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第一章 友達は大事にしよう! ~traitorous friend~ -終-



霊烏路空れいうじうつほは悩んでいた。


今まで人間だったはずの自分の体。

能力の覚醒すら半端なほど凡庸に近い存在の彼女に発現していく許されざる食欲。

何を食べても満たされない空腹。


霊烏路空は日々強まる食人衝動と戦っていた。


ある日、近くにいた子供を手にかけそうになったことがある。

その時、糾弾される空を、彼女の主人は必死で庇ってくれた。

自分たちのような獣型妖怪を保護してくれていた主人。

彼女はとても優しかったが、自らを大事にしなかった。

主人は何があっても空たちの味方でいてくれた。

罵倒されようとも。

暴力を振るわれようとも。


霊烏路空はそんな主人が傷つけられるのが我慢ならなかった。


しかし、原因を作ったのは自分。

悪いのは自分。

どうしようもなくなった空は主人の下を離れた。


その際、一緒に来てくれたのが親友である火炎猫燐だ。

一人にするのは危ういから。

一人にするのは可哀想だから。

そう言って燐は空に付き添った。


そうして辿り着いたのが南部街だった。

南部街には妖怪も多数居て、空たちも心よく受け入れてくれた。

しかし、それまで騙すように押し込めてきた衝動が空の中から再び零れた。


手を掛けた訳ではない。

手を掛けそうになっただけ。

それは空にとって必死の抵抗であるが、街の人間にとっては恐怖の対象。


街の人間達は空を追い出そうとした。

それを必死で庇ったのは火焔猫燐。

空は思った。

今度は親友の下から離れなければいけないのか、と。


霊烏路空は疲弊していった。


ある時、そんな空に巫女が訪ねてきた。

巫女が言った。

この街の核になればその衝動から開放される、と。

空は喜んでそうしてくれと頼んだ。


衝動は限りなく小さくなった。

完全に消えたわけではないが、とても楽になった。

空は核となり静かに暮らした。

欲もなく静かに祠へ祀られた。


ある時、空に巫女が訪ねてきた。

以前の巫女とはまた別の巫女だ。

巫女は聞いた。

お腹がすいているのか、と。

お腹がすいていないはずはない。

ずっとここにいたのだから。

ずっと何も食べていないのだから。


霊烏路空は頷いた。





―――――――――



霊烏路空は地に伏していた。


体の所々が痛い。

声も出ないし体が動かない。

自分は何かに浅く浸っている。

そして自らを浸しているのは自分から流れ出た血である事がわかった。

空は自分がもうすぐ死んでしまうのだと悟った。

抜けていく血と魂。

霞んでいく意識の中で、ふと傍らで自分を看取るように座っている影を認める。

火焔猫燐だ。

意識と同時に薄れていく痛み。

空は安心したような表情で燐の隣で眠った。


無言で空から死霊が抜け出ていくのを眺めていた燐。

もはや行くところもない。

親友と一緒に消えることが出来るなら本望だ。

燐は優しく空の霊魂を掬い、抱きしめる。

体の中で二つの霊魂が混ざり合い、そして燐は空に覆いかぶさるようにして倒れた。








「全く、お涙頂戴させてくれやがるぜ」


向こう側からやってきたのは~~アベレージな魔女の格好をした金髪の~~魔理沙と呼ばれた少女。

魔理沙は動かなくなった二人の元に座り込み、物色を始めた。

一頻りゴソゴソと探った後、少女が手にしていたのは空がはめていた制御棒だった。


「借りていくぜ」


魔理沙はぶっきらぼうに言い放つと、手にしていた箒に跨り飛び上がり、夜空へと消えていった。




――――――――――



南部街のはずれにある祠。

空と一緒に結界核が祀られていた場所だ。

そこには霊夢と早苗の姿があった。


「お疲れ様でした。大変でしたね、姉さん」

「高みの見物してたあんたに言われたくないわよ」


霊夢の手には対極図のようなみてくれをした球が握られていた。

これこそが結界核である。


「そういえば、さっき一緒に居た女の人はどうしたんですか?」

「さあ? いつの間にか居なくなってたわ」


霊夢は祠の奥にある注連縄で囲まれた~~空が祀られていた所~~へと結界核を戻す。

すると結界核は上下にゆったりと揺れながら浮遊する。

それを優しく包むように両手で覆う霊夢。

その手のひらから塵のような光が結界核へと吸い上げられていく。


「まったく、今日は厄日だわ。核の媒介をまた探さなくちゃ」

「もういいのではないですか? この街に生きている人間が果たしているのかどうか…ですよ?」

「そういうわけにはいかないわ。ここは崩壊を免れたなけなしの土地。それを守っていかないと」

「現に守れなかったじゃないですかぁ」

「あんたねえ!!」


思わず早苗に掴み掛かる霊夢。

もとはと言えば元凶であるのはお前だ。

そう言わんばかりの剣幕である。

それを受けて早苗はにやけ面を浮かべている。


「欲張る必要なんてないですよ。この街はもう死にました。見捨てられるものは見捨てて行きましょう」

「そんなことできるわけないでしょ!」

「ほら、あの人だってそう思ってるみたいですよ?」


早苗は霊夢を隔てた結界核が置かれている方を指差す。

霊夢が振り返ると、そこには咲夜。

手にはしっかりとナイフが握られており、そしておもむろにそれを結界核へと振りかざした。




――――――――――――


南部街外壁上。

鈴仙一世一代の狙撃が霊烏路空を貫き、一先ず南部街消滅の危機は去った。

橙と鈴仙は勝利を祝うハイタッチを交わし喜び合ったが、しばらくしてこの判断は正しかったのかどうかという議論に行き着いた。

もしかすると勝手なことをしてしまったのでは?

結界核を壊してしまってはいないだろうか?

