店は知ってる? できれば、個室の方が良いんだけど……」
「なるほど、個室……そういう酒場なら二軒ほど知ってます。じゃあ、歩きながらちょっとご案内致しますね」
「ありがとう。それじゃあ、場を移しましょうか、皆さん」