などと話し合った後、おそらく大丈夫であろうとうやむやにしてしまうことで結論となった。

その過程でお互いこれからどうするのか?という話題へと移行していった。


「私はとりあえず南部街に戻って生きている人がいないか探すわ。てゐの事もちゃんと弔ってあげたいしね」


鈴仙は分解したライフルの部品をてきぱきとリュックサックへ戻しながら語る。


「私たちと一緒に来て欲しかったんだけどなあ…」


名残惜しげに言うのは橙。

しかし鈴仙はそれを断る。

異変が起きていると気づく前ならいざ知らず、生き残りである鈴仙は南部街の復興のために出来ることを探したかった。


「南部街には危険はないということでいいのよね?」

「問題ないと思うよ。ゾンビを操ってた奴はやっつけたはずだから」

「そう? ならいいけど。ところであなた達はどうするの?」

「咲夜がまだ戻ってきていないし、よくわからないけどここみたいに残っている場所を回ることになるのかなぁ」

「大変ね。何か目的でもあるの? 出来ることなら力になるわよ」

「あっ、そうだ」


橙は思い出したと手を叩く。


「聞かなきゃいけないことがあったんだった。私たち人を探しているんだけど…」


橙がそこまで話した時だ。

爆音とともに南部街に黒い柱が伸びる。

それは空の発生させた白い柱よりも太く、天を突くほど高く伸びている。

そしてそれはゆっくりと~~いや、遠く離れているためゆっくりに見えるが、すぐにその速度はかなり速く~~膨らんでいる。

その質はオーラというよりもブラックホール。

透けている表面部分から街の形相は保っているようだが、確かに何かが物凄い勢いで吸い上げられている。

鈴仙はこの現象に見覚えがあった。

鈴仙でなくてもこの反幻想郷ディストピアで生きている者ならば誰しも心的外傷として心の傷となっているはずだ。


「崩壊がはじまった」

「え? 今なんて…」

「急いで! ここから離れるわよ!」


鈴仙はリュックサックに荷物を投げ込むと、あたふたしている橙を一喝して外壁から滑り降りるように脱出した。




―――――――――


外壁の外、関所近く。鈴仙たちの居たところとは逆側だ。

咲夜は脱出に限界まで能力を行使したため、息を切らしてえずきながらへたり込む。

能力の反動に加え、自分の手で引き起こした超常現象に対する恐怖で混濁する脳内を咲夜は必死で整理しようと試みる。

結界核を破壊した直後に発生した黒いオーラ。

それは街を飲み込み、生命を~~それは無機物の奥底に宿る生命すら~~吸い上げながらさらに巨大化していった。

振り返ると見えたのは、先程まで栄えていたはずの街が、まるで100年前に廃れた文明のように朽ちていく光景。

咲夜はそれに呑まれないように必死でこの南部街から脱出した。

すでに黒いオーラは消えてしまったのだろうか、音は消え壁の外までは巨大化は及んでいなかった。


一先ず助かったのか。

咲夜が胸を撫で下ろした瞬間。

背後から咲夜の頭は叩きつけられるように地面へと押し付けられる。


「あんた、大変な事してくれたわね」


聞こえてきたのは空との戦いで共闘した眼帯の少女。

咲夜があの祠に置いてきたはずの少女が何故か今、背後に居る。

その声には燃えるような怒りが宿っているのを感じた。


「自分がしたことをわかっているのかしら」


咲夜を抑える手に一層の力がこもる。

その圧力に咲夜は返事することが出来ず、向こうもそれをさして望んでいないようにも思えた。



―――――――――――――



南部街外壁外。

崩壊が止まったのを確認した橙と鈴仙の二人は、咲夜を探すために関所近くまで外壁の面を回るように進んでいた。

すると目に飛び込んできたのは、咲夜を地面へと押さえつける赤い巫女の姿。

二人は思わず近くにあった程よく大きな岩の裏へと隠れた。


「あれは霊夢様?」

「なになに? どういうことなの?」

「わからないけど、なんかまずいことになってるのは確かね。ここに隠れて様子を見るしかないわ」


博麗霊夢はその結界の力でこの地を繋ぎとめてくれている救世主たる存在だ。

その霊夢が咲夜を拘束している。

とても冗談とは思えない光景。

もしかすると南部街が崩壊したことと何か関係があるのだろうか?

そう考えるのが自然だ。


「気になりますかぁ?」


突然自分の顔を覗き込むように現れた緑色の巫女に鈴仙は驚いて飛び退く。


「早苗様! 霊夢様といい一体…」

「んー、ちょっと待って下さい。あなたの…そう、あなたの考えていることは手に取るようにわかりますよぉ?」


早苗は用意していた言葉の順番を間違えたかのようにわざとらしく顔をしかめながら言う。

おそらくその仕草には意味はなさそうだ。


「考えていること?」

「ええ、あなたは今『南部街がこうなった原因とそちらで取り押さえられている女性の関係性』について考えていますね?」


少し察しのいい人間ならば推測できることだろう。

当然のように早苗の言葉は鈴仙には図星であった。


「はい、その通りです。しかし、神に仕える巫女様が何故ここに居るのですか?」


この世界において、早苗は霊夢と同列に崇めるべき存在。

もちろん鈴仙には手の届かないほど遠くの存在だ。

そんな早苗がなぜ、いち街人である鈴仙に接触したのか。

鈴仙の頭に良からぬ想像がよぎる。


「まさか、私とメイド服の彼女がどういった関係かお聞きにこられたのでしょうか?」


考えたくないがもしもの話。

南部街の復興を願う矢先に崩壊を招いたのが咲夜であるならばそれは許せない話である。

しかしそのことは置いておこう。

もしそうだったとして、咲夜と友好関係を築き、戦闘でも手を貸した者として、端から見ると鈴仙は咲夜の仲間である。

それは咲夜に付き添う橙と親しげに言葉を交わしている時点で言い逃れは出来ない。

早苗が咲夜の仲間として鈴仙を咎めにきたとするならば、いったいどうやってこの場を乗り切ればよいのか。

熟考に沈む鈴仙に疑問を浮かべるように早苗は言う。


「いえ? そんなことはどうだってよいですよ? あなたたち、お友達同士でしょう?」

「は、はい?」


思わず肯定とも取れる返事をしてしまった鈴仙に、早苗は微笑む。


「私はあのメイドの処遇について話をしにきたのです。もうおおよその見当はついているでしょう?この事態、南部街を崩壊させたのは彼女が結界核を破壊したからです」


あっ、と早苗は忸怩の表情を浮かべる。

そしてせっかく神聖な感じに話そうとしていたのに、と呟く。

~~橙には最初から安っぽい手品師のような口調にしか感じられなかったが~~


怒りなのか悲しみなのかわからない気持ちが湧き上がり、そして不穏な感覚とともに次の言葉をどうするかという思考が鈴仙の頭を支配する。

早苗の表情は朗らかなものだったが、『対応を間違えれば殺される』という凄みを纏っている。


「私達はあのメイドを許しません。結界を壊してしまったのですから。私達はあのメイドを我々に仇なす者として裁きます」


橙が飛び出すように何かを言おうとするが、すぐにとどまる。

早苗はそれを一瞥すると再び言葉を続ける。


「あなたは彼女の友達でしたね。彼女が街を壊した犯人だと知った今でもそれは変わりませんか?」


鈴仙は思う。

もし咲夜が自分の友達であるとして、それが変わらないかと聞かれれば嘘になる。

むしろ自分の中には大小は問わずとも殺意まで孕んでいる。

しかし、南部街はすでに壊滅状態であったと聞く。

それを聞いたのは咲夜の仲間である橙の口からでありはするものの、嘘偽りのあるような感じではなかった。

ならば、生きていた人間がいたかどうかも怪しい。

南部街はすでに手遅れであったのではないだろうか。

ならばこれからの自分はどうなるのだろうか。

それならば咲夜たちとの繋がりを断ち切ってしまうとどうなってしまうのか。

せっかく人付き合いの苦手な自分が得た繋がりを。


「まあ、そんなこともどうだってよいのですけれどもね」

「はい? というのは…」


早苗はいやらしく笑った。


「あなたたちが友達ならば少し面白かったかな、と思っただけです。じゃあ命令しますね。あなたがあのメイドを裁きなさい」

「えっ」



――――――――――――――



霊夢に拘束されて地に伏している咲夜はルナ時計ダイヤルに手を掛けようとする。

しかし、それを阻むように霊夢の放った破魔札が咲夜の手を覆う。


「怪しい動きはしないことね」


咲夜の顔に汗が滲む。

言い逃れの出来ない状況。

ゾンビに押さえつけられた時とはわけが違う。


「さて、どうすればいいかしら。結構頭に来てるから選択肢を選べないわ」


いいようになる気配はない。

こうなれば強行手段に出るべきか。


「ちょっと待ってくださぁ~い」


この緊迫した空間に割り込んできたのは早苗。

そしてそれに付き従うように岩陰から出てきたのは鈴仙だ。

その手にはライフルが添えられている。


「この人はそこの…咲夜という方の友達らしいんですけど、責任を取ってその人に制裁を下してくれるようですよ」


その言葉に応じるように鈴仙はライフルを構える。

それを見た咲夜の体は硬直する。


「大切にしていたこの街を壊したのは許せないそうです」

「ちょっと待ちなさいよ! あんた何勝手に決めてんのよ」

「いいではないですか。ここはこの人を立ててあげましょうよ」


鈴仙に選択肢は無かった。

鈴仙のなかでは尚も葛藤があった

しかし巫女である早苗の命令があればそれに従わざるを得ない。

ライフルの引き金にゆっくりと指がかかる。


「ま…まだ!」

「ちょ、ちょっと!」


突然の叫び声とともに咲夜は暴れだす。

それを必死で霊夢は押さえつける。


「まだ死ぬわけにはいかない! 幻想郷を完成させるまでは!!」


もがく咲夜を取り押さえる霊夢の体が静止した。

早苗もそうだ。

面食らったかのように表情が固まっている。


「あんた、今なんて言った?」


咲夜に問いかけたのは霊夢。


「鈴仙さん。銃を下ろしてください」


鈴仙に言ったのは早苗。


「あなたをどうしようか迷っていたけれども決めたわ。一緒に来てもらう」

「お断りしますわ」

「ならば力づくでも来てもらう」


霊夢が法術だろうか、呪文を唱え始めたときだ。

岩陰から飛び出してきた陰が叫んだ。


「彼女を連れて行くのは待ってくれ!」


出てきたのは橙。

風貌は人妖型、その声色は藍だ。


「あなたは誰かしら?」

「そこで押さえつけられている者と一緒に”幻想郷”から来た者だ」


”幻想郷”の部分が強調されている。

それを聞いた二人の巫女の表情は神妙だ。


「あなたたちは彼女から幻想郷の情報を聞きたいのだろう? しかしもう一度彼女の表情を見てくれ。連れて行くといわれてそのような顔をした人間から有益な情報が得られると思うか?」


咲夜の顔は強く歪められている。

そこには怒り、そして歪んだ信念が宿っている。


「もちろん私も彼女と同様だ。そこで提案がある。聞いてくれるだろうか」

「いいわ、言ってみなさい」

「感謝する。私の提案は私たち二人を泳がせておいてみないか、ということだ」

「なんですって…」

「結界を壊したのはすまないと思っている。だが、これは私たちの考察の一つを立証するための実験だった。いまのところ再び結界核を壊す予定は無い」

「信じられると思う?」

「信じてもらわないと困る。なぜなら私達は君たちの仲間になるかもしれないからだ」

「ならば私たちの支配下に加わりなさい。そうしないと信じないわ」

「誤解してもらっては困る。君たちはこの状況が自分たちに圧倒的に有利だと思っているみたいだがそれは違う。幻想郷の情報という圧倒的なアドバンテージがこちらにあるのだから。あくまでもイーブンの立場だと自覚して欲しい」


咲夜を拘束していた手が緩まる。


「私達はこれからこの世界を回って幻想郷と反幻想郷こちらの関連性について調査するつもりだ。私たちが結論に行き着くまで待ったほうが君たちにも有益なのでは? もし敵に転じたとしても、君たちなら容易にねじ伏せることが出来るだろう?」


藍は堂々と続けた。


「私たちと情報を共有したいのなら殺すな」





――――――――――――――――



咲夜は開放され、次に会うときには偽りの無い情報を提供することを約束して霊夢と早苗はその場を後にした。

ばつが悪いのは鈴仙だ。

銃口を向けたのは早苗の命令であったにしても、自分の意思が無かったというわけではなかった。

引き金も引くつもりだった。

しかしその場の空気が完全に変わった今、この湧き上がる気持ちをどこにぶつければいいのかわからなかった。


「南部街については申し訳ありませんでした」


話の糸口を探していた鈴仙にとって咲夜の謝罪は好都合であった。


「そ、そうね。正直なところ許すことが出来ない自分が居るんだけれども、このご時世だし、仕方ないと思うことにするわ」

「ありがとうございます」

「それで、鈴仙は結局どうするの?」


橙の藪から棒な質問に言葉を失う鈴仙。

抱いていた選択肢が消えてしまった今、これからの事など全く考えていなかったからだ。


「私たちと来ない?」

「え?」


鈴仙はさらに驚愕する。

普通自分たちを殺そうとしていた者を旅の供に誘うだろうか?

幼いが故の提案であろう。

しかし、その提案は鈴仙の心の片隅においていた提案でもあった。

鈴仙は考える。

自分のやりきれない気持ちと実行やりたしたい提案を上手に昇華するためにはどうすればよいか。


「私はね、あなたたちがこの町を壊したのは許せない。でも目的が何かもわからない。だからあなたたちがした事にどういった意味があるのか知りたいわ」

「ということは」

「ええ、あなたたちに大義名分があるのか知るためについていくことにするわ」

「やったー! よろしく鈴仙」

「少し含みがあるようですが、よろしくお願いします。鈴仙」


三人は固く握手を交わす。

そして橙がそういえば聞くべきことがあったと思い起こす。


「そうそう、鈴仙に聞きたいことがあるんだ。反幻想郷ここの情勢についてよくわからないから簡単には聞けなかったんだけど」

「何?」

「比那名居天子について知ってる? 彼女を探しているんだ」

「知ってるわよ。緋想天レジスタンスのリーダーでしょ?」


あっけなく判明した探し人。

橙は切羽詰った様子で鈴仙に迫る。


「その人、どこにいるの!?」

「ごめんなさい、そこまでは…」


鈴仙の返事を聞いて橙の顔が瞬時に曇る。

それを見た鈴仙は続けた。


「でも多分詳しい人なら知っているわ。その名前は――――」




―――――風見幽香。




第二章へ続く。

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